風靡ふうび)” の例文
十年二十年ほど前には、やくざ小説がはやり、明治の初年には、義賊小説や泥棒芝居が恐ろしい勢いで、創作演劇の世界を風靡ふうびした。
でも、当時を風靡ふうびした官員さんの細君になったので、また縁がつながったものと見える。思うに私の母はちとしゃくだったに違いない。
悪党楠木の聞えは、かつて河内野を風靡ふうびした時代もある。それは藤房も知っていた。けれど“悪党”の称は、悪人の意味ではない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上書してすこぶる政府を威嚇いかくするの意を含めたものもある。旗勢をさかんにし風靡ふうびするの徒が辞表を奉呈するものは続きに続いた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
第一 病気の敵 今や我邦わがくに露西亜ろしあに向って膺懲ようちょういくさを起しました。我が海陸軍は連戦連勝の勢いでしきりに北亜の天地を風靡ふうびします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
伊太利イタリー乾物屋の店先の棒鱈のように寝そべっているのは、当時欧羅巴ヨーロッパ風靡ふうびしている裸体主義ニュディズムの流行に迎合しているのではない。
ことに十九世紀末から今世紀の初めにかけてオマル・ハイヤーム熱は一種の流行となって英米を風靡ふうびし、その余波は大陸諸国にも及んだ。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
メモランダムケースによる「好ましからざる人物」の折紙をつけられるはずもなく、名君吉良上野の令名は日本全国を風靡ふうびしていたであろう。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
その真価を判断するだけの眼識のないやからはたちまちこれに雷同して、一時はその説が天下を風靡ふうびするというありさまになる。
民種改善学の実際価値 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
日本が勝ち、ロシヤが負けたという意味の唄がまだ大阪を風靡ふうびしていたときのことだった。その年、軽部は五円昇給した。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
「国定忠次を初めとして、日本国中を風靡ふうびしたる長脇差を見よ。彼等は皆上州の産だ。上州長脇差という言葉さえ出来ている。静岡県の比でない」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
社交界と知識階級との一部を風靡ふうびしかけてるカトリック教の新たな潮流に、ジョルジュとオーロラとはとらわれていた。
十五の時に、はかまをひもでめる代わりに尾錠びじょうで締めるくふうをして、一時女学生界の流行を風靡ふうびしたのも彼女である。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この固形の飴が始まってから、急に小児の食物が変化し、町の小商人の才覚が農村を風靡ふうびしたことも想像し得られる。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたくし斷言だんげんする、わしごとたけく、獅子しゝごといさましき列國れつこく艦隊かんたい百千舳艫ひやくせんじくろならべてきたるとも、日章旗につしようきむかところおそらくば風靡ふうびせざるところはあるまいと。
そのころ大阪ですばらしい人気を呼んだ大衆劇の沢正さわしょうが、東京の劇壇へ乗り出し、断然劇壇を風靡ふうびしていたが、一つは水際みずぎわだった早斬はやぎりの離れわざ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのころは第一次大戦は終り、ロシア革命などの影響もあってデモクラシーが思想界を風靡ふうびした時代で、大正七年暮には東大に“新人会”が生まれた。
私の履歴書 (新字新仮名) / 浅沼稲次郎日本経済新聞社(著)
経済においても哲学においても文学においても個人主義にもとづいた自由主義がすべてを風靡ふうびする概がありました。
民芸の性質 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
たとえば近代物理学の領域を風靡ふうびした「波動力学」のごときもその最初の骨組みはフランスの一貴族学者ド・ブローリーがすっかり組み立ててしまった。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この人の父が、大阪中を風靡ふうびした、東西屋(チンドン屋)の元祖九里丸で、大阪奇人伝中の一人である。夜になると、囃子はやしの稽古をするので、私達子供は
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ベンサムの博学宏才をもって心を法典編纂にゆだぬること五十有余年、当時彼の著書は既に各国語に翻訳せられ、彼の学説は既に一世を風靡ふうびし、雷名轟々ごうごう
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「幟の画」とある以上、如何に鯉幟が天下を風靡ふうびしたところで、鯉の顔と解釈されるおそれはなさそうに思うが、念のために蛇足的説明を加えることにした。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
逍遙子が沒理想論出でゝ、その勢ほと/\我國の文學界を風靡ふうびせむとするを見て、われはハルトマンが現世紀の有理想論を鈔して世の文學者に示しゝなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
大正十年前後からにわかに勃興して一世を風靡ふうびし、映画女優と並んで遂に演劇女優の流行を奪い去るに至った。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
伝うるところによると、近来、武州八王子あたりから天狗小僧なるものが出現して、遠く美濃尾張あたりまでの聯珠界を風靡ふうびしているということだが、それだ!
