堪忍かんにん)” の例文
スタニスラウスは先づ心配げな顔に、堪忍かんにんの表情を蓄へられる丈蓄へて、矢張さつきの肩の運動を繰り返して、溜息を衝いて云つた。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
されば川島未亡人も三十年の辛抱、こらえこらえし堪忍かんにんの水門、夫の棺のふた閉ずるより早く、さっと押し開いて一度に切って流しぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
捨て、ただ人さまの為になろうとして、思い切っての大仕事——すでに、お上すじとのお約束もあり、こればかりは堪忍かんにんして貰いたい
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
揚句あげくはて踏張ふんばりせんが一度にどっと抜けて、堪忍かんにんの陣立が総崩そうくずれとなった。その晩にとうとう生家を飛び出してしまったのである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おぬし堪忍かんにんならん! はれやれ、おぬし來賓中らいひんちゅう大鬪爭おほげんくわおこさせうぞよ! 大騷動おほさうどう爲出來しでかさうわい! えゝ、おぬしのやうなのが、その!
「あなたも遊びざかりをつらかろう。しかしご奉公です。むずかしいことばかり注文する老人だと思って、まあまあ、堪忍かんにんするさ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うちければひたひよりながれけるに四郎右衞門今は堪忍かんにん成難なりがたしと思へども其身病勞やみつかれて居るゆゑ何共なにとも詮方せんかたなく無念を堪へ寥々すご/\とこそ歸りけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ただしは誰人かに新しく堪忍かんにんの徳を教えられてそれを思い出したから、ここが我慢のしどころと観念しているのかも知れません。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ずっと前から……何しろ排日は大正からはじまって、もう二十年になるんですからね。堪忍かんにん袋も、これじゃ切れるのが当然ですよ
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「どうぞ堪忍かんにんして頂戴、咲ちゃん!」朝起きると、夜寝る迄時をかまわず、彼女は息子の前にお辞儀をしては、涙をこぼした。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
つけたまえね、しかしこのくらいやっつけたら二度と悪いことはしまいから堪忍かんにんしてやれ、可哀かわいそうに、おいチビ、改心しろよ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
私はそれで貴方にゆるされた積で喜んで死にますから。貴方もどうぞそれでもう堪忍かんにんして、今までの恨ははらして下さいまし、よう、貫一さん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「おとうさんを助けてくださいませ! もし、おとうさん、あやまってください、お武家ぶけさま、堪忍かんにんしてあげてくださいませ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堪忍かんにんして堪忍してと繰返し繰返し、さながら目の前の何やらに向つてわびるやうに言ふかと思へば、今ゆきまする、今行まする
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
守っているなんて、感心だとお思いになりませんこと?ねえ、お願いですから、あの熱心に免じて堪忍かんにんしてやって下さいまし
(中略)昨今のところでは何事も堪忍かんにんに堪忍、他日の勝利を期するのみにて只管ひたすら愚となり、変物となり居りそろ。(後略)
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
帰ったら私がよく言い聞かせてやりますから、どうぞ気を悪くなさらないで、堪忍かんにんしてやってくださいね。元来はおとなしい性質なのですからね。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「ジャンケンなんかしなくっても、村川さんが先に見つかったんだよ。じゃ、堪忍かんにんしてやらあ。村川さん、鬼だよ。」
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そうとはちっとも気がつかなかった。豊、堪忍かんにんしてくれ、お父さんが二度目のお母さんをうちへ入れたのが悪かった」
塵埃は語る (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
堪忍かんにんしておくんなさい。みちぱたではおにかけねえようにと、こいつァいもうとからの、かたたのみでござんすので。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
▲話は一向いっこうまとまらないが堪忍かんにんして下さい。御承知のとおり、私共は団蔵だんぞうさんをあたまに、高麗蔵こまぞうさんや市村いちむら羽左衛門うざえもん)と東京座で『四谷怪談』をいたします。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
“春生、堪忍かんにんしてくれ……俺はもう奴等の邪道に我慢が出来ないのだ。俺は誰が何と云おうがやっつける……これはお前や路三ルサンの仕返しだけではない。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
それですものどうぞ堪忍かんにんしてちょうだい。思いきり泣きたい時でも知らん顔をして笑って通していると、こんなわたしみたいな気まぐれ者になるんです。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「まあ堪忍かんにんしてくれたまえ。私はひどくぼんやりしているのだから」と、こう言って、彼は涙ぐんでいました。
どっちみちうれしくない事は知れていますがね、前のは、ず先ずと我慢が出来る、あとのは、堪忍かんにんがなりますまい。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
