角帯の人たちは、おりおり下卑たことを言って、みんなを笑わせようとしたが、村人たちは顔を見合わせて、かえってにがい顔をした。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
なぜならば立派なことをいやしくも口外した以上、そう下卑た行の出来るはずはないから、まあ幾分か恕してやるべきである。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
禅僧の洒落が下卑ると面白くないものである。そうしてこの面白くないのがかなりに多いと思うが、どうかしらん。
楞迦窟老大師の一年忌に当りて (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
大切な雰囲気:03 大切な雰囲気 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
上品、下品の対立は、人事関係に基づいて更に人間の趣味そのものの性質を表明するようになり、上品とは高雅なこと、下品とは下卑たことを意味するようになる。
しかもそれを下卑た百姓言葉でまくし立てるので、さすがの「浮浪人」ゴーリキイもこれには閉口したらしいが、ましてやチェーホフの迷惑に至っては察するに余りがある。
チェーホフ序説:――一つの反措定として―― (新字新仮名) / 神西清(著)
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア (旧字旧仮名) / シャーロット・ブロンテ(著)
「だってあなたは、……あなたは財産のある人じゃありませんか。それをなんだってあなたは、こんな——第一こんな翼屋の、しかもこんな下卑た環境のところにおられるんです?」
永遠の夫 (旧字新仮名) / フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(著)
この人の立居振舞にはどことなく下卑た肉感がともなうので、素子は谷村が足繁く訪ふことに好感を持たなかつた。あなたもエロだわと、谷村をひやかしたり、嫌つたりしたのである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なぞとその男も答へながら、家の中を見廻して、「たむら」も随分変つたぢやないかと懐旧の念にたへがたさうにすると、調子づいて、ええ、ほんとにねえ、すつかり下卑て了つたでせう
その下卑た騎士道、偽善的なもったい振り、好んでおのれを賛美しおのれを愛する我利冷酷な徳操の化身とも言うべき、恐怖も知らないが人情も知らないその英雄、それを彼は憎みきらった。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗 (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
こおろぎと蟻の話を聞いた時にも私は何ともなく蟻が下卑て、憎々しく、こおろぎが詩的で、美しい気がした。寓話の趣旨とはあべこべのことを考えていた。これは私の詩的素質のせいであろうか。
下足場の人ごみの中で、おそろしく下卑た太い声でわめき出したのが、キッカケで、そこから大混乱が起ったところです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
旧聞日本橋:11 朝散太夫の末裔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
尤も蕪村召波などの句のように品格のよい句ではない。しかしてこんな趣向をこれ位までにこぎつけて、さほど下卑た句にせぬところは太祇の手腕を認めねばならぬ。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
話があんまり下卑てゐるので、平次の女房のお靜も、さすがに恐れをなしたものか、熱い番茶を一杯、そつと八五郎の膝の側に滑らせて、默つてお勝手に逃げ込んでしまひました。
銭形平次捕物控:194 小便組貞女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)