ばばあ)” の例文
煮豆屋のばばあが口を利いて、築地辺の大会社の社長が、事務繁雑の気保養に、曳船の仮の一人ずみ、ほんの当座の手伝いと、頼まれた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、これて清々せいせいした。」と、お葉は酔醒よいざめの水を飲んだ。お清はあきれてその顔を眺めている処へ、のお杉ばばあの声が聞えたのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ばばあはギョロリとやかたのほうへ目をくばってから、燕作えんさくのそばへすりよって、その耳へ口をつけてなにやらひそひそとささやきだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくばばあは古くは子取尼ことりあまなどともいって、実際京都の町にもあったことが、『園太暦えんたいりゃく』の文和二年三月二十六日の条に出ている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いったい下のばばあは何者だろう——かえって茫然とした、あの罪がないような顔が、獰悪どうあく面構つらがまえよりも意味ありげに思われて、一刻も居堪いたたまらない。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この村にては通用ならぬよしの断りも無理ならねど、事情の困難を話してたのむに、いじわるばばあめさらに聞き入れず。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「この頃ちっともお三ばばあは姿を見せないではございませんか。さすが剛情のあの婆も、お師匠様にはかなわないものと諦めているのでございましょう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「学校の先生さん、いやに蒼い顔しているだア。女さア欲しくなったんだんべい」と土手下の元気なばばあが言った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかしばばあは婆、秀子さんは秀子さんだ。秀子さんが来てくれる意思があるなら、婆の反対を押えるために百方策をめぐらせても、決して不見識にはならない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
話頭はなしを変えてみたが、依然として返事をしない。眼をいて鏡の中を見ると、真青になったまま、ばばあじみた、泣きそうな笑い顔をしいしい首を縮めて鋏を使っている。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そらまた、あのとおりの悪たればばあだから始末にいけない」と心の中で慨歎がいたんしながら、後戻りをして、も一度戸を叩いて、近所へ恥かしい思いをさしてやろうかと思ったが
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「どんなことって、まるで裏長屋のばばあが井戸ばたでグズるのとことなったことはないさ」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
雪はんだ。裸虫はだかむし甲羅こうらを干すという日和ひよりも日曜ではないので、男湯にはただ一人生花いけばなの師匠とでもいうような白髭しらひげの隠居が帯を解いているばかり。番台の上にはいつも見るばばあも小娘もいない。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このチョコレットの代わりにガランスが出てきてみろ、君たちはこれほど眼の色を変えて熱狂しはしなかろう。ミューズの女神も一片のチョコレットの前には、醜い老いぼればばあにすぎないんだ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
このばばあは魔法使ひかも知れんぞと私は疑ひ出した
鳥料理:A Parody (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
ばばあめ、なか/\皮肉な事を言ひをるわい。
少年「あれは山のばばあが歌ったんですか」
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
よくばりばばあのお葛籠つづら
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
小さなまげ鼈甲べっこうの耳こじりをちょこんとめて、手首に輪数珠わじゅずを掛けた五十格好のばばあ背後向うしろむきに坐ったのが、その総領そうりょうの娘である。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忌々いまいましいとは思うけれど、ばばあの云うことはたしか真実ほんとうである。市郎も少しくひるんだが、ここで弱味を見せては落着おさまりが付かない。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、手につかんでいた秘帖を、スルリと引っぱられたが、ばばあがあずかるつもりだろう——と思ってわたしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菓子屋のばばあは「今月は少しゃ入れてもらわねえじゃ——よく言ってくんなれ」と学校の小使に頼んだ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しこの婆さんの笑いが毒々しい笑いで、面付つらつき獰悪どうあくであったら私はこの時、憤怒ふんどしてなぐとばしたかも知れない。いくら怖しいといったって、たかが老耄おいぼればばあでないか。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
俄盲目にわかめくらと馬鹿にして、あの隣家となりのふんばりばばあ、さあさあ日が暮れたからお出かけよ……などとだましてなぶったらしい。なるほどなあどこの店でも、こいつア剣呑けんのみを食れる筈だ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