堪忍かんにん強い父は黙って森彦叔父の鞭韃むちを受けた。この叔父の癖で、言葉に力が入り過ぎるほど入った。それを聞いていると、お俊はかえって不幸な父をあわれんだ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お父さん。私も一緒に牢屋ろうやへ行きます。死刑になる運命なら、私も一緒に死にます。どうか堪忍かんにんして下さい」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
堪忍かんにんしてくれ! 堪忍してくれ! 俺が悪かった! 俺が悪かった! ……山吹! 山吹! 堪忍してくれ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私が誠に悪う御在ましたから堪忍かんにんして下さいと御辞儀おじぎをして謝ったけれども、心の中では謝りも何もせぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
民子は母の枕元近くへいって、どうか私が悪かったのですから堪忍かんにんして……と両手をついてあやまった。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
堪忍かんにん……堪忍してくれ……おおっ。太郎……太郎太郎。お父さんが……お父さんが悪かった。モウ……もう決して、お父さんは線路を通りません……通りません。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのほかにも、私はほとんどそれが天命でもあるかのように、お慶をいびった。いまでも、多少はそうであるが、私には無智な魯鈍ろどんの者は、とても堪忍かんにんできぬのだ。
黄金風景 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ぼっちゃん、わたしがわるかったのですから、どうか堪忍かんにんしてくださいね。」と、彼女かのじょはいいました。
遠方の母 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なんでも堪忍かんにんをしなければいけんぞ、堪忍のにんの字はやいばの下に心を書く、一ツ動けばむねを斬るごとく何でも我慢がまん肝心かんじんだぞよ、奉公するからは主君へ上げ置いた身体
「どうもまことにあいすみません。実はこの旦那だんなの気味悪がるのがおもしろかったものですから、つい調子に乗って悪戯いたずらをしたのです。どうか旦那も堪忍かんにんしてください。」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、ただたすけるというのが業腹ごうはらにおおもいなら、こうしましょう。この男を今日きょうからさむらいをやめさせて、わたしの弟子でしにして、出家しゅっけさせます。それで堪忍かんにんしておやりなさい。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今日政宗のてい、大納言殿御屋にて無く候はば、まんをもつかまつられ申すべく候、又飛騨守殿も少も/\左様の事堪忍かんにんこれなき仁にて、事も出来申候事も之有るべく候へども云々うんぬん
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お前のみみを一寸ちょっとかじるじゃ。なまねこ。なまねこ。こらえなされ。お前のあたまをかじるじゃ。むにゃ、むにゃ。なまねこ。堪忍かんにんが大事じゃぞえ。なま……。むにゃむにゃ。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
諏訪 そうかもしれない、何故だかわからないけど、やっぱり、あなた達に、あやまらなければならない気がするわ、もしも、母さんが、いけないと思ったら、堪忍かんにんして頂戴。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
... 荒ごなしどころか折々はまるのままで送ってよこす事もあるからツイ喧嘩けんかも始めるようなものさ。今朝の雑煮餅ぞうにもちだって随分荒ごなしだったゼ」胃吉「あれは堪忍かんにんしてもらいたい。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「何て聲でせう。ひどく苦しいのなら、堪忍かんにんして出して上げるけれど、この人は、たゞ私たちを呼び寄せようと思つたのよ。私は、ちやんと、この人のずるい計略を知つてるわ。」
衆人これを聴いて大いにじ入り、会飲ののち将軍を取り囲みその舎を焼かんとす。いわく婦女嫁入り前に必ずすべて汝に辱しめらるるはどうも堪忍かんにんならぬ故、汝を焼き殺すべしと。
「——あなたに御不自由をおさせ申して済みません、どうぞ堪忍かんにんして下さいまし」
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
堪忍かんにんしとくれ! 父さんが心得こころえ違いをしたばっかりに何にも知らないお前にまで苦労をさせて、ほんとうに済まない。だけどねふみ子、お父さんはいつまでもこんなに貧乏してはいないよ。
顔に似合わぬ悪体をきながら、起上たちあがッて邪慳じゃけんに障子をしめ切り、再び机のほとりに坐る間もなく、折角〆た障子をまた開けて……おのれ、やれ、もう堪忍かんにんが……と振り反ッてみれば、案外な母親。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「どうぞ堪忍かんにんしてやつて下さいましよ。親爺おやぢやお酒をくらつて居るんでさ」
おしお、堪忍かんにんしてくれ、俺はこういうやくざな臆病者に生れついたのだ!
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
……(涙をふく)神さま、ああ神さま、どうぞお慈悲で、この罪ぶかい女をおゆるしくださいまし! この上の罰は、堪忍かんにんしてくださいまし! (ポケットから電報を出して)今日、パリから来たの。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「播磨はあとで厳しゅう叱ります。まあ堪忍かんにんして引いてくだされ」
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
堪忍かんにんしてください、ジャック。そしてまたお友達になりましょう