すし)” の例文
道庵はそれを見ながら、与八を相手にあたりかまわず無茶を言っては、すし饅頭まんじゅうを山の如く取って与八に食わせ、自分も食いながら
すしを喰べて小半刻も經ちましたかしら、暫らくはそれでも我慢して居る樣子でしたが、到底たまらなくなつたと見えて、地べたを
もっともその娘は、ある女のように坊主だまして還俗げんぞくさせてコケラのすしでも売らしたいというような悪い考えでもなかったでしょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
土耳古人におすしもおかしい、が、ビスケットでもあるまいから、煎餅せんべいなりと、で、心づけをして置いて、……はねると直ぐに楽屋で会った。
健三は昔しこの人に連れられて寄席よせなどに行った帰りに、能く二人して屋台店やたいみせ暖簾のれんくぐって、すし天麩羅てんぷら立食たちぐいをした当時を思い出した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すし屋、うなぎ屋、菓子屋、果物屋と、方々から持って来る請求書の締め高が、よくもこんなに喰べられたものだと、驚くほど多額に上ったのです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
千種ちぐさ腿引ももひきだの、緋羅紗ひらしゃの煙草入れだの、すしはこう食うのがオツだのと、つうすいに、別れきれないで、古い文化をたちまちに復興させている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お雪は姉の馳走ちそうに取寄せた松のすしなぞを階下したから運んで来た。子供が上って来ては、客も迷惑だろうと、お雪はあまり話の仲間入もしなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下町気質したまちかたぎよりは伝法でんぼうな、山の手には勿論縁の遠い、——云わば河岸のまぐろすしと、一味相通ずる何物かがあった。………
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いかにこじつけたくても、フィンランドの鳥獣と東京の高襟ハイカラや、江戸前のすしとを連結すべき論理の糸は見つからない。
すしだとか、天ぷらだとか、そういうことも詳しく知っているとはいえない。木原店も浮世小路も歩いたことは歩いても、大したことは知っていない。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
猿十郎の姉輪もうまかった。わたしは午後から行ったので、午飯の弁当は呉れなかったが、夕方になってすしを持って来た。それから果物も運んで来た。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おや、何だか見覚えのある奴が通るぞ。なあんだ、テニス・コオトの番人か。やあ、こんどは自動車が通る。毛唐けとうの奴らがすしづめになっていやあがる。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
どんぶりすしや蜜柑のやうなものが、そつち此方こつちに散らばつて、煙が濛々もう/\してゐた。晴代は割り込むやうにして、木山の傍に坐つたが、木山は苦笑してゐた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
濠ばた沿いに飯田町へ出て、小石川御門の方へ曲ろうとするところに、煮込にこみおでんと、すしの屋台が二軒見えた。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
かれ悉皆みんなさわいで自分じぶんはらりるだけのすし惚菜そうざいやらをはしはさんでさかづきへはれようとしなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すしでもけたように船に詰込れて君士但丁堡コンスタンチノープルへ送付られるまでは、露西亜ロシヤの事もバルガリヤの事も唯噂にも聞いたことなく、唯行けと云われたから来たのだ。
以前は最下等のうなぎどんぶり位で済ませたものがにわかに種々の趣向が出て、あるいあゆすしに茶菓子が出る事もあり、中には自分の家から手打蕎麦てうちそばこしらえて来る事もあり
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
すしもありますぜ」と猪之が云った、「まあ来て下さい、じつはちょっと話したいこともあるんだから」
半井氏が留守ならばとしきりにいとまを告げようとする女史を引止めたうえに、すしなどまでとって歓待した。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
敵を討った三人の周囲へは、山本家の親戚が追々おいおいせ附けた。三人に鵜殿家からすし生菓子なまがしとを贈った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鳥追の声はさらなり、武家のつゞきて町に遠所には江鰶こはだすしたひのすしとうる声今もあり、春めくもの也。三月は桜草うる声に花をおもひ、五月は鰹々かつを/\白妙しろたへの垣根をしたふ。
電気行灯でんきあんどんの灯の下に、竃河岸へっついがしの笹巻のすしが持出された。老父は一礼して引込んで行った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自然と心がかれた。で用意していた菓子や果物や、それからすしなどを舟に運んだ。火鉢をしかと横木に結えて、それに一杯火を盛った。お茶の道具と炭と褞袍とを片方に置いた。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
