顱巻はちまき)” の例文
旧字:顱卷
爺どのは、うようにして、身体からだを隠して引返したと言いましけ。よう姿が隠さりょう、光った天窓あたまと、顱巻はちまき茜色あかねいろが月夜に消えるか。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眉太く、眼の細きが、むこうざまに顱巻はちまきしたる、額のあたり汗になりて、のしのしと近づきつつ、細き道をかたよけてわれを通せしが、ふりかえり
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まゆ太く、の細きが、むこうざまに顱巻はちまきしたる、ひたいのあたり汗になりて、のしのしと近づきつつ、細き道をかたよけてわれを通せしが、ふりかへり
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
微塵棒みじんぼうを縦にして、前歯でへし折ってかじりながら、縁台の前へにょっきりと、吹矢が当って出たような福助頭に向う顱巻はちまき
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……その弁慶が、もう一つ変ると、赤い顱巻はちまきをしめたたこになって、おどりを踊るのですが、これには別に、そうした仕掛しかけも、からくりもないようです。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どの店にも大きな人形を飾ってあるじゃないか、赤い裲襠しかけを着た姐様ねえさんもあれば、向う顱巻はちまきをした道化もあるし、牛若もあれば、弥次郎兵衛やじろべえもある。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ世に、とびの者の半纏はんてんいなせにして旦那の紋着もんつきは高等である。しかるに源ちゃんは両天秤りょうてんびん、女を張る時は半纏で、顱巻はちまき
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう寝返りも出来ないで、壁の方に片寝でいたお母さんがね、麻の顱巻はちまきかかった黒髪かみがこぼれて横顔で振向いた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
震えるない震えるない、何もそう、しゃけ天窓あたまを刻むようにぶりぶりするこたあねえ、なぐり込に来たのなら、たすきがけで顱巻はちまきよ、剃刀かみそりでも用意をしていらあ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なんわし顱巻はちまきしても、かよふ、あたゝか彫刻物ほりもの覚束おぼつかないで、……なんとかべつ工夫くふうたのむだ、なものは
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(ああ、青い顱巻はちまきをした方が、寝てでござんす、ちっとわきへ)と……まあ、難産の嫁御がそう言わしっけ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
打棄うっちゃっておかっせえ。面倒臭い、と顱巻はちまきしめた頭をって云うたれば、どこまでく、と聞かしっけえ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、小腰をかがめて差覗さしのぞき、頭をって呼掛けたのは、顱巻はちまきもまだらないままの植木屋の甚平爺さん。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあ、のつぺらぱうか、目一めひとつか、おのれ真目まじ/\とした与一平面よいちべいづらは。まゆなんぞ真白まつしろはやしやがつて、分別ふんべつらしく天窓あたま禿げたは何事なにごとだ。顱巻はちまきれ、恍気とぼけるな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
赤き顱巻はちまき向うざまにしめて、すそからげ、片肌脱ぎて、手にせる菓子の箱高く捧げたるがその銀六よ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、承った通り、現にこの間も、これこれと、向う顱巻はちまきの豪傑が引転ひっくりかえったなぞは、対手あいての急所だ、と思って、饒舌しゃべったには饒舌りましたが、……自若としている。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
荷は軽そうなが前屈まえかがみに、てくてく帰る……お千世がじいの植木屋甚平じんべい、名と顱巻はちまき娑婆気しゃばけがある。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さあ、何とか云うお茶屋であった。」と、独言ひとりごとのように云って、顱巻はちまきらして仰向く。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後退あとじさって、向うざまに顱巻はちまきを占め直した。手をそのまま、花火のごとく上へ開いて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とようよう起直って、顱巻はちまきを取ると、あわれなほど振りかかる後れ毛を掻上げながら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とおかしそうに正向まむきに見られて、やっこは、口をむぐむぐと、顱巻はちまきをふらりと下げて
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
厚紙もて烏帽子えぼしを作りてこうむり、はたきを腰に挿したるもの、顱巻はちまきをしたるもの、十手を携えたるもの、物干棹ものほしざおになえるものなど、五三人左右に引着けて、かれは常に宮のきざはしの正面に身構えつ
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ともしび一つに附着合くッつきあって、スッと鳥居をくぐって来たのは、三人ひとしく山伏なり。白衣びゃくえに白布の顱巻はちまきしたが、おもてこそは異形いぎょうなれ。丹塗にぬりの天狗に、緑青色ろくしょういろ般若はんにゃと、つら白く鼻の黄なる狐である。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのしわだらけなひたいに、顱巻はちまきゆるくしたのに、ほかほかと春の日がさして、とろりと酔ったような顔色がんしょくで、長閑のどかにくわを使う様子が——あのまたその下のやわらかな土に、しっとりと汗ばみそうな
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大柄な婦人おんなで、鼻筋の通った、容色きりょう、少しすごいような風ッつき、乱髪みだれがみ浅葱あさぎ顱巻はちまきめまして病人と見えましたが、奥ののふちに立膝をしてだらしなく、こう額に長煙管をついて
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まあ、のめり込んだ御堂の中に、月にぼやっと菅笠ほどの影が出来て、大きなふくろう——また、あっちの森にも、こっちの林にも鳴いていました——その梟が、顱巻はちまきをしたような、それですよ。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに三画伯の扮装いでたちを記したのをて、衒奇げんき、表異、いささかたりとも軽佻けいちょう諷刺ふうしの意をぐうしたりとせらるる読者は、あの、紫の顱巻はちまきで、一つ印籠何とかの助六の気障きざさ加減は論外として
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車夫わかいしはたった今乗せたばかりの処だろう、空車からぐるまの気前を見せて、ひとけで、顱巻はちまきの上へ梶棒かじぼうを突上げるいきおいで、真暗まっくらな坂へストンと摺込すべりこんだと思うと、むっくり線路の真中まんなかを躍り上って、や
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
猪口ちょこに二つか、三つか、とお思いなすったのが、沈んでばかり飲むせいか、……やがて、近常さんの立ちなすった時は、一座大乱れでもって、もうね、素裸のおでこへ、おひらふた顱巻はちまきで留めて
ふんどしかけがえを一条ひとすじ煮染めたような手拭てぬぐい、こいつで顱巻はちまきをさしたまま畳み込んだ看板、兀げちょろの重箱が一箇ひとつ、薄汚え財布、ざッとこれで、身上しんしょうのありッたけを台箱へ詰め込んだ空車からぐるまをひいて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たちまち妙な顔、けろけろと擬勢の抜けた、顱巻はちまきをいじくりながら
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これをしおに、分れようとすると、片手で顱巻はちまきかなぐり取って
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山のすすき顱巻はちまきを突合せて、あの親仁はまた反った。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かこい網の見物に(われは坊主頭に顱巻はちまきして)と
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天窓あたまでざまに、するりと顱巻はちまきいて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)