床板ゆかいた)” の例文
先生はあの小さい机に原稿のペンを動かしながら、床板ゆかいたを洩れる風の為に悩まされたと云ふことである。しかし先生は傲語がうごしてゐた。
漱石山房の冬 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
梯子段はしごだんの二三段を一躍ひととびに駈上かけあがつて人込ひとごみの中に割込わりこむと、床板ゆかいたなゝめになつた低い屋根裏やねうら大向おほむかうは大きな船の底へでもりたやうな心持こゝろもち
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ふたりは、できるだけ物音をたてないように注意しながら、部屋のまんなかの畳をめくり、その下の床板ゆかいたをとりはずしました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何が腐りただれたかと薄気味悪くなって、二階の部屋へやから床板ゆかいたを引きへがして見ると、ねずみ死骸しがいが二つまでそこから出て来て
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ヘレン・バーンズはこゝにゐなかつたし、何も私を支へてくれるものはなかつた。たつた一人になつて、私は落膽がつかりしたのだ。涙は床板ゆかいたぬらした。
床板ゆかいたのあいだから生え出している草をたんねんにむしりとり、四つの窓には四人の防水をカーテンのかわりに掛けた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あおむけにながら、足で床板ゆかいたをふみ鳴らし、口から出放題でほうだいにあたりちらしていると、その仕切境しきりざかいの板のむこうがわで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大掃除おほさうぢときに、床板ゆかいたはがすと、した水溜みづたまりつてて、あふれたのがちよろ/\と蜘蛛手くもではしつたのだから可恐おそろしい。やしき……いや座敷ざしききのこた。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その笑いのあと、かれはほかの来賓たちのほうは見向きもしないで、くつ拍車はくしゃ佩剣はいけんとの、このうえもない非音楽的な音を床板ゆかいたにたてながら、だんにのぼった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
八五郎の報告を聽き乍ら、平次はお勝手から、殺された内儀の部屋へ、念入りに床板ゆかいた、疊と見て行きます。
普通の塩水を穀倉に撒布さんぷしまた床板ゆかいたの裂け目に流し込んでおくことを教えたり、穀象虫を駆除するために
私たちは窓のないがらんどうの部屋へはいって、建物の幅木はばきを取りのけ、それから床板ゆかいたをめくると、垂木たるきの下に屑をもっておおわれたね上げの戸が発見された。
シューラは素早すばやくはねきて、毛布もうふゆかへおっぽりすと、はだしでつめた床板ゆかいたをぱたぱたと大きくらしながら、ママのところへんでき、いきなりこうわめいた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
殆ど無意識的にお巡査さんは自分が今何の上に坐つて居るかを調べる為に、手を莚の下にやつてみた。麦藁を敷きならべた上にすぐ莚が敷かれてあつて、床板ゆかいたは全く無い。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「また出水しゅっすいするだろう、それで、床板ゆかいたをぬらすし、病気びょうきるし、作物さくもつにはよくないだろう。」
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
六階建ての古いぐらぐらした家で、一方に傾いており、床板ゆかいたはきしり、天井は虫に食われていた。屋根裏に住んでるクリストフとオリヴィエとの部屋には、雨漏りがしていた。
あやしいと云うので、床板ゆかいたをめくって見るとさまざまの物をかくしてあった。訴人そにんの男の云う通り緋のでくくった袴も、長刀も出て来た。その外に、一つの古い仮面が出て来た。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私も彼の目を追いながら、いくらか明るくなって来た窓を見廻すと、気のついた事は隅の方の畳が一枚上げられ、床板ゆかいたが上げられていた。松本は飛鳥ひちょうの様にそこへ飛んで行った。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
めばぎし/\と床板ゆかいた二人ふたり足音あしおとはゞかつてをんなやみをとこ脊負せおふのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
