そよ)” の例文
新字:
かりしほと麥は刈られぬ。刈麥の穗麥は伏せて、畝竝うねなみにさららと置きぬ。麥刈ればそよぐさみどり、うねにすでに伸びつる陸稻をかぼならしも。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
向ふの側にも柿の樹があツて、其には先ツぽの黄色になつた柿が枝もたわゝにツてゐた。柿の葉はかすかそよいで、チラ/\と日光ひかげが動く。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
又、萬有のすぐれてめでたき事もくうにはあらず又かのうつ蘆莖あしぐきそよぎもくうならず、裏海りかいはまアラルのふもとなる古塚ふるづかの上に坐して
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
早めて歩行あゆめども夏の夜のふけやすく早五時過いつゝすぎとも成し頃名に聞えたる坂東太郎の川波かはなみ音高く岸邊きしべそよあしかや人丈ひとたけよりも高々と生茂おひしげいとながつゝみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
草の葉をもそよがせない程な輕い風が食後に散歩する人をばいつか星の冴えそめる頃まで遠く郊外の方へと連れて行く。
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
が、小娘こむすめわたくし頓著とんぢやくする氣色けしきえず、まどからそとくびをのばして、やみかぜ銀杏返いてふがへしのびんそよがせながら、ぢつと汽車きしやすす方向はうかうやつてゐる。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その時ベルナルドオは忽ち聲朗かに歌ひはじめたり。少女は聲をしるべに隣の亭に入りぬ。きぬそよぎと共に接吻の聲我耳を襲へり。此聲は我心をこがたゞらかせり。
面倒な日が西の林に落ちた時にやつと日光を遮る一日の役目を果した草木は快げに颯々とそよぎはじめる。それから幾十分の後に漸く百姓の暇な時間が來るのである。
芋掘り (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
衣絞えもんあかるく心着こゝろづきけむ、ぎん青海波せいかいは扇子あふぎなかばほたるよりづハツとおもておほへるに、かぜさら/\とそよぎつゝ、ひかり袖口そでくちよりはらりとこぼれて、窓外さうぐわいもりなほうつくしきかげをぞきたる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いけあしそよぎにうつくしい小波さゞなみちました——ガラ/\茶碗ちやわんはチリン/\とひゞすゞに、女王樣ぢよわうさま金切聲かなきりごゑ牧童ぼくどうこゑへんじました——して赤兒あかごくさめ、グリフォンのするどこゑ其他そのた不思議ふしぎ聲々こゑ/″\
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
浪どよみ風のそよめける音をしむる心地して
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
肩なる髮は鹿子菜ひるむしろの如くそよぐ。
そぞろごと (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
木々きゞそよぎぬそでりて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
然し突然、此の感激の頂上沒我の天國から、再び私を現實の地上に突落すものは、車の音でも、汽笛の響でも、人の足音でも、犬の聲でも、風のそよぎでもない。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
……つてゐるのは、あきまたふゆのはじめだが、二度にど三度さんどわたしとほつたかずよりも、さつとむらさめ數多かずおほく、くもひとよりもしげ往來ゆききした。尾花をばななゝめそよぎ、はかさなつてちた。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
吾心頭には稻妻の如く昔のおそろしかりしさま浮びたり。またゝくひまに街の兩側に避けたる人の黒山の如くなる間を、兩脇より血を流し、たてがみそよぎ、口よりあわ出でたる馬は馳せ來たり。
而ると何といふことは無く其所らが怖ろしくなつて、かすか惡寒をかん身裡みうちそよいで來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
荒野あれのの吐息まじり、夕されば風そよ高木かうぼくゆるぎも加はるそのこゑよりも繁きは
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
畑には麥の穗が一杯に出揃つて快げにそよいて居る。菜の花がところ/\に麥畑から拔け出してさいて居る。畑の境の茶のうね/\には白い菅笠がならんで麥の穗の上にふわ/\と動いて居る。
芋掘り (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あまにしきそよ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
本郷の高臺にすさまじく燃え立つ夕陽ゆふひの輝き、其れが靜り返つた池の水に反映する強烈な色彩、散歩する人々の歩調あしなみ、話聲、車の往來ゆきき、鳥の啼く聲、蓮の葉のそよ
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
……若葉はそよぎ、一聲いつせいほのかに、さゞめき低く、物音ものおとして……
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
テヱエル河に生ふる蘆の葉は風にそよぎて
それに伴ひ玉蜀黍の茂つた葉の先やら、熟した其實を包む髯が絶えず動きそよいでゐて、大きな蜻蜓とんぼがそれにとまるかと見ればとまりかねて、飛んで行つたり飛んできたりしてゐる。
虫の声 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)