振切ふりき)” の例文
と、いうことは素気そっけないが、話を振切ふりきるつもりではなさそうで、肩をひとゆすりながら、くわを返してつちについてこっちの顔を見た。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思わずかっとなって、彼は拳を固め人々を押分けて飛出そうとする。背後うしろから引留める者がある。振切ふりきろうと眼をいからせて後を向く。子若しじゃく子正しせいの二人である。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
やはらかきひとほどはつよく學士がくし人々ひと/″\なみだあめみちどめもされず、今宵こよひめてとらへるたもとやさしく振切ふりきつて我家わがやかへれば、おたみものられしほどちからおとして
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「まだ話があるけれども、実は僕の妻が君に逢いたいそうで待っているから、かわる」というので、振切ふりきるようにして友達の霊は無くなりまして、今度は細君が出て来た。
と止める手先てさき振切ふりきつて戸外そとへ出る途端とたんに、感が悪いから池の中へずぶりはまりました。梅
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その仔細を知らぬ番人夫婦は、余りお早いではありませんか、せめてモウ五六日、せめて殿様がおいでになるまで、とことばを尽して抑留ひきとめたが、私はモウ気が気でない、無理に振切ふりきって逃げて帰った。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
恋い慕うものならば、馬士うまかたでも船頭でも、われら坊主でも、無下むげ振切ふりきって邪険じゃけんにはしそうもない、仮令たとえ恋はかなえぬまでも、しかるべき返歌はありそうな。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ものいはゞ振切ふりきらんずそでがまへあざけるやうな尻目遣しりめづか口惜くちをしとるもこゝろひがみか召使めしつかひのもの出入でいりのものゆびればすくなからぬ人數にんずながら一人ひとりとして相談さうだん相手あひてにと名告なのりづるものなし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と袖にすがるのを振切ふりきってきますから、おいさは欄干らんかんに縋って重二郎を見送りしまゝ、ワッとばかりに泣き倒れました所へ、お兼が帰ってまいり、漸々よう/\いたわり連立つれだってうちへ帰りました。
こと今朝けさ東雲しのゝめたもと振切ふりきつてわかれやうとすると、お名残なごりしや、かやうなところうやつて老朽おひくちるの、ふたゝびおにはかゝられまい、いさゝ小川をがはみづとなりとも
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たか胸先むなさきくつろげんとする此時このときはやし間一髮かんいつぱつ、まちたまへとばかりうしろ藪垣やぶがきまろびでゝ利腕きゝうでしつかとをとこれぞはなしてなしてと脆弱かよわにも一心いつしん振切ふりきらんとするをいつかなはなさず
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うない、それうない、お前樣まへさま、」と押附おしつけにつたこゑに、振切ふりきつてはあしちからこもる。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つとちてやの出給いでたまふを、ひすがりてそでをとれば、はなさぬか不埒者ふらちもの振切ふりきるを、お前樣まへさまどうでも左樣さやうなさるので御座ござんするか、わたし浮世うきよものになさりまするおか、わたくし一人ひとりもの
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とりさまへ諸共もろともにとひしをみち引違ひきたがへてかたへと美登利みどりいそぐに、おまへしよにはれないのか、何故なぜ其方そつちかへつて仕舞しまふ、あんまりだぜとれいごとあまへてかゝるを振切ふりきるやうに物言ものいはずけば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)