廊下の真中まんなかで考え込んでいると、月のさしている向うのはずれで、一二三わあと、三四十人の声がかたまってひびいたかと思う間もなく、前のように拍子を取って、一同が床板ゆかいたを踏み鳴らした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとあなたは、あなたの鼻を床板ゆかいたにすりつける。彼等は順順に列んで、みんな四つ這ひになる。それは、お互ひに、人より先には出まい、人より先には着席しまい、といつたやうな風である。
奈良二題 (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
米友が縁の下で舌を出すと、忠作はその上で床板ゆかいたを踏み鳴らします。
私はヴェランダの床板ゆかいたに腰かけたきり、爺やがまた何処どこからか羊歯を運んで来るまで、さまざまな物思いにふけりながら待っていた。それからまた爺やの羊歯を植えつけるのをしばらく見守っていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
梯子段の二、三段を一躍ひととびに駈上かけあがって人込みの中に割込むと、床板ゆかいたななめになった低い屋根裏の大向おおむこうは大きな船の底へでも下りたような心持。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ガラッと、あつ車戸くるまどしあけて、そこへはいると、咲耶子と竹童は、まっくらな床板ゆかいたを手さぐりでなでまわした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立上がつて戸口の方へ探り寄らうとすると、床板ゆかいたの釘が拔けて居たものか、それとも、陷穽おとしあなの仕掛になつてゐたものか、足の下の板が一枚、パツとね返ると
……如何いかがはしいが、生霊いきりょうふだの立つた就中なかんずく小さなまと吹当ふきあてると、床板ゆかいたがぐわらりと転覆ひっくりかえつて、大松蕈おおまつたけを抱いた緋のふんどしのおかめが、とんぼ返りをして莞爾にこり飛出とびだす、途端に
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その声と同時に、小林少年は足の下の床板ゆかいたが、とつぜん消えてしまったように感じました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女の素足が床板ゆかいたを小早く掠めて遠ざかってゆくのを、彼は耳にした。彼女は自分の室にもどった。ブラウンが帰ってきてみると、彼女は寝床にねていて、眠ってるようだった。
あとひどくつてな、えんしたでもなんでもえごみが一ぺえで、そえつあゝせばえゝんだが床板ゆかいたしらかびつちやつてれがまだなか/\ねえからたゝみなんざ何時いつめるもんだかわかんねえのさ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
床板ゆかいたがそのまま椅子いすともテーブルともなっていた。
床板ゆかいたを剥ぐんだ。かしの木で、やけに丈夫だから、道具がなくちやどうにもならない」
その足音が地の下へとおざかるのを聞きながら、蚕婆かいこばばあはすぐもとのとおり床板ゆかいたむしろきつめ、壁にかかっている獣捕けものとりの投げなわをつかむが早いか、いきなりおもてへ飛びだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
往来を歩き回ってる時でも——祖父の家の床板ゆかいたの上に転がり、両手で頭をかかえて、書物の插絵に見入ってる時でも——台所のいちばん薄暗い片隅で、自分の小さな椅子いすにすわりながら
四、五名の足のばたばたばたと床板ゆかいた踏鳴ふみならす音ぞ聞こえたる。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まだ暑からぬ部屋の床板ゆかいた
「金貸しのお角の家で、自分が見當をつけて、死んだ娘の寢てゐる疊の下の床板ゆかいたを剥ぐと探し拔いた二千兩の小判が、二つ千兩箱に入つたまゝそつくり出て來たぢやありませんか」
床板ゆかいたぐるみ奈落へ行くか、上の天井がズンと落ちてくるか、一つ仕掛けの種明しをやって見せてもいい。だが、そんなことで命を無駄にするのももったいないじゃないか。ええ、お十夜。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤児あかご揺籃ゆりかごの中でうごめいている。老人は戸口に木靴を脱ぎすててはいって来たが、歩く拍子に床板ゆかいたきしったので、赤児はむずかり出す。母親は寝台の外に身をのり出して、それをすかそうとする。
つまり養子民彌の頭の上に、お縫が住んで居るわけで、若い二人が床板ゆかいたと疊とをへだてて、上と下とで、寢て、起きて、考へて、惱み、喜び、笑ひ、泣き、そして互ひの夢を夢みて居たわけです。
ほこらの内は床板ゆかいたもなく洞然とうぜんとして、六尺ばかり掘り下げてある。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、床板ゆかいたにこすりつけられたお顔が唇を噛み