頓死とんし)” の例文
それともほかにわけがあったのかもしれない、幼ない彼にはわからなかったが、二人の姉はいなくなり、まもなく、父親も頓死とんしした。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日本精神病学界の双璧といわれて居る狩尾博士が脳溢血で頓死とんしされなかったら、あのまゝ従前の活動状態に復帰されたかも知れぬ。
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
こうして話しながら引返したが、変死、頓死とんし——とにかく父は尋常の死方をしたのではないということが、私たちの頭に強く感じられた。
父の出郷 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
いつか故参になった自分は、女房を持たせて、暖簾のれんを分けて貰うことになっていると、先代の穂積の主人が卒中して、六十五歳で頓死とんしした。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
伯父様にきずのつかぬやう、我身が頓死とんしする法は無きかと目は御新造が起居たちゐにしたがひて、心はかけ硯のもとにさまよひぬ。
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うさ。お父さんは一度や二度じゃ通じない。サンザ言い直した後がお話中と来る。ところでもう一人ある。此奴は郵便局で頓死とんししてしまった。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おすぎの夫は、坑内の人車捲じんしゃまきの係りをしていたのだが、仕事の帰りに、疾走してくる材料運搬車に跳ねられて頓死とんしした。一年まえのことである。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
そして一昨年の春、くわしく言えば六月十日に、折柄来訪して来た笛吹川画伯の頓死とんし事件を開幕劇として怪奇劇は今尚、この館に上演中なのです。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
園は欠席届書を小母おばさんにたくし、不幸というのは父が頓死とんししたのだということを簡単に告げて、座を立つことになった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「届出は頓死とんしだが、——あの辺は石原いしはらの利助兄哥あにきの縄張内だ。昼頃変な小僧が手紙を持って来たんだそうで、おしなさんが持って来て見せてくれたよ」
そのマルファ・ペトローヴナは、あとでドゥーニャにわびをしたんだがね。今度突然頓死とんししたんだよ。さっきあすこで話していたのは、その女のことさ。
最早もう、虚無党の御世話になる必要は無いよ、クルップの男色をあばいてやれば、たちま頓死とんしするし、伊太利大蔵大臣の収賄しうわい素破抜すつぱぬいてやればただちに自殺するしサ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
送りたり然るに小兵衞は尾張町の呉服だな龜屋かめやの番頭仁兵衞といふ者に取入とりいり呉服物を二三百兩づつ預りて商賣しやうばいしける所に此仁兵衞頓死とんしして一向勘定合かんぢやうあひの分らざるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
妻の知らないに、こっそりこの世からいなくなるようにします。私は死んだ後で、妻から頓死とんししたと思われたいのです。気が狂ったと思われても満足なのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれが仏なら、七蔵しちぞう頓死とんしさして行衛ゆくえしれぬ親にはめぐりあわせ、宮内省くないしょうよりは貞順善行の緑綬りょくじゅ紅綬紫綬、ありたけ褒章ほうしょう頂かせ、小説家にはそのあわれおもしろく書かせ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もし鎮守府司令長官も頓死とんしか何か遂げたとすれば、——この場合はいささか疑問かも知れない。が、まず猫ほどではないにしろ、勝手の違う気だけは起ったはずである。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『しかし、美濃守殿みののかみどのも、不慮ふりよのことでなう。江戸表參覲えどおもてさんきんがけに、ものなか頓死とんしするといふのは椿事中ちんじちう椿事ちんじだ。』と、但馬守たじまのかみ言葉ことばは、といふことになると
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
死ねば頓死とんしさ。そうなりゃ香奠こうでんになるんだね。ほほほほほ。香奠なら生きてるうちのことさ。此糸さん、初紫さん、香奠なら今のうちにおくんなさいよ。ほほ、ほほほほ
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
徳さんの聞き伝えた所によると、その人は、卒中で頓死とんしをしたらしいということである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
右近のほうでは夫人を頓死とんしさせた責任者のように言われるのをつらくも思っていたし、源氏も今になって故人の情人が自分であった秘密を人に知らせたくないと思うふうであったから
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
家へ帰って五日目に心臓痲痺まひを起して頓死とんししたとやら、ひとの行末は知れぬもの。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
やがて愛らしい花嫁となる処女むすめが、祝言しゅうげんの前晩に頓死とんしするのもある、母親の長い嘆きとなるのも知らずに。麻痺まひしたしんの臓のところに、縫いかけた晴れ着をしっかり抱き締めたりしてな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
頓死とんしだった——ジャンナン夫人にとっては仕合わせというべきである——
私の父親が頓死とんしをしたために、まだ学士になったばかりの無経験のまま、この工場を受け継がせられた……そうしてタッタ今、生れて初めての実地作業を指揮すべく、引っぱり出されたのである。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
