徒歩かち)” の例文
里見義胤よしたねの一号令に、旗本隊はざッと一せいに騎を降りて、そして同じく、徒歩かちとなって一人彼方へ行く義貞の背を見まもっていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お将軍さまがお鷹野たかのや、ゆうべのように外出あそばさるときに、お徒歩かちでお守り申し上げる役目と相場が決まってるんでがしょう。
御用提燈を振り照らし、騎馬と徒歩かちで数十人、ムラムラと行く手へ現われた。七ツ寺附近の騒動を、取り鎮めに向かう人数らしい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「自動車のお蔭で大変時間が余ったね。今度は徒歩かちつぶさに下情を視察するんだから、少し涼しくなるまで寛ろごうじゃないか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
元來余が郷土といふのは江戸へ荷物を運ぶにも鬼怒川から船で下せば二日でとゞく。徒歩かちで行つても日のあるうちに千住へつく。
菠薐草 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かれらの徒歩かちわたりをし、みずかきでもありそうな、沼地をよちよち走りまわる足のかかとにマーキュリーのつばさでもはえないかぎりは。
先に立つ二人の徒歩かちのすぐ後に、拳へ、鷹を止めた二人の鷹匠が、裏金の笠に、小紋の鷹野支度をして、馬上で、つづいていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
やがてはてしもなく広い砂原へ来ますと、わだちが砂の中へ沈んで一歩も進まなくなりましたから、今度は馬車を乗り棄てて徒歩かちで行きました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
供の男たちは徒歩かちで陸を帰り、主人側三人と女中三人は船で帰ることになって、船頭の千太が船を漕いで、小名木おなぎ川をのぼって行きました。
今日はどうかパーリー城まで着きたいものであると思うて余程急いで馬を走らしたけれども、何分下僕しもべ徒歩かちですから追付くことが出来ぬ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
木幡こばたの山に馬はいかがでございましょう(山城の木幡の里に馬はあれど徒歩かちよりぞ行く君を思ひかね)いっそうおうわさは立つことになりましても
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「御本人はお馬に召しておいでになりましたが、若いお娘さんが一人、お駕籠かごで、それからお附添らしい御実体ごじっていなお方は徒歩かちでございました」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
我は一者ひとりの前を走れる千餘の滅亡ほろびの魂をみき、この者徒歩かちにてスティージェを渡るにそのあしうら濡るゝことなし 七九—八一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今度は日本橋を振出しに、徒歩かちで東海道に向いますつもり。——以来は知らず、どこへ参っても、このあたりぐらい、名所古蹟はございませんな。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帰路かえりは二組に分かれ一組は船で帰り、一組は陸を徒歩かちで帰ることにして、僕は叔父さんが離さないので陸を帰った。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
徒歩かちでゆく役人連の後には箱馬車が何台もつづき、その窓からは喪服用の頭巾をかぶった婦人連の顔が見えていた。
源三郎の白馬を先頭に、安積玄心斎、谷大八、脇本門之丞、その他、おもだった連中が馬で、あとの者は徒歩かちです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
谷川を徒歩かちわたりし、岩山をよじ登り、絶壁を命綱にすがって下り、行手の草木を伐開きりひらきなどして、その難行苦行と云ったら、一通りではないのであった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
どんなことがあっても、いずれかの桝形ますがたか木戸で誰何すいかされ、お改めをうけなければならぬはずなのに、乗物にも徒歩かちにも、それがぜんぜん通っていない。
赤地にしきの直垂ひたたれ緋縅ひおどしのよろい着て、頭に烏帽子えぼしをいただき、弓と矢は従者に持たせ、徒歩かちにて御輿みこしにひたと供奉ぐぶする三十六、七の男、鼻高くまゆひい
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
私達はそこからみな徒歩かちになつて、おぼろな弓張提燈の導くのをたよりに、足許に氣をとられながら、揉まれ揉まれてのぼつて行く棺のあとに續きました。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
しかし、ず第一に、その怪物はおそろしく速いので、彼は徒歩かちで闘っては、とうてい勝てないと思いました。
かごで、舟で、徒歩かちで、江戸中からむれて来た老若、男女で、だんまりの場が開くころには、広大な中村座の土間桟敷どまさじき、もはや一ぱいにみたされているのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
噺家はなしか、たいこもち、金に糸目をつけぬ、一流の人たちがおもな役柄に扮し、お徒歩かち駕籠かごのもの、仲間ちゅうげん長持ながもちかつぎの人足にんそくにいたるまで、そつのないものが適当に割当てられ
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
長等ながら山の山おろしに吹かれて立ちさわいでいる浪に身をのせて、志賀の浦のなぎさに泳いで行くと、徒歩かちで行く人が着物のすそを濡らすほどみぎわ近くを往来するのにおどろかされて
見ると、成程、二疋の鞍置馬を牽いた、二三十人の男たちが、馬に跨がつたのもあり徒歩かちのもあり、皆水干の袖を寒風に翻へして、湖の岸、松の間を、一行の方へ急いで来る。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
