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噤
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つぐ
ふりがな文庫
“
噤
(
つぐ
)” の例文
もし運命が許したら、私は
今日
(
こんにち
)
までもやはり口を
噤
(
つぐ
)
んで居りましたろう。が、
執拗
(
しつおう
)
な第二の私は、
三度
(
さんど
)
私の前にその姿を現しました。
二つの手紙
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「おまえ、まるで自分の……」そう云いかけた大四郎は、ふいに打たれでもしたように口を
噤
(
つぐ
)
み、大きく瞠った眼で妻を見おろした。
ひやめし物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
彼は口を
噤
(
つぐ
)
む。エロアは、そう言う場合の常として、抗議を申し立てない。彼は草稿を卓上に置く。彼の手は
顫
(
ふる
)
えているからである。
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
瑠璃子の前には、小姓か何かのように、力のないらしい青年は、極度の当惑に口を
噤
(
つぐ
)
んだまま、その
秀
(
ひい
)
でた
眉
(
まゆ
)
を、ふかく
顰
(
ひそ
)
めていた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
勝代は負けぬ氣でさう云つて口を
噤
(
つぐ
)
んだが、ふと不安の思ひが萌して顏が曇つて來た。良吉も話を外らして、小さい弟を
綾
(
あや
)
しなどした。
入江のほとり
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
▼ もっと見る
お先にという
意
(
こころ
)
である。日向は口を
噤
(
つぐ
)
んで、妙見に譲っている。然らば御免、というように、妙見勝三郎がちょっと目礼してはじめた。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
福松は
田螺
(
たにし
)
のやうに口を
噤
(
つぐ
)
みます。二十四といふにしては若々しく、泳ぎの名人といふよりは、手踊の一つもやりさうな人柄です。
銭形平次捕物控:129 お吉お雪
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
Nの話はますます冴えて来たが、わたしの顔色が、あまり聞きたくないようであると見るや、たちまち口を
噤
(
つぐ
)
んで立上り帽子を取った。
頭髪の故事
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
話の
緒口
(
いとぐち
)
だけでも聞くと母は真っ蒼になって怒りに慄えました。「止して下さい、貧乏くたい話は」それで流石の父も口を
噤
(
つぐ
)
みました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
と法水は、検事の好諧謔にたまらなく苦笑したが、めずらしく口を
噤
(
つぐ
)
んでいて、彼はいっこうに知見を主張しようとはしなかった。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
私をじつと
凝視
(
みつ
)
めて、彼は口を
噤
(
つぐ
)
んだ。言葉は殆んど現はれかけて彼の唇の上で
顫
(
ふる
)
へた——しかし、彼の聲は
壓
(
お
)
しつけられてしまつた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
圭一郎は「あゝ」と頷いて顏を出し二言三言お座なりに主人夫婦が旅に出かけたことなど話柄にしたが、直ぐあとが
次
(
つ
)
げずに口を
噤
(
つぐ
)
んだ。
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
司法主任の卓の前に立たされて執拗に口を
噤
(
つぐ
)
んでいた老人が、西谷青年の顔を見ると、急に素直な態度になって来たのであった。
三稜鏡:(笠松博士の奇怪な外科手術)
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
同時にそのボーイが頭をがっくりと下げたまま、口を
確
(
しっ
)
かりと
噤
(
つぐ
)
んでいる横顔が、何かしら一言も云うまいと決心しているのに気付いた。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
児玉さんはそのまゝ口を
噤
(
つぐ
)
んだ。この際世道人心を説いても耳に入るまいと思ったのである。細君は既に気に入らないことが一つあった。
村の成功者
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
「帰るのは
易
(
やす
)
い。だが、また
辱
(
はずか
)
しめを見るだけのことではないか?
