叱言こごと)” の例文
吉田は蜜柑を手に持ちポケットにも入れ、「みんなボヤーツと見とつちや駄目やないか」と生徒等に叱言こごとを言ひながら、又登つて來た。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
「ああ、そうだ、——こっちが坐睡をしやしないか。じゃ、客から叱言こごとが出て、親方……その師匠にでも叱られたためなんだな。」
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叱言こごと一ついわず、「馬鹿、それ位のことでくよくよするやつがあるかい。さア、一緒に、洋服を作りに行ってやるから、起きろ、起きろ」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
かけら半分叱言こごとらしいことを私に云われず、ただ物和ものやさしく、清やてめえ喧嘩は時のはずみで仕方はないが気の毒とおもったら謝罪あやまっておけ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ちょっと鞍馬くらまへかえって見ましたところが、お師匠ししょうさまの叱言こごとが壁にはってあったので、あわててまたいもどってきたんです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
與吉よきちなゝめくのがすこ窮屈きうくつであつたのと、叱言こごとがなければたゞ惡戲いたづらをしてたいのとでそばかまどくちべつ自分じぶん落葉おちばけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「河合先生」もこの可愛らしい生徒に対しては厳格にする勇気がなく、叱言こごとの果てがたわいのない悪ふざけになってしまいます。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくし岩屋いわや修行しゅぎょうというのは、つまりうした失敗しっぱいとお叱言こごとりかえしで、自分じぶんながらほとほと愛想あいそきるくらいでございました。
で三人おっとがあれば三人の儲けて来た金を妻が皆受け取ってしまい、儲けようが少なかったとか何とかいう場合にはその妻から叱言こごとをいう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
どこで飲もうと、酔うのは同じことだ、という荒ッポイ返事で、おまけに、どうもキサマは理窟ッポイぞ、と叱言こごとをくった。
叱言こごとじみた事ばかり聞かされたのですこぶる不平らしく見えたが、しかし、それでも極めて忠実に命令を遵奉しているにはいた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こうして朝から晩まで叱言こごとの言いづめのようにギュウギュウやっつけて行く裡に、ものが解って来て、恥を知って来ます。
料理一夕話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「わたくしはこれまであなたにはいちども叱言こごとは云わなかった……」おばあさまはやがてそう云って私をごらんになった。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「なにも、わたしが叱言こごとをいう役じゃありませんが、あの人気最中に、逃げ出すなんて、親方の身にもなってみてもあんまりだから、つい……」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だのにそれをすぐに申し出ることを恐れた。私は私に浴びせかけられる叱言こごと折檻せっかんやを恐れた。そうして私は常に、懺悔ざんげの第一の機会を失った。
やもめのお勝も源兵衛の妹だけあって気性の勝った人で、お園が男のように竹馬に乗ったりして遊ぶのを叱言こごともいわずに、五刈の男姿にしておいた。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
実は小原さまのお屋敷から頂く野菜は、元値も廉し、品も好し、まことに結構なのですが、ときどきにお得意さきからお叱言こごとが来るので困ります。
西瓜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
木で鼻をくくったような態度で面白くもない講釈を聞かされ、まかり間違えば叱言こごとを喰ったり揚足を取られたりするから一度で懲り懲りしてしまう。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
お辰とちがって、柳吉は蝶子の帰りがおそいと散々叱言こごとを言う始末で、これではまだ死ぬだけの人間になっていなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ホール夫人に叱言こごとをいわせるようなことはなかったが、四月になってからは、目にみえて金ばらいがわるくなってきた。
「親分さん、御苦労さまで。——私の指金で、お糸さんに来てもらいましたが、とんだお叱言こごとを頂戴したそうで、まことに相済みません、ヘエ——」
「そう毎日ぶらぶら遊んでばかりいるのが、大体よろしくない。」世話好きな中村は、会社から退けて来ると、芳太郎に何か叱言こごとを言いながら言った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
軽く叱言こごとをいいながら、老人は至極機嫌よく、天井に隠した電灯をつけながら、その下で封を切って読みだした。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は叱言こごとも言えずに、はらはらしてお前たちのそんな子供らしいはしゃぎ方を見ているよりしようがなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ムッツリとしてつったっている。だが、課長の方では、何も知らないものだからいつもの通りお叱言こごとが始まる。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
粒々皆辛苦、実にこれは勿体ないものである。決して粗怱にしてはならぬ、また美味いの不味いのと叱言こごとを言うな、有難いと思うて喫べろ、というのである。