よく、その慈姑くわい咽喉のどに詰って、頓死とんしをしなかったよ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第五の見慣れぬ旅人 頓死とんししたものとも思える。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「病気とも頓死とんしとも書いてないわ」
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
伯父樣おぢさまきずのつかぬやう、我身わがみ頓死とんしするはうきかと御新造ごしんぞ起居たちゐにしたがひて、こゝろはかけすゞりのもとにさまよひぬ。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
して居たが、身體には傷も何んにも無い。が、死んで冷たくなつてゐたことは本當で、水も呑まず、絞め殺された跡もなく、誰が見てもこれは頓死とんしです
保吉はきのうずる休みをしたため、本多少佐の頓死とんしを伝えた通告書を見ずにしまったのである。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「死んでいることは確かだネ、だがこれは尖端嬢の頓死とんし事件じゃないのかネ。普段心臓が弱かったとかなんとかいう……。要するに、見たところ、何の外傷もないし——」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
但馬守たじまのかみ玄竹げんちくあいしたのは、玄竹げんちく岡部美濃守をかべみののかみ頓死とんし披露ひろうするにもつと必要ひつえう診斷書しんだんしよを、なんもとむるところもなく、淡白たんぱくあたへたといふこゝろ潔白けつぱくつたのがだい一の原因げんいんである。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ヴァトレー氏が胸の痛みで頓死とんししたところであることを、彼は知った。あとに一人残された娘のことを考えて、彼はしみじみと同情を覚えた。ヴァトレー氏の親戚しんせきは一人もわかっていなかった。
まだきっとあの茶壺のからっぽな事にはお気附きづきなさらず、相変らず日に四度ずつ見廻りに行っている事でありましょうが、お気附きなさらぬままで頓死とんしでもなさったならば、ばばさまも仕合せ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
言い置いて行きたい事も定めてあったろう。聞きたい事、話したい事もたくさんあった。惜しい事をした。好い年をして三遍も四遍も外国へやられて、しかも任地で急病にかかって頓死とんししてしまった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一服出して来て、これは彫金の地金に混ぜる薬で、一般には売っていない劇薬だが、飲んで一時間たつと頓死とんしする、ちっとも苦しまずに死ねるから、本当に死ぬ気ならお飲みなさいと云って、湯呑に水を
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おぬひあきれて貴君あなた其樣そのやうこと正氣せうきおつしやりますか、平常つねはやさしいかたぞんじましたに、お作樣さくさま頓死とんししろとはかげながらのうそにしろあんまりでござります
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「絞めたのでも、毒殺でもなく、水を呑んでも居ないといふと、頓死とんしぢやないか。若い娘が夜中に戸外へ出て、卒中で死んで井戸に落ちるなどは話の種だぜ」
お由の屍体は直ぐに大学病院に運ばれて解剖にされたが、其処からは何等犯罪的な死因は得られず、或いは一種の頓死とんしではないかとさえ言われたが、屍体損壊そんかいの点から見ても
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
美華禁酒びかきんしゅ会長ヘンリイ・バレット氏は京漢けいかん鉄道の汽車中に頓死とんししたり。同氏は薬罎くすりびんを手に死しいたるより、自殺の疑いを生ぜしが、罎中の水薬すいやく分析ぶんせきの結果、アルコオル類と判明したるよし。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここで我れが幸福しやわせといふを考へれば、帰国するに先だちておさく頓死とんしするといふ様なことにならば、一人娘のことゆゑ父親てておやおどろいて暫時しばしは家督沙汰ざたやめになるべく
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
昨年の暮——まだ三十臺で頓死とんし、これは間違ひもなく卒中で、お勝手で正月料理の指圖をして居るうち、不意に引つくり返つて、遺言する暇もなく息を引取つてしまつたのです。
そしてこんな死刑囚火辻軍平ひつじぐんぺいの病気だらけのからだを借りていると、いつ頓死とんしするか知れたものではないし、そうかといって、まただれかのからだを手に入れ、その中にはいったとしても
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三菱みつびし会社員忍野半三郎は脳溢血のういっけつのために頓死とんししたのである。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
首に繩の跡が無ければ、頓死とんしでも濟まないことは無い。と思つたが、官兵衞が死んだのを見て階下へ降りてから、萬々一息を吹返したらどうしよう——と、それが心配になつた。
紛失ふんしつした死体の主は、上野駅のまえで、トラックに追突ついとつされてひっくりかえり、運わるく頭を石にぶつけて、脳の中に出血を起こして頓死とんしした四十に近い男であって、どこの何者ともわからず
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なに此樣こん身分みぶんうらやましいことか、こゝでれが幸福しやわせといふをかんがへれば、歸國きこくするにさきだちておさく頓死とんしするといふやうなことにならば、一人娘ひとりむすめのことゆゑ父親てゝおやおどろいて暫時しばし家督沙汰かとくざたやめになるべく
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「息子番附の大關、向う柳原一番の良い男丹波屋の清次郎が、昨夜頓死とんししましたよ」
二十日前に主人佐兵衞が頓死とんしいたしましたので、その日のうちに大阪へ急使を
二十日前に主人佐兵衛が頓死とんしいたしましたので、その日のうちに大坂へ急使を