如何
(
いかん
)
?」言葉半ばにして衛律が座に
還
(
かえ
)
ってきた。二人は口を
噤
(
つぐ
)
んだ。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
と言つて、薬を飲まされる
家鴨
(
あひる
)
のやうに、しつかり口を
噤
(
つぐ
)
んだが、物の三十分も経つたと思ふ頃、急に
爆
(
はじ
)
けるやうに笑ひ出した。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
蒲田は
姑
(
しばら
)
く助太刀の口を
噤
(
つぐ
)
みて、
皺嗄声
(
しわがれごゑ
)
の
如何
(
いか
)
に弁ずるかを聴かんと、
吃余
(
すひさし
)
の葉巻を
火入
(
ひいれ
)
に
挿
(
さ
)
して、
威長高
(
ゐたけだか
)
に腕組して控へたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
馬車の中でも、もう皆くたびれていると見えて、誰も口を
噤
(
つぐ
)
んでいた。ただ馬車が、
危
(
あやう
)
い道を揺り上げ、揺り上げ駆けていた。
月見草
(新字新仮名)
/
水野葉舟
(著)
Kは斯う云って、口を
噤
(
つぐ
)
んで
了
(
しま
)
う。彼もこれ以上Kに追求されては、ほんとうは泣き出すほかないと云ったような顔附になる。
子をつれて
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
ところが、
暫
(
しばら
)
く触診をなさっておいでになりますと、先生の御言葉が段々乱れてまいりまして遂には、ぱたりと口を
噤
(
つぐ
)
んでしまわれました。
手術
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
といいかけた帆村は突然口を
噤
(
つぐ
)
んだ。彼の全身の関節がぽきぽき鳴った。彼は望遠鏡にのしかかった。喘ぐように、彼の大きな口が動いた。
千早館の迷路
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
ぎょっと図星を指されでもしたかのように口を
噤
(
つぐ
)
んだ千之介の影へ門七が、押しかぶせるように嘲笑をあびせかけ乍ら言った。
十万石の怪談
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
逍遙子まことに口を
噤
(
つぐ
)
みて、復た沒理想を説かずといへども、われこれを評すること古人の文を評するが如くならば、又何ぞ病とすべけむ。
柵草紙の山房論文
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
「
我々
(
われ/\
)
は、そんな
好
(
い
)
い
事
(
こと
)
を
豫期
(
よき
)
する
權利
(
けんり
)
のない
人間
(
にんげん
)
ぢやないか」と
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
して
仕舞
(
しま
)
ふ。
細君
(
さいくん
)
は
漸
(
やうや
)
く
氣
(
き
)
が
付
(
つ
)
いて
口
(
くち
)
を
噤
(
つぐ
)
んで
仕舞
(
しま
)
ふ。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
「…………」もう一度私は黙って頷いたが、途端にホセは不安そうに眼を光らせて、またもや口を
噤
(
つぐ
)
んでしまったのであった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
と主税は澄まして言い懸けたが、
常
(
ただ
)
ならぬ夫人の目の色に口を
噤
(
つぐ
)
んだ。菅子は
息急
(
いきぜわ
)
しい胸を
圧
(
おさ
)
えるのか、
乳
(
ち
)
の上へ手を置いて
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
村田がいいかけた時に、ボックスの蔭になって見えなかったけれど、其処から、すらりとした美少女があらわれたので、口を
噤
(
つぐ
)
んでしまった。
睡魔
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
何とか次の言葉が出るだらうと思つて待つたが、高橋はそれつきり口を
噤
(
つぐ
)
んで、默つて私の顏を見てゐる。爲方がないから
我等の一団と彼
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
襖
(
ふすま
)
が開いて、雪子が廊下から這入って来たので、ひょっと聞かれたかも知れないと思いながら、幸子はそれきり口を
噤
(
つぐ
)
んだ。
細雪:01 上巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
口ももぐもぐさせずに固く
噤
(
つぐ
)
み、そのために突きとがらせた風になつてはゐたが、やはり正面を向いてゆつくりと行列の歩調に合せて歩いた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
『
始
(
はじめ
)
から
終
(
しまひ
)
まで
間違
(
まちが
)
つてる』と
斷乎
(
きつぱり
)
芋蟲
(
いもむし
)
が
云
(
い
)
ひました。それから
双方
(
さうはう
)
とも
口
(
くち
)
を
噤
(
つぐ
)
んで
了
(
しま
)
つたので、
暫
(
しばら
)
くの
間
(
あひだ
)
又
(
また
)
森
(
