必定ひつじょう)” の例文
だから草を結んで蓑を作った歴史は甚だ古い。だが蓑は日本で生れたものか、これも必定ひつじょう支那からおそわった技であったと考えられる。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すれば、五日の夜は必定ひつじょう上野介在宿にきわまったというので、討入はおおよそその夜のことになるらしい大石殿の口ぶりでもあった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
御意ぎょいにござりまする。いまこの小娘を血祭りにするときは、ふたたびまえにもてあましたる野武士のぶしが、復讐ふくしゅうおそうてくること必定ひつじょう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
必定ひつじょう今後もその必要があるまい。しかし自分の貞操観とでもいうものを述べようとすれば自分の経験を基礎として筆を進めるより外はない。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
その秋がくれば、草木の性質として花を咲かす機会到来は必定ひつじょう。けだし去年の花はしまったく散りおわっても、根さえ枯れずに健全なれば。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
筮者曰く、『その一言にて疑いを解けり。足下は人を救助せし積善の余慶をもって、天はことにそのひとたび必定ひつじょうせる寿命を延長したるなり』
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
胡地こちにあって単于と刺違えたのでは、匈奴きょうどおのれの不名誉を有耶無耶うやむやのうちに葬ってしまうこと必定ひつじょうゆえ、おそらく漢に聞こえることはあるまい。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
『中阿含経』十六に大猪おおぶた五百猪に王たり嶮難道を行くうち虎に逢う、虎と闘わば必定ひつじょう殺されん闘わねば子分輩に笑われんいかにすべきとおもうて
あの狭い棚のような場所で、争いを続けたなら、負けた方が、今度こそ、真逆様に、地面へ墜落して、命を失うは必定ひつじょうだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「とにかく近頃の如く御馳走の食べ続けにては、さすがの小生も遠からぬうちに大兄の如く胃弱と相成あいなるは必定ひつじょう……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、ここで、そなたが、普留那ふるなの弁口をふるうて、西の米をどしどし売らせたなら、米価は、一どきに低落し、長崎屋方は、総くずれになるは必定ひつじょうだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
神職 いずれ、森の中において、いまわしく、汚らわしき事をいたしおるは必定ひつじょうじゃ。さて、婦。……今日きょうは昼からこもったか。真直まっすぐに言え、御前おんまえじゃぞ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは必定ひつじょう、狐狸のいたずらに紛れもない、以後の見せしめにらしてくれんずと、ある夜更けて、二三の番僧が、棒を構えてこの廊下に待受けていた。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雪がきえしだいかみがたぜいとの取り合いになるのは必定ひつじょうでござりますので、おしろの中はその御用意にいそがしく、みなさまがそわ/\しておられます。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あれは犬じゃ烏じゃと万人の指甲つめはじかれものとなるは必定ひつじょう、犬や烏と身をなして仕事をしたとて何の功名てがら
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「知れたことじゃ。今宵にもお上よりお差し紙が参るは必定ひつじょう、お手討、禄は没収、家名は断絶で御座るぞ」
倉子もの夜両隣の細君と共に我家に留りし事なれば実際此罪に手を下せし者にあらぬは必定ひつじょうなり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
考えて見れば、これが生の充実という現代の金口きんく何等なんらの信仰をも持たぬ人間の必定ひつじょうちて行く羽目はめであろう。それならそれを悔むかというに、僕にはそれすら出来ない。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
されどもかかる夜中にひとりこの辺にべき道理なければ、必定ひつじょう化物ばけものならんと思い定め、やにわに魚切庖丁うおきりぼうちょうを持ちて後の方より差し通したれば、悲しき声を立てて死したり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
国の乱れとなるは必定ひつじょう! それでもお手討ち致さるるか? よもやお手討ちはなりますまい!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
然らずんば、人間の腹より出でたる犬豕けんしを生ずること必定ひつじょうなり。かか化物ばけものは街道に連れ出して見世物となすには至極面白かるべけれども、世の中のためには甚だ困りものなり。
家庭習慣の教えを論ず (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それがお半に知れると、自分のことを棚にあげて信次郎を責める。信次郎も音造の一件をたてに取ってお半を責める。こういう風にこぐらかって来ると、ひと騒動おこるは必定ひつじょう
これ必定ひつじょう、駈落の侍が路用ろようの金なるべしと心付き候へば、なほ更空恐しく相なり、後日ごじつの掛り合になり候ては一大事と、そのまゝ捨て置き立去らむと致せしが、ふとまた思直おもいなおせば
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
暫時しばらくして彼方かなたより、茶色毛の犬の、しかも一そくえたるが、覚束おぼつかなくも歩み来ぬ。かねて和主が物語に、かれはその毛茶色にて、右の前足痿えしとききしかば。必定ひつじょうこれなんめりと思ひ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「此処で手をつかねて捕えられる筈はありません、みついて来ることは必定ひつじょうですよ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつか小歌が落語はなしが面白いと云ったことをおもい出して、必定ひつじょうそれと自分もうか/\寄席へ這入り、坐を定めかねて立って居た今の両人ふたりの前へ廻って見ると、似ても似つかぬ三十近い薄痘痕うすあばた
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