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
イギリス年刊文学集が出だした頃のことで、後にバイロンふうが男を風靡ふうびしたように憂鬱ゆううつが女の流行となり初め、女性の髪は悲しげに装うことが初まっていた。
オオバネルは、ミストラル、ルウマニユ等と相結で、十九世紀の前半に近代プロヴァンス語を文芸に用ゐ、南欧の地を風靡ふうびしたるフェリイブル詩社の翹楚ぎようそなり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
日本国の威力が東半球を風靡ふうびし、つい四五年前までの国民には架空の夢でしかなかった偉大なる事業が、いま彼等の眼前に実現されつつある時、前線の勇士達は
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
し一つたとすれば、「しるこ」もまたあるひ麻雀戲マージヤンのやうに世界せかい風靡ふうびしないともかぎらないのである。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いまもなお、報知新聞社は丸の内の一角に、毅然として栄華を示しているけれど、往年全国の読書界を風靡ふうびした時代に比べれば、いささか下り坂だけは争えない。
春宵因縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
しかし海がなければ波が立たないと同じやうに、根本にしつかり触れた時代精神でなければ、決して一代を風靡ふうびするやうなすぐれた奇観を呈することは出来ない。
現代と旋廻軸 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
新体詩人の推敲すゐかう百端、未だ世間に知られずして、堕落書生の舌に任じて発する者即ち早く都門を風靡ふうびす、然る所以の者は何ぞや、亦唯耳をたふとぶと目を尚ぶとに因るのみ
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
剣を取って江戸を風靡ふうびする弓削法外先生のひとり娘である。夜みちを怖いとは思わないが——。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かつてあるフランスの作家のものが某名家の訳で一世を風靡ふうびし、いわゆる新興芸術派の一部に浅ましい亜流を輩出したとき、わが畏友いゆう吉村鉄太郎がひそかになげいたことがある
翻訳遅疑の説 (新字新仮名) / 神西清(著)
僕を商売人と見たので、また厭気がしたが、他日わが国を風靡ふうびする大文学者だなどといばったところで、かのじょの分ろうはずもないから、茶化すつもりでわざと顔をしかめ
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
紫式部、清少納言、和泉式部などがその絢爛けんらんたる才気によって一世いっせい風靡ふうびしたあの時期だ。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
また……ああ惜しいかな、前記の閨秀けいしゅう小説が出て世評一代を風靡ふうびした、その年の末。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無論史家である貴方は、中世ウェールスを風靡ふうびしたバルダス信経を御存じでしょう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この「ジャック」なる人物も狂医師のたぐいではあるまいかという当然の結論が生まれ、それが最高の権威をもって警視庁内外の専門家を風靡ふうびしたのだが、その問題の腎臓は該事件の二日後
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
一ころ露西亜ロシヤをバイロニズムが風靡ふうびした。そういう時代の世相をえがいたものである。うぶな少年にはその反社会的な行動が深刻に見なされて、矯激な思想の発揚に一種の魅惑を感じた。
こういう風に東京彫工会の成立が予期以上に盛大でありましたので、形勢全く一変し、東京の彫刻界を風靡ふうびするという有様で、会員は渦を巻いて集まって来て、三百人以上と称されました。
共産主義の運動への情熱が日本の青年層を風靡ふうびし、犠牲的な行動にまで刺衝したのは、同主義の唯物的必然論にもかかわらず、依然として包蔵している人道主義的思想のためであったのだ。
まだ私が銀座でシルクハットのうえ、チャルストンを踊っていたころ、友達の横田は亜米利加アメリカの流行女達の間に東洋人を情夫に持つことが紐育ニューヨークの社交界に風靡ふうびしだすとたちまち渡米してしまった。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
そして事実千里眼はまさに我が国の朝野を風靡ふうびする勢いとなった始末である。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
彼れ英邁の資を以て、親藩の威望を擁し、その直截ちょくせつ的哲理を鼓吹こすいす、天下いずくんぞ風靡ふうびせざらんや。尊王の大義は、元和げんな偃武えんぶいまだ五十年ならざるに、徳川幕府創業者の孫なる彼の口より宣伝せられぬ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
江戸に芭蕉起りて幽玄なる禅道の妙機をひらきて、主として平民を済度さいどしつゝありし間に、難波には近松巣林子出でゝ艶麗なる情筆をふるひて、一世の趣味を風靡ふうびしたり、次いで西鶴、其磧きせきの一流立ちて
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
翁の歿後、右の言葉は直訳的に福岡の同流を風靡ふうびした傾向がある。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
この象徴派の運動は、一時ほとんど欧洲の全詩壇を風靡ふうびしてしまった。いやしくも象徴派でないものは、新時代の詩人でないように考えられた。しかしながら反動は、必然の避けがたい法則で起って来た。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
スポーツアルピニズムは登山界を風靡ふうびしている。
ピークハンティングに帰れ (新字新仮名) / 松濤明(著)
風靡ふうびするであろう
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)