くだ)” の例文
夜半よなかに眼を覺すと、時々東のはづれで、附添つきそひのものが氷をくだく音がした。其の音がむと同時に病人は死んだ。自分は日記に書き込んだ。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わずかに残骸を示す立木も白く枯れて、半ば折れくだかれている。正面の新火山の右に、松本山が丸坊主になって小さく見える。
天地創造の話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
松栢しようはく、その他の針葉樹、その内に巻き込まるゝときは、くだけ折れ、断片となりて浮び出づ。その断片は刷毛の如くにそゝけ立ちたるを見る。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
去年の秋の所見によると塩尻から辰野へ越える渓谷の両側のところどころに樹木が算を乱して倒れあるいは折れくだけていた。
颱風雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ひとたび陣形が崩れ出すと共に、畜生の浅ましさであろう、今までの擬勢が一時にくだけて、我勝ちに逃げ出しはじめました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
らいくだかれし松のそびえて立てる」のがあり、家には戸もなく、萩薄などが生い茂っている荒廃のさまが描かれている。(原本三丁裏、四丁表の挿絵)
この一物の一発たるや、銀山くだくべし、鉄壁穿つべし、姦宄かんきの人の国に仇をなす者、之に触るればたちどころにその魄を喪ふべし、まことに稀代な珍品だ。
鉄砲 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
あるひくだけて死ぬべかりしを、恙無つつがなきこそ天のたすけと、彼は数歩の内に宮を追ひしが、流にひたれるいはほわたりて、既に渦巻く滝津瀬たきつせ生憎あやにく! 花は散りかかるを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
懐中ものまで剥取はぎとられた上、親船おやぶね端舟はしけも、おので、ばら/\にくだかれて、帆綱ほづな帆柱ほばしら、離れた釘は、可忌いまわし禁厭まじない可恐おそろし呪詛のろいの用に、みんなられてしまつたんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ウーン」と腹の中から搾り出すような声を出したかと思うと、どたりとたおれて、後頭部で腸管を圧しくだき、凡そ二時間あまりは、息を吹き返しませんでした。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
やがて落着きを充分に取り戻すと同時に、どんなみじめな思いに心が打ちくだかれるであろうか、ということが意識の奥ふかくかすかに予想はされるのではあったが。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
然も詩趣ゆたかにして、そぞろにペラスゴイ、キュクロプスの城址じようしを忍ばしむる堅牢けんろうの石壁は、かの繊弱の律に歌はれ、往々俗謡に傾ける当代伝奇の宮殿をくだかむとすなり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
しからざるものを打ちくだいて、この暗冥な雰囲気を明朗化することが絶対に必要なのである。
社会事情と科学的精神 (新字新仮名) / 石原純(著)
たとい地さけくだくとも驚かぬ覚悟を極め居たり。今更風声鶴唳に驚くべきわけもなし。然れども余は驚きたり。驚きたりとて心臓の鼓動を感ずるまでに驚きたるにはあらず。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
……しかもそのくだかれたゆめのはざまを、参詣者だけは、ぞろぞろ群をなしてあるいている。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
我欲は充分折ってくだいて思案を凝らして来たものの、なお汝の了見も腹蔵のないところを聞きたく、その上にまたどうともしようと、我も男児おとこなりゃきたな謀計たくみを腹には持たぬ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くだきて我が妻のやまひ平癒へいゆ成さしめ給へと祈りしかば定まりある命數めいすうにや日増ひましつかおとろへて今は頼み少なき有樣に吉兵衞は妻の枕邊まくらべひざさしよせ彼是かれこれと力をつけ言慰いひなぐさめつゝ何かべよくすり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
の千石船は黒潮にも赤潮にもくだかれずに漂う力をもっていることを願って居ります。
ほんのくだけが飛ばっちりになったに過ぎないのでございましょう、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
一昨年の春わたくしは森春濤の墓をはらいに日暮里の経王寺に赴いた時、その門内に一樹の老桜の、幹は半からくだかれていながら猶全く枯死せず、細い若枝のさきに花をつけているのを見た。
上野 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
詩神は蒼茫たる地中海を渡り、希臘ギリシアの緑なる山谷の間にいたりぬ。雅典アテエンは荒草斷碑の中にあり。こゝに野生の無花果樹いちじゆくくだけ殘りたる石柱をおほへるあり。この間には鬼の欷歔ききよするを聞く。
たかしはそれを見終わると、絶望に似た感情で窓を鎖しにかかる。もう夜を呼ぶばかりの凩に耳を澄ましていると、ある時はまだ電気も来ないどこか遠くでガラス戸のくだけ落ちる音がしていた。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ある朝のこと、まだ床の中に眼覺めたまゝでゐると、向うの双子山の麓のところで山を崩して地ならしをしてゐる、岩をくだく鐵槌の音が靜かに山に反響してゐるのが長閑に枕にひゞいて來る。