同時に列強としても某国を人道上の大敵として即時に共同戦線を張らなければならないことになるのは必定ひつじょうであって結局某国としてはこの怪計画に関し極度に秘密性を保つ必要があったのである。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何方どっちが西か東か一向見分けも付かぬくらいで、そこらに船でもあれば、船は微塵みじんと砕けるは必定ひつじょうに三人の命は風前の燈火ともしびの如くであります。流石さすが鉄腸強胆てっちょうごうたんな文治も、思わず声を挙げまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「髄を得ること法を伝ふること、必定ひつじょうして至誠により信心による。」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
もしこれを模倣もほうする者あらば直ちに邪路におちいること必定ひつじょうなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
美しい材料ですし、自然のが既に模様をなしているのですから、あとはよい形さえ与えればよい仕事となるのは必定ひつじょうであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
必定ひつじょう——怨みをふくんで、謀叛むほんするにちがいない。備えをなさぬうち、菩提山をとり囲んで、彼奴きゃつの城を召し上げてしまえ)
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
筮者曰く、『その一言にて疑いを解けり。足下は人を救助せし積善の余慶をもって、天はことにそのひとたび必定ひつじょうせる寿命を延長したるなり』
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
荻野山中おぎのやまなかを騒がしたのも、必定ひつじょうかれらの所業、いつ、何をしでかすかわからない、それを十分ににらんでいながら、譲が自ら手を下して彼等を捕えようともせず
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
頭痛がするで遅くなりましたとみんな怠惰なまけられるは必定ひつじょう、その時自分が休んで居れば何と一言云いようなく、仕事が雨垂あまだれ拍子になってできべきものも仕損しそこなう道理
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三四郎は必定ひつじょう喧嘩と思ひ込んだ。風呂敷包をげた儘、仕切りの唐紙からかみするどく一尺許けてきっと覗き込んだ。広田先生が茶の袴を穿いた大きなをとこに組みかれてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いずれはお膝を汚し奉ったことも、御上聞に達するは必定ひつじょう、さすれば身の潔白もお申し開き仕り、御前に於て黒白のお裁き願い、君側の奸人かんじんどもおきよめ奉ろうとの計らい
君寵くんちょうを奪おうと、日頃からねらいに狙っている女性にょしょうたちの耳に、この真相が達した破目には、まるで蜂の巣を、突付きこわしたような騒動が起るは必定ひつじょう——しかも、それが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
去年三月の片手落ちなおさばきから見ても、また今度の大学様の手重い御処分から見ても、吉良家に乱入したものをそのまま助けておかれるはずはない。必定ひつじょう一党の死はきわまった!
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
何がさて母君はとくに世に亡き御方おんかたなれば、出来ぬ相談と申すもの、とても出来ない相談の出来ようはずのなきことゆえ、いかなる鼻もこれには弱りて、しまいに泣寝入となるは必定ひつじょう
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さてしばらくみ合いまするうちに、猛獣のいずれかが傷つくは必定ひつじょう、さあ、一たん血を見ますると、肉にえたる彼らは、俄然がぜんとしてその兇暴きょうぼう性を増しきたり、ついには敵の喉笛のどぶえ
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幸いにしてその時、徳川の政府にてこの乱暴人を刑に処したればこそ無事に治まりたれども、もしもこれをゆるすことあらば、吉良家の一族また敵討ちとて赤穂の家来を殺すことは必定ひつじょうなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
死せし後にも此悪人を捕われさせ我があだかえさんとの念あること必定ひつじょうなれば顔に恐ろしき怨みの相こそ現わるれ笑の浮ぼうはず万々ばん/\無く親友に話を初んとするが如き穏和の色の残ろう筈万々なし
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
御嶽の山砦さんさいに立ち帰りなば人質に引かれて伊那の一族、冠者の旗下みかたとなるは必定ひつじょう、それに冠者もまた伊那家も、木曽に対しては深讐あり、二党揃って押し寄せなば、木曽の没落は眼前にありと
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
痩せた坊主は終夜休まず走って朝方荘官しょうかん方へ著き、怪しからぬ屠家へ宿った、同伴は続いて来ぬから殺されたは必定ひつじょうと訴え出たので、荘主フォルス卿、急ぎ人を馳せて検察せしむると右の始末と
方々の申さるゝ処も御尤ごもっともではござるけれども、伏見の大殿は御心早き大将軍にておわします、もし君の御謀叛を必定ひつじょうと思し召して攻め滅ぼそうとし給うのなら、斯様に延び/\とすることなく
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
われわれの祖先にとってはこれほどこわいことはない。悪く落ちれば絶命は必定ひつじょうであるが、幸い途中の枝にでもかかれば生命だけは助かる。しかるに助かった者には永久忘れがたい恐しい経験である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そは余の儀にあらず、師家より伝書を贈りきたるはずなるが、拙者かくなり果てし上は、つまらぬ者の手に渡るは必定ひつじょうなり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
必定ひつじょうはこよいのうちに海津の大軍、城を出てわれに戦いを仕掛くる意志と見えた。——うれしや、よろこばしや、時は来たぞ
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからその蒐集にはい品があるのは必定ひつじょうだが、しかし自身で見届けての上ではない。むしろ評判の高くないようなものは買えないのだ。買う眼がないのだ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)