よろしいと我輩はしるこを附き合ったよ。少時しばらくすると、大将、今度は辛いものが欲しいなと謎をかけた。我輩も悟りが早い。川口君の為めにすし立食たちぐい発起ほっきしてやった。いかね。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
印度インド人がカレイドライスを指で味わい、そば好きがそばを咽喉のどで味わい、すしはしで喰べない人のあるのは常識である。調理の妙とはトオンである。色彩に於けるトオンと別種のものではない。
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
どんぶり類だの、すしだの、鍋類だのを取り寄せるのであるが、朝起きが遅いだけに夜食は九時十時から、ことによると十一時十二時頃になってもまだそうしたものを注文に行かねばならないのである。
或る屋台のおすしやで、少しもおいしくない鮨を食べながら
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「どう、おばあさんおすしでもおごろうじゃあないの」
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「それからね母上おっかさん、おすしを取って下さいって」
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すし屋の店が多いので、鮨屋横町とよぶ人もある。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「……じつは、小鰭こはだすしなんですが……」
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「いえ、滊車きしやの中ですしを食べました」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すしを頬ばつてカラミで泣け
すし餞別せんべつ9・5(夕)
すしを喰べて小半刻こはんときも経ちましたかしら、しばらくはそれでも我慢している様子でしたが、とうていたまらなくなったとみえて、地べたを
まだそのほかに小僧の五、六人も居るというような訳ですから、すしめるように詰めても寝られんで、外へ寝て居るやつもある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この汽車は新橋を昨夜九時半にって、今夕こんせき敦賀に入ろうという、名古屋では正午ひるだったから、飯に一折のすしを買った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
亭主は、こはだのすしを売りに歩いている、階下したには、内儀かみさんが、小僧相手に、こはだの小骨を、毛抜きで抜いていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やっぱり同じように海産物が並べられ、走りの野菜が並べられている。屋台のすしを客が寄って行って食っている。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
午後になってからすしを持って来た。ゆう飯は茶屋へ行って、うま煮のような物と刺身と椀盛わんもりで普通の飯を食った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すしを少しばかりおごって、茶呑み話にごまかしていながら、お庄はしみじみした話もしずに、やがてそこを出た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お雪、すしでも取りにやっておくれ。それから、お前も話しに来るが可い」と三吉は妻の居る処へ来て言った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
めしつぎには干瓢かんぺうおびにした稻荷鮨いなりずしすこしろはらせてそつくりとまれてあつた。すしすこつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それは僕の母と二人で箪笥たんすを買いに出かけたとか、すしをとって食ったとか云う、瑣末さまつな話に過ぎなかった。しかし僕はその話のうちにいつかまぶたが熱くなっていた。
点鬼簿 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
父はよくまくらもとでおすしの折などをひらきながら、「そんなことをするの、おしなさいてば。……」と母が止めるのもきかずに、機嫌きげんよさそうに私の口のなかへ
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
春はすしが良いと申すのは人の身体に酸性の食物を要するからで、病人におかゆを与えるにも炒米いりごめのお粥でないとかえって胃を害しますからよく注意しないといけません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
鳥追の声はさらなり、武家のつゞきて町に遠所には江鰶こはだすしたひのすしとうる声今もあり、春めくもの也。三月は桜草うる声に花をおもひ、五月は鰹々かつを/\白妙しろたへの垣根をしたふ。
彼はまた自分の分として取りけられたにぎすしをしきりに皿の中からつまんで食べた。……
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浅草デ先ズ奥山ノ女ドモヲナブッテ歩イタカラ、キモヲツブシタ顔ヲシテアトカラ来ルカラ、スシ飯ヲ食ウカト聞イタラ、好キダト云ウ故ニ、ソンナラ面白イトコロデすしヲ上ゲルトイッテ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)