しん
)
としました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
しかし明るい戸口の
外光
(
ひかり
)
を
背負
(
しょ
)
って立っている男が、染八でもなく喜代三でもなく、武士だったので、乾児たちは一度に口を
噤
(
つぐ
)
んでしまった。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「日常生活の神聖、日常生活の神秘」彼は、人間の言葉では言へない事を言はうとしてゐるのだ、と自分で思つた。さうして遂に口を
噤
(
つぐ
)
んだ。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
明智はふと口を
噤
(
つぐ
)
んだ。その時丁度死人の咽喉が現れ、そこの皮膚に不思議な
黒痣
(
くろあざ
)
が見えた。明かに指でつかんだ
痕
(
あと
)
なのだ。
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
そうでなくてさえも、品右衛門爺さんに先を越されて、やむなく口を
噤
(
つぐ
)
んでいた一座の甲乙が、この時一時に
嘴
(
くちばし
)
を揃えて
大菩薩峠:32 弁信の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
男が煙草を喫いながら言うと、女は何か言おうとしながら口を
噤
(
つぐ
)
んだ。表情はすぐ
瞼
(
まぶた
)
の顫えたのをきっかけに、
一層
(
いっそう
)
の冷たさと蒼白さを加えた。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
私が、ふっと口を
噤
(
つぐ
)
んで片手にビイルのコップを持ったまま思いに沈んでいるのを、見兼ねたか、少年佐伯は、低い声で
乞食学生
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
「そうでもないんでしょうけれど……。」と云いかけて彼は口を
噤
(
つぐ
)
んだ。妙にうち解け難いものがちらと感じられたので。そしてこう云ってみた。
恩人
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
そこまでいって、急に口を
噤
(
つぐ
)
んでみなの顔を眺めわたした。その心は、すぐ、みなに通じた。しかし、誰もそのあとを続ける気にはなれなかった。
キャラコさん:07 海の刷画
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
夜の広い畳の上に、明るさ、皆の口を
噤
(
つぐ
)
んだ沈黙が、
皎々
(
こうこう
)
と漲った。伸子の心の中もその通りであった。彼女は悲しくも、腹立たしくもなかった。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
不図応接室の戸を
叩
(
たゝ
)
く音がした。急に二人は口を
噤
(
つぐ
)
んだ。
復
(
ま
)
た叩く。『お入り』と声をかけて、校長は
倚子
(
いす
)
を離れた。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
「駅長さんが止めてしまっちゃあ……」と私は思わず口に出したが、この人の手前何となく気がとがめて口を
噤
(
つぐ
)
んだ。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
掠
(
かす
)
めたものを取りあっていた兵士達は、口を
噤
(
つぐ
)
んで小舎の方を見た。十人ばかりの百姓が村から丘へのぼってきた。
パルチザン・ウォルコフ
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
それですから男子の前で話が少しでも智力を要する問題に及ぶと
厚顔
(
あつか
)
ましく支離滅裂な冗弁を並べるか、謙遜して口を
噤
(
つぐ
)
んでしまうかの外ありません。
婦人改造と高等教育
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
事件が事件であり、相手が相手だけに、沖田刑事は署に着くまではなるたけ口を
噤
(
つぐ
)
んで問題に触れないようにした。
五階の窓:03 合作の三
(新字新仮名)
/
森下雨村
(著)
すると、「九十三年に働いた人々は皆大人物です、」とマリユスはいかめしく言った。老人は口を
噤
(
つぐ
)
んでしまって、その日は終日一言も発しなかった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
重ねて女は声懸けけるが、応答はおろか、見も返らざるに
思
(
おもい
)
絶ちけん、そのまま口を
噤
(
つぐ
)
みて、男の後ろに従いぬ。
片男波
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
強
(
し
)
いて反対もしないので、上野のさる中華料理店でビールを飲み、すこし打ち融けた気分になりかけると、急に、弟の深志はむつつり口を
噤
(
つぐ
)
んでしまう。
光は影を
(新字新仮名)
/
岸田国士
(著)
その諸〻の
榮
(
はえ
)
ある
業
(
わざ
)
はこの後
遍
(
あまね
)
く世に知られ、その敵さへこれについて口を
噤
(
つぐ
)
むをえざるにいたらむ 八五—八七
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
噤
漢検1級
部首:⼝
16画
“噤”を含む語句
御噤
口噤
噤黙