徒歩かちで行けば其処そこから東京まで三里位しかないという河岸かしに来て、船頭はまた船をつないだ。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ドミトリイ・フョードロヴィッチは、きのう時刻も日取りも知らしてあったのに遅刻した。一行は馬車を囲いの外の宿泊所に乗り捨てておいて、徒歩かちで修道院の門をはいった。
武男が母は、名をおけいと言いて今年五十三、時々リュウマチスの起これど、そのほかは無病息災、麹町上こうじまちかみ番町ばんちょうやしきより亡夫の眠る品川しながわ東海寺とうかいじまで徒歩かちの往来容易なりという。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
少くとも勇敢な軍人達は、九分通り鞭をすてて徒歩かちであるくにきまつてゐる。岡山県知事香川氏の如きも、馬の前に立ちどまつて、お辞儀をする位の愛嬌を見せたかも知れない。
徒歩かち(勝)で行かずに飛んで行けと、許されたる飛行の術、使えば中仙道も一またぎ、はやなつかしい上田の天守閣、おお六文銭の旗印、あのヒラヒラとひるがえること、おお
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
この日酉の下刻に町奉行筒井伊賀守政憲つついいがのかみまさのりが九郎右衛門等三人を呼び出した。酒井家からは目附、下目附、足軽小頭に足軽を添えて、乗物に乗った二人と徒歩かちの文吉とを警固した。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
徒歩かちだった。木山まで下ると、山から野に出る。彼等は川堤かわつつみを水と共に下って往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
み寺に行く路は遠くとも、必ずともに素足にて徒歩かちまうでかし。なんぢの白いあなうらもつめたい土壤と接觸するときに、兄の戀魚はまあたらしい墓石の下によろこびの目をさます。
散文詩・詩的散文 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
良人おっとは吹きすさぶ風を物ともしずに終日馬上に駆けめぐり、或は冬の乾ききった大気を息づまるほど満喫し、或るときは徒歩かちうねあぜわたり、樹の枝に髭を撫でられそうな森林の中を
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
御附の人々、大佐、知事、馬博士などは車、参事官、郡長、郡書記、その他の官吏は徒歩かち、つづいて「ファラリイス」の駒三十四頭、牝馬二百四十頭、牡馬の群は最後にしたがいました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兵部大輔ひやうぶたいふ大伴ノ家持は、偶然この噂を、極めて早く耳にした。ちようど春分しゆんぶんから二日目の朝、朱雀大路を南へ、馬をやつて居た。二人ばかりの資人とねりが、徒歩かちで驚くばかり足早について行く。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
もとより慣れぬ徒歩かちなれば、あまたたび或は里の子が落穗おちぼ拾はん畔路あぜみちにさすらひ、或は露に伏すうづらとこ草村くさむら立迷たちまようて、絲より細き蟲のに、覺束なき行末をかこてども、問ふに聲なき影ばかり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
和津わつに馬のりすてて青丹よし奈良路を近み徒歩かちゆわれきぬ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
「附いて行つた人達は駕籠かい、それとも徒歩かちかい」
もし徒歩かちを厭わぬ人なら、却って楽しみです。
女の話・花の話 (新字新仮名) / 上村松園(著)
対岸の正面よりやや下流手しもての岸から、一隊の敵が、騎馬徒歩かちをまぜておよそ千二、三百、一陣になって、河を斜めに、駈けわたりだした。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上下五人の荷物は両掛けにして、問屋場の人足三人がかついで行く。主人だけが駕籠に乗って、家来四人は徒歩かちで附いて行く。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
するとこの時山つづきの、横手の森から鬨の声が起こり、赤き旗三ながれひるがえり、七百あまりの将卒つわものが、騎馬、徒歩かちにて走り出して来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それに従うた家来が十人ばかり、いずれも徒歩かちでありました。この一行は勢いよく表門を乗り出して、八日市通りを東に向って練り出しました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
薄く、低く、土煙をげて、片側並木の、田圃道から、村の中へ、三十人余りの、乗馬うまと、徒歩かちの人々が、入って来た。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
徒歩かちの人は幾人、乗物の人は幾人、両方あわせて一体どの位あるだろうと、人数をかぞえたりしていたが、彼等の主人は、誰に会っても知った顔をするな
かくのごとき険山を降り昇りして居るんですが私どもはなかなかチベット人の半分もない肺を持って居るのですから徒歩かちで上ることは思いも寄らんことです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
もつとかれまへにもくるまつゞいた。爾時そのときはしうへをひら/\肩裾かたすそうすく、月下げつか入亂いりみだれて對岸たいがんわたつた四五にんかげえた。其等それら徒歩かちで、はやめに宴會えんくわいした連中れんぢう
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おくれて駕籠や徒歩かちの連中もみな到来した。伊賀勢は、ここに思わぬ大集団となったのである。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)