箱根の山々 (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
棍棒ばうぎれのやうに揮𢌞ふりまはして、われ我手わがてこの腦天なうてんをばくだきゃせぬか? あれ/\! チッバルトの怨靈をんりゃうが、細刃ほそみられた返報へんぽうをしようとて、ロミオを追𢌞おひまはしてゐるのがゆるやうぢゃ! あ、あれ
『韓詩外伝』に〈楚熊渠子ゆうきょし夜行きて寝石を見る、以て伏虎と為し、弓をきてこれを射る、金を没し羽を飲む、下り視てその石たるを知る、またこれを射るに矢くだけ跡なし〉とある方が一層古い。
くだけて沈みし宝を、われ等がために
抑えくだく力も意志も授けられぬ許りに
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
伝統と因習の殻を踏みくだ
(新字新仮名) / 今村恒夫(著)
あゝよしさらば枝もくだけて
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
梁木それくだけんか
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
らんくだく白露のもと
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田口はそうですかと、おだやかに敬太郎の返事を聞いただけで、少しも追窮する気色けしきを見せなかったが、急にくだけた調子になって
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なまじっか唐松の林に蔽われていたばかりに、無慙にもくだかれたその残骸が、灰にまみれているのが傷ましい姿に見える。
天地創造の話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
らいくだかれし松のそびえて立てる」のがあり、家には戸もなく、萩薄などが生い茂っている荒廃のさまが描かれている。(原本三丁裏、四丁表の挿絵)
左の肩の骨が少しくだけたとかで、手が緩縦ぶらぶらになつてしまつたの、その外紫色のあざだの、蚯蚓腫めめずばれだの、打切ぶつきれたり、擦毀すりこはしたやうな負傷きずは、お前、体一面なのさ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
地廻りの若い者たちに岡焼おかやきをさせた愛嬌のあるおかみさんと、お世辞のよい御亭主と、その間の可愛らしい子供から成り立った平和な家庭が、根柢からくだけてしまいました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……しかもそのくだかれたゆめのはざまを、参詣者だけは、ぞろぞろ群をなしてあるいている。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
この岸壁だけを見ていると、実際天柱てんちゅうくだけ地軸も折れたかという感じが出るが、ここから半町とは離れない在来の地盤に建てたと思われる家は少しも傾いてさえいないのである。
静岡地震被害見学記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大聖威怒王だいしやうゐぬわう折伏しやくぶくの御劒をも借り奉り、迦楼羅かるらの烈炎の御猛威おんみやうゐにもり奉りて、直に我が皇の御敵を粉にも灰にもくだき棄て申すべし、さりながら皇の御敵の何処いづくの涯にもあらばこそ
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
抵抗てむかひらずはだかにされて、懷中くわいちうものまで剥取はぎとられたうへ親船おやぶね端舟はしけも、をので、ばら/\にくだかれて、帆綱ほづな帆柱ほばしらはなれたくぎは、可忌いまはし禁厭まじなひ可恐おそろし呪詛のろひように、みんなられてしまつたんです。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鳥の翼は忽ちをさまり、忽ち放たれ、魚の背は浮ぶかと見れば又沈みつ。數分時の後、雙翼靜に水を蔽ひて、鳥は憩ふが如く見えしが、俄にはたゝく勢に、偏翼くだけ折るゝ聲、岸のほとりに聞えぬ。
伝統と鉄鎖を打ちくだ
プチロフ工場 (新字新仮名) / 今村恒夫(著)
こぶしの如きこぶのつきたる鉄棒を片手に振りかざして骨もくだけよと打てば馬も倒れ人も倒れて、地を行く雲に血潮を含んで、鳴る風に火花をも見る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いづれか我が住みし家ぞと立ちまどふに、ここ八〇二十ばかりを去りて、らいくだかれし松のそびえて立てるが、雲の星のひかりに見えたるを、げに八一我が軒のしるしこそ見えつると
尖りあふのは互に詰らぬこと、まんざら敵同士でもないに身勝手ばかりは我も云はぬ、つまりは和熟した決定けつぢやうのところが欲い故に、我慾は充分折つてくだいて思案を凝らして来たものゝ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
土器かわらけくだくがごとし、いざ引出物取らせんと
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
けれども残酷むごたらしくくだかれたその花と茎のあわれな姿を見るや否や、彼はすぐまた一種の果敢はかない気分に打ち勝たれた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身にもえまいとまでにしたったり、浮世をいとまでに迷ったり、無い縁は是非もないと悟ったりしたが、まだどこともなく心が惹かされていたその古い友達の太郎坊も今宵はくだけて亡くなれば
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
土噐かはらけくだくがごとし、いざ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
盃の底に残れる赤き酒の、まだらに床を染めて飽きたらず、くだけたる觥片こうへんと共にルーファスの胸のあたりまで跳ね上る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)