教育家の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「もう、分ったわ。お叱言こごとは、あした伺うわ。とても、疲れているの。早く寝ないと明日がたいへんだわ。」
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかし、この頃では、以前ほど叱言こごとも言わないし、時としては、思いがけない賞め言葉を頂戴したりするので、次郎の母に対する感じも、いくらかずつ変って来た。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
百松 叱言こごとをいわれなかったね。あれで柄になく声がいいのだから人は見掛けによらないものだね。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
成済は案外叱言こごと効力きゝめが早かつたのと、自分の達者な腕つ節に満足したらしく、声をげて笑つた。
もませ呉んと一同にて仕組しくみしことゆゑ千太郎の云ふ事を少しも聞入きゝいれず御養父がもしわからぬ叱言こごとを言れなば仲間一同にて引受ひきうけ貴樣おまへ御迷惑ごめいわくかけまじ一年にたゞ一度の參會故夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
まるで、遊びごとのような叱言こごとをいいながら、お座なりのように、二三人、検束して行った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
食うものもろくに食わせられずに、叱言こごとの代りに眼を指でえぐりとられた娘も見た。こんな雲南の奴隷娘や、悲惨な少年坑夫の話を、ここで生れた君は知らないはずはないだろう。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
後で叱言こごとをいう位で事がすむ。作家の方でも、それに対して真剣になりもしない。
国民性の問題 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私はこの時ならぬ時間に妻が外へ出て行くような恰好をしているので驚いて、——と云うより何か叱言こごとを云おうとしたのですが、私の口からは何か寝言めいた言葉が出てしまいました。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
植木屋がたけのこいたといって怒られ、はては『おババさま』の姑でさえが、れた朝顔をぬいたというので『おババさま好き人です。しかし朝顔に気の毒しました』と叱言こごとを言われた。
私の心に陰影かげのさした時、よく飛沫とばちり叱言こごとを食ふのは、編輯助手の永山であつた。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ほろゑひきげんの百姓男ひやくせうをとこいまはすつかり善人ぜんにんになつて、叱言こごとを一つひません。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
父親は少しの叱言こごとも言はなくなり、殆ど用事といふものを溜めて言ふやうになつてゐた。ななえは父の極端な遠慮といふものが此頃になつて、かなり深い根を下ろしてゐることに氣づいた。
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
命令通り出来上つた仕事も、その命令通りにした愚直なことが、そこに叱言こごと隙間すきまもないことで父を怒らせた。兄はしじゆうおど/\してゐて、眼鼻立ちに神経の疲労とうれひの湿りがあつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
何か拙者に眼にあまることがあったら違慮えんりょなく叱言こごとをいってもらいたい
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
別に叱言こごといふべき事も見出ださざりしと見えて、少しは落着きたるらしく、やがて思ひ出したやうに、奥の間に針仕事してありし妻を呼びて、我が前へ坐らせ、しげしげとその顔を眺めゐたりしが
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
山の主任連はフロックに絹帽子シルクハット乃至ないし山高で、親方連も着つけない洋服のカラーを苦にし乍ら、堅い帽子を少し阿弥陀あみだに被ってヒョコスカ歩廻っては叱言こごとを連発して居る、大分恐入ってる風に見える。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
は、私はちっとも急ぎませんけれど、今日は名代みょうだいも兼ねておりますから、はやく参ってお手伝いをいたしませんと、また菅子さんに叱言こごと
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叱られた女は、いったい、何がどうした叱言こごとなのかわからないが、客商売の断るかけひきはままあるので、そのまま、口をつぐんでいる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして当人もそれを少からず自慢にしていて、いっぱしの師匠のように叱言こごとを云うのが、なおさらお久は助からなかった。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
紅葉は人に叱言こごとをいう時は涙をボロボロ覆して、これほど俺のいうのが解らないかと泣く事が珍らしくなかったそうだ。
こんな事をしたらばその畑の主が喧しく叱言こごとを言いはすまいかと言ってたずねますとなあに決して叱言など言いはしない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
『そなたの、そのみぐるしい姿すがたなんじゃ! まだ執着しゅうじゃく強過つよすぎるぞ……。』わたくし何度なんどみぐるしい姿すがたをお爺様じいさまつけられてお叱言こごと頂戴ちょうだいしたかれませぬ。
肝腎かんじんな働き手の高自身さえ着のみ着のままだったが、それをまた祖母は、世間の手前、余り汚い風をしていては困ると、口うるさく叱言こごとを言っていた。