切尖きっさき)” の例文
「それから取っ組み合いが始まったが、恐ろしく強い野郎で、その上匕首あいくちを持ってやがる。切尖きっさきけるはずみに、鼠坂ねずみざか逆落さかおとしだ」
こんな独り言を云いながら、敬虔けいけんに短刀を抜いてみた。恐らくあげ物というやつだろう、つばから切尖きっさきまでのバランスがとれていない。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(手首を取って刃をかいなに引く、一線の紅血こうけつ玉盞ぎょくさんに滴る。公子返す切尖きっさきに自から腕を引く、紫の血、玉盞に滴る。)飲め、呑もう。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「かーッ」と掛けた声もろとも左剣は投げ捨て右剣一本へ渾身こんしんの力をしかとこめ鬼王丸の真っ向を切尖きっさき下りに切りつけた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
切尖きっさきがすこしそよいだような、すこし切尖を違えたような、小さな不思議な掻き傷があって、それからいきなり深い新月なりの傷がはじまるのである。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
男は切尖きっさき鋭く万平を松板の間に追詰めながら、すきがあったら逃げよう逃げようとしたので、万平は足元の鋸屑おがくずを掴んでは投げ掴んでは投げ防ぎ戦った。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
続いて息もつがせぬ二の太刀! 同時に背後うしろへ廻った一人がつかも通れと作左衛門の背板を目がけて切尖きっさきを向けた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新刀ながら最近研師とぎしの手にかけたものだけに、どぎどぎしたその切尖きっさきから今にも生血なまちしたたりそうな気がして、われにもなく持っている手がぶるぶるとふるえた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
イワンはうちへ帰って鎌をといでまた草を刈りはじめました。小悪魔は草の中へもぐり込んで、その鎌の先きを捉えて、切尖きっさきを地へ突っ込むようにしはじめました。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
市郎が驚いて叫ぶ間もありや無しや、お杉の兇器は頸筋くびすじへ閃いて来た。が、咄嗟とっさあいだに少しくたいかわしたので、鋭い切尖きっさきわずかの肩先をかすったのみであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
刀の切尖きっさきが曲っていたのを時計の裏側でネタ刃を合せ、腹の方は軽くまねがたにして仕損じぬようにやったとすれば頸動脈を切ることに重点をおいたものと思われる。
と払い除けました、其の切尖きっさきが山之助の肩先に当ると、腕が利いて居る、余程深く斬込みました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こうする……どうするのかと思うと、やにわに大刀だいとう銀百足ぎんむかでの鞘を払った造酒だ。お妙の胸ぐら取ってそこに引き据えると同時に、紙のように白い咽喉首のどくび切尖きっさきした。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鍔元つばもとから切尖きっさきまで縦に刃の模様がついているはず、その模様が大波を打ったように大形についているのもあれば、丸味を持ったのこぎりの歯のように細かくついているのもある
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
次郎は、するど切尖きっさきがじりじりと胸にせまるような気味わるさと、何もかもが身辺から消えて行くようなさびしさとを、同時に感じながら、最後に残された二枚の便箋に眼を走らせた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
二つのつるぎ切尖きっさきから𣠽頭まで、二本のダイヤモンド留針とめばりのように光っていた。
高座には燕を思わせる色の肩衣つけた若い娘がスイスイ刀の切尖きっさきから水を噴き上げさせて喝采を浴びている姿が、姿勢よく座った海老団治の後ろの楽屋格子をとおしてチラチラ見えていた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
公卿こうけいといってもこの人の勢いに必ずしも皆まで匹敵できるものでない。私の予言は必ず当たるよ。この人たちには露骨でなく、上手じょうず切尖きっさきをはずさせるように工夫くふうするのだね。おもしろい手紙だよ
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
暗殺者の切尖きっさき
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
特に私のくふうした切尖きっさきはずしのわざは効果がある、あの呼吸をものにすれば、派手ではないが勝ち味は充分だ、そう思わないか、上村
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ひっそいだ切尖きっさきするどいのが、法衣ころもの袖をかすったから、背後うしろに立った僧は慌てて身を開いて、行燈は手前が、とこれが先へ立つ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてその次には他の一団が——それも沙漠から送ったのだが——その二回目の暗殺団が市長の胸へ短刀の切尖きっさきを深く突きさした。市長はしかし死ななんだ。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は六部の鮮やかな腕前に感嘆して、足許から逃げ出した残る一人の郷士を追い撃ちに切りつけたが、二度とも切尖きっさきが届かず、その間に遠く逸してしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いでや新身あらみの切れ味見せて、逆縁の引導いんどう渡しれむと陣太刀じんだちながやかに抜き放ち、青眼に構へて足法そくほう乱さず、切尖きっさきするどく詰め寄り来る。虹汀何とか思ひけむ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつ、どうして斬ったのか、唇にも歯にもふれず、左頬の内がわから、斜めうえに口蓋こうがいのほうへ、浅く斬れている。切尖きっさきがふれたわけではない。一種の気あい突き。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
