庖丁はうちやう)” の例文
「それすんぢやねえ、かねえとこれつてやんぞ、あかまんまがるぞおゝいてえ」などとおつぎのいふのがきこえた。そのたび庖丁はうちやうおとむ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
蒲團ふとんをすつぽり、炬燵櫓こたつやぐらあし爪尖つまさきつねつてて、庖丁はうちやうおときこえるとき徐々そろ/\またあたまし、ひと寢返ねがへつて腹這はらばひで
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
土産みやげ林檎りんごを五ツ六ツ買つて来たのを、ゆき子は開いて、庖丁はうちやうを探してむいた。くるくるとむきながら、ゆき子は鼻の奥の熱くなるやうな気がした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
さけ時節じせつにて、小千谷をぢや前川ぜんせんは海にてうするの大河なれば今とりしをすぐに庖丁はうちやうす。あぢはひ江戸にまされり。一日さけをてんぷらといふ物にしていだせり。
なかには見掛みかけわるかたちのものもまじつた。へんなのが出來できるたびにきよこゑしてわらつた。小六ころく庖丁はうちやう濡布巾ぬれぶきんあてがつて、かたみゝところりながら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「いえ、お隣は皆んな駒形へ行つて留守ですし、他の人達をお騷がせするのもお氣の毒ですから、お勝手へ飛んで行つて庖丁はうちやうを持出し、それで細引を切りました」
お母さんは、炬燵こたつの上に庖丁はうちやうとおこがしを、用意してゐた。おこがしは柿へつけて食べるのだ。
お母さんの思ひ出 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
夜中に出齒庖丁はうちやうでももつて、たか子が上つて來はしないかと思ふと、眠れないのだ。
三十五氏 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
賣喰うりぐひなし迂濶々々うか/\活計くらして居たりしが吉兵衞倩々つく/″\思ふ樣獨身成ば又元の出入の家々へ頼みても庖丁はうちやうさへ手にもつならば少しもこまらぬ我が身なれど此兒の有故家業かげふも出來ず此上居喰にする時は山を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もちは四かく庖丁はうちやうれるとぐに勘次かんじ自分じぶん枕元まくらもとをけしまつて無斷むだんにはおつぎにさへすことを許容ゆるさないのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さけ時節じせつにて、小千谷をぢや前川ぜんせんは海にてうするの大河なれば今とりしをすぐに庖丁はうちやうす。あぢはひ江戸にまされり。一日さけをてんぷらといふ物にしていだせり。
伸餠のしもち夜業よなべまないたちやまでして、みんなでつた。庖丁はうちやうりないので、宗助そうすけはじめから仕舞しまひまでさなかつた。ちからのあるだけ小六ころく一番いちばんおほつた。そのかは不同ふどう一番いちばんおほかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
庖丁はうちやうを学ばざるも、卿等が其美を以てすれば、天下にまた無き無上権を有して、抜山蓋世ばつざんがいせの英雄をすら、掌中にろうするならずや、百万の敵も恐るゝに足らず、恐るべきは一婦人いつぷじんといふならずや
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
少し薄暗い造りですが、大きな流しや、荒い格子や、磨き拔かれた釜や鍋や、よくきれさうな庖丁はうちやうなど、典型的な大町人のお勝手で、女主人のやかましさと、下女の働き者らしさがよくわかります。
ぬすみ出し其上そのうへ臺所だいどころへ火を付何處いづくともなく迯失にげうせけり折節をりふしかぜはげしく忽ち燃上もえあがりしかば驚破すは火事くわじよと近邊大に騷ぎければ喜八はまご/\して居たりしが狼狽うろたへ漸々やう/\屋根よりはおりたれ共あしちゞみ歩行あゆまれず殊に金子と庖丁はうちやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その庖丁はうちやうのとん/\とあひだせはしく八人坊主はちにんばうずうごかしてはさらさらとわらしごおとかすかにまじつてきこえる。おしな二人ふたり姿すがたまへにしてひど心強こゝろづよかんじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
下女げぢよひらたいおほきな菓子皿くわしざらめう菓子くわしつてた。一丁いつちやう豆腐とうふぐらゐおほきさの金玉糖きんぎよくたうなかに、金魚きんぎよが二ひきいてえるのを、其儘そのまゝ庖丁はうちやうれて、もとかたちくづさずに、さらうつしたものであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なし旅籠屋はたごやとなり夫に又兄は元より小料理これうりすきにて隨分ずゐぶん庖丁はうちやうめう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「それに、商賣柄、繩にも庖丁はうちやうにも不自由があるわけはねえ」
「驚くことなんかあるものか。手前てめえ庖丁はうちやうの心得はあるかい」