かはり)” の例文
そして一目見るとすぐに、すこしあけツはなしのてんのあるかはりには、こせつかぬ、おツとりとした、古風こふう顔立かほだてであることを見て取ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
かうしてゐれば、可楽たのしみな事もあるかはりつらい事や、悲い事や、くるしい事なんぞが有つて、二つ好い事は無し、考れば考るほど私は世の中が心細いわ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何故と云へば、悪魔は、牛商人の肉体と霊魂とを、自分のものにする事は出来なかつたが、そのかはりに、煙草は、あまねく日本全国に、普及させる事が出来た。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
此人このひとうまちると此山このやまそだつたので、なんにもぞんじませんかはりひとちツともお心置こゝろおきはないのでござんす。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手桶てをけすだけのことだから資本もとでいらないかはりにはまうけうすいのであるが、それでも百姓ひやくしやうばかりしてるよりも日毎ひごとえた小遣錢こづかひせんれるのでもうしばらくさうしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これうもお姫様ひめさま恐入おそれいります、へい/\有難ありがたぞんじます。姫「アノ町人ちやうにん、おまへかはりべるか。 ...
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
其のかはりに残忍きはま殺戮さつりくの描写は、他人種の芸術に類例を見ざる特徴であつて、所謂いはゆる「殺しの場」として黙阿弥劇中興味の大部分を占めてゐる事は、今更らしく論じ出すにも及ぶまい。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それはかねて門人の籍にゐる兵庫西出町にしでまち柴屋長太夫しばやちやうだいふ其外そのほか縁故のある商人に買つて納めさせ、又学生が失錯しつさくをするたびに、科料のかはりに父兄に買つて納めさせた書籍が、玄関から講堂、書斎へ掛けて
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
然し、過ぎた事は今更為方が無いから、父のかはりに是非貴方に改心してもらひたい。今貴方が改心して下されば、私は父が改心したも同じと思つて、それで満足するのです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すべてのよろこび満足まんぞく自負じふ自信じゝんも、こと/″\く自分をツてしまツて、かはり恐怖きようふが來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しなかまどまへこしけた。しろにはとり掛梯子かけばしごかはりけてある荒繩あらなはでぐる/\まきにしたたけみき各自てんでつめけて兩方りやうはうはねひろげて身體からだ平均へいきんたもちながらあわてたやうにとやへあがつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
……城趾しろあとはやいて、天守てんしゆ根較こんくらべをらうなら、御身おみあしなか鉋屑かんなくづかへる干物ひもの成果なりはてやうぞ……この老爺ぢいはなか/\がある! 蝙蝠かはほりきざんでばせ、うをつておよがせるかはりには
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私のやうなものでも可愛かはいいと思つて下さるなら、財産をのこして下さるかはりに私の意見を聴いて下さい。意見とは言ひません、私の願です。一生の願ですからどうぞ聴いて下さい
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
近所きんじよ女房等にようばうらは一たん晒木綿さらしもめん半分はんぶんきつてそれでかたばかりのみじか經帷子きやうかたびら死相しさうかく頭巾づきんとふんごみとをつてそれをせた。ふんごみはたゞかくにして足袋たびかはり爪先つまさき穿かせるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)