がんりきは、ついと飛び退いた。一尺余りの白刃が、紙張の裾から飛び出して、がんりきの眼と鼻の上を筋違すじかいに走って、そうしてその切尖きっさきはガッシと葛籠の一端に当る。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高大之進の下知に、とりまく剣陣はすすまず、しりぞかず、ジッと切尖きっさきをそろえて持久戦……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
平次の言葉は穏やかですが、すきもなく切り込んで行く名剣士の切尖きっさきのような鋭さがあります。
斜面を駆けおりて来る「くひじろ」の、みごとな大角を見ながら、甲斐は左のひじで半身を支え、右手の山刀の切尖きっさきをあげた。
「北へ四枚目の隅の障子を開けますとね。溝へ柄を、その柱へ、切尖きっさきを立掛けてあったろうではありませんか。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と叫んで背後の曲者くせものを梨割りにズーンと斬り伏せたまま、作左衛門が受けかねていた、大月玄蕃の切尖きっさきに立ちむかって目覚しいほど縦横無尽に斬り立てて行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
切尖きっさきが背中へき出ていた。とっさに引き抜かないと、すぐ肉がしまって容易に抜けなくなるもので、喬之助、グザッ! と今一度、深く突き入れながら、さあっと抜いた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あかりで見ると、倒れているのは三十五六の浪人者で(後でそれは福井町に住んでいる城弾三郎と知れましたが)、脇差で左の胸を深々と刺され、切尖きっさきが白々と背に突き抜けたまま
的確な、みごとなつきであった。六郎兵衛は相手の刀の切尖きっさきが、こちらのからだに当る刹那せつなつばめの返るように身を転じた。
「あの窈窕ようちょうたるものとさしむかいで、野天で餡ものを突きつけるに至っては、刀の切尖きっさきへ饅頭を貫いて、食え!……といった信長以上の暴虐ぼうぎゃくです。貴老あなたも意気がさかんすぎるよ。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
刃はわずかに合いました。切尖きっさきと切尖が、昆虫の触角のように触れて、ジーンと背筋を走るような電気が腕に伝わると、二人は思わず一歩ずつ飛退とびさがって、必死の構えを立て直します。
しかし青竹と刀の切尖きっさきとは五尺もはなれていたし、斬りつけた余勢でかれは右へのめって膝をついてしまった。
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まあ、人間わざかなわん事に、断念あきらめは着きましたが、危険けんのんな事には変わりはないので。いつ切尖きっさきが降って来ようも知れません。ちっとでもたてになるものをと、みんな同一おなじ心です。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万三郎はその切尖きっさきかわすだけで精いっぱいだった。若さと躰力をけて、右に左に、跳躍し、すりぬけた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
血だらけの抜刀をひっさげた、半裸体の大漢おおおのこが、途惑とまどいしたのぼりの絵に似て、店頭みせさきへすっくと立つと、会釈も無く、持った白刃しらはを取直して、切尖きっさきで、ずぶりとそこにあった林檎を突刺し
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右の手に抜いた刀を持っていたが、その切尖きっさきが僅かによごれているだけで、かくべつ人と闘争したという風にはみえなかった。わかっている事実はそれだけである。
日本婦道記:藪の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「なに止められてたまるものか。故障の入らぬ内に、おおそうじゃ。」と切尖きっさきをちょいとてて震上ふるえあがり、「武士が、武士が、」と歯切はぎしりして、ぐっとまでにはならぬけれど、ほんとに突いて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金五の声よりはやく左内は刀を抜いた。不意を衝かれた少年たちは四方へ逃げだしたが、左内は切尖きっさきを付けて金五を動かさなかった。——金五、いまの言葉を取消せ。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大丈夫、そうすりゃ貴下の上へ、屏風に倒れてうしろになって、私が突かれる、斬られて上げるわ。何の、嫉妬じんすけの刃物三昧ざんまい切尖きっさきが胸から背まで突通るもんですか。一人殺される内には貴下は助かる。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
というのが鉄則であって、特に深喜の『切尖きっさきはずし』『籠手返こてがえし』などの技は厳重に禁じられた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ものの切尖きっさきせたおとがいから、耳の根へかけて胡麻塩髯ごましおひげが栗のいがのように、すくすく、頬肉ほおじしがっくりと落ち、小鼻が出て、窪んだ目が赤味走って、額のしわは小さな天窓あたま揉込もみこんだごとく刻んで深い。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「動くと斬るぞ、動くなよ」通助は大剣の切尖きっさきをつきつけながら、「早くこれを片付けて呉れ」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
桂木は切尖きっさき咽喉のどに、つるぎの峰からあはれなる顔を出して、うろ/\おうなを求めたが、其のことばに従はず、ことさらに死地しちいたを憎んだか、う影も形も見えず、推量と多くたがはず、家もゆかとくに消えて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
先陣をつるぎの切尖きっさきとすれば本城のまもりは五躰ごたいといえよう、五躰のちからまったくしてはじめて切尖も充分にはたらくことができるのだ、たとえ先陣、留守の差はあっても
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
腕はだらりと垂れつつも、切尖きっさきが、じり/\と上へつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)