取上とりあばばあの子取りとはちがって、これは小児を盗んで殺すのを職業にしていたのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「このばばあは飛んでもない奴だ。貴様はだれに云いつかってこの橋の渡り賃を取るのだ」
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
「べら棒め。一生ばばあいじめられたんだ。この上ヨイ/\になって溜まるものか」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おれのことをこんなこと言った、しからぬやつだ、あんなことをいったが不都合だと互いに陰口かげぐちきいたのを、うらむようにこそこそと他人の悪口をいうさまは、ごうも裏長屋のばばあちがうことはない
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
話をしながら本堂の裏手へ廻って墓場へ出ると、花屋のばばあは既にとある石塔のまわりに手桶の水を打ち竹筒の枯れたしきみを、新しい花にさしかえ、線香を手に持って、宗吉の来るのを待っていた。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このばばあは魔法使いかも知れんぞと私は疑い出した
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ふざけやがるなこのばばあ
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不沙汰ぶさた見舞に来ていたろう。このばばあは、よそへ嫁附かたづいて今は産んだせがれにかかっているはず。忰というのも、煙管きせるかんざし、同じ事をぎょうとする。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「一体の𤢖なる奴が、何故う執念深く君の一家に祟るのだろう。新聞にると、お杉ばばあ種々いろいろの原因をしているようだが実際うなのか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ばばあはヒラヒラとばしのそばまできて、かたくじた裏門うらもんを見まわしていたが、やがて得意とくいそうに「ひひひひひひひひ」と、ひとりで笑いをもらした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やむなくかれは南京豆を一銭二銭と買ってくったり、近所の同僚のところを訪問して菓子のご馳走になったりした。のちには菓子屋のばばあきつけて、月末払いにして借りて来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この果物がどんな不思議なはたらきを致しますかという事は、直きに貴方にもお目にかける事が出来ましょう。そうしたら貴方もこのばばあの申し上げる事が、嘘でないとおぼすで御座いましょう
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
お三ばばあは庵室の縁へドッカリと腰をおろしたが手から吹筒は放さなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
車掌の声に電車ががたりと動くや否や、席を取りそこねて立っていた半白はんぱくばばあに、その娘らしい十八、九の銀杏返いちょうがえ前垂掛まえだれがけの女が、二人一度にそろって倒れかけそうにして危くも釣革つりかわに取りすがった。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やはり今日来た坊さんは昔来た坊さんだろうかとばばあが言った。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
ばばあ、婆!」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
処女きむすめのようにずかしがることもない、いいばばあのくせにさ。私の所望のぞみというのはね、おまえさんにかわいがってもらいたいの」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばばあだって自分の家であま酒を作るわけじゃあるめえ。きっとどこかで毎日仕入れて来るんだろうから、そういう変な婆が来るか来ねえか、方々の店で聞き合わせてくれ。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「芸妓をして、千両稼ぐうちには、おまえさんがばばあになる。——ま、とにかく、家へけえって考えなせえ。そして、この金は、さっきいったとおり、俺の手から、先へ、返してやろう」
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何だか梅津の先生が非常に損な交易をして御座るような気がして、この婆さんが横着な怪しからぬばばあに見えて仕様がなかった。後から聞くとこの婆さんは只圓翁よりも高齢であったという。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
金棒かなぼう引きのおかやばばあ、いるかどうだか解りゃしねえ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なんよ、また道寄も遣らかすわい。向うが空屋で両隣は畠だ、聾のばばあが留守をしとる、ちっとも気遣きづかいはいらんのじゃ、万事わしが心得た。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「河内屋を覗いて行ったんだから、あのばばあに相違ねえ」
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「お三ばばあはまだ来ぬの」笑いながら老人は呟いた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どうもばばあのお酌の方が実があるような気がするね
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いや、ばばあどのも、かげながら伝え聞いて申しておる。村越の御子息が、のあたり立身出世は格別じゃ、が、就中なかんずくえらいのはこの働きじゃ。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)