逍遥しょうよう)” の例文
アグリパイナは、ネロの手をひいて孤島のなぎさ逍遥しょうようし、水平線のかなたを指さし、ドミチウスや、ロオマは、きっと、あの辺だよ。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
不可思議なる神境から双眸そうぼうの底にただようて、視界に入る万有を恍惚こうこつの境に逍遥しょうようせしむる。迎えられたる賓客は陶然とうぜんとして園内に入る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明治の時代中ある短日月の間、文章と云えば、作に露伴紅葉四迷篁村こうそん緑雨美妙等があって、評に逍遥しょうよう鴎外があるなどと云ったことがある。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼等はことごとく家族をあとに、あるいは道塗どうと行吟こうぎんし、あるいは山沢さんたく逍遥しょうようし、あるいはまた精神病院飽食暖衣ほうしょくだんいするの幸福を得べし。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むかし、秋田何代かの太守が郊外に逍遥しょうようした。小やすみの庄屋が、殿様の歌人なのを知って、家に持伝えた人麿の木像を献じた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紅葉こうよう露伴ろはん樗牛ちょぎゅう逍遥しょうようの諸家初めより一家の見識気品を持して文壇にのぞみたり。紅葉門下の作者に至りても今名をなす人々皆然り。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
万葉集にある浦島うらしまの長歌を愛誦あいしょうし、日夜低吟ていぎんしながら逍遥しょうようしていたという小泉八雲は、まさしくかれ自身が浦島の子であった。
これらみ仏そのままの風貌ふうぼうで、飛鳥びとはこの辺を逍遥しょうようしていたのであろうか。そこには永遠の安らいがあったに相違ない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
松林を徘徊はいかいしたり野逕のみち逍遥しょうようしたり、くたびれると帰つて来て頻りに発句を考へる。試験の準備などは手もつけない有様だ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼は毎日、家のまわりを、ひとりで逍遥しょうようして、独りでニヤニヤしていた。そういう時の彼の笑い顔は、実に柔和で、明るいかがやきが溢れている。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくまで豪毅ごうき、あくまで沈着、さながら春光影裡しゅんこうえいり斑鳩いかるがの里を逍遥しょうようし給う聖徳太子のおもかげしのばれんばかりであった。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
その日は春も弥生やよい半ばで、霞のめた遠山のけしき、ところ/″\の谷あいの花の雲などに誘われて、ついうか/\と逍遥しょうようしてみたくなったのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
県下の大半の人間が衣裳を飾って楽しげに木蔭を逍遥しょうようしているが、煌々こうこうたるこの照明の中では誰にも何ら不思議なものとも怖ろしいものとも思われない。
美奈子が、廊下から、そっとその庭へ降り立ったとき、西洋人の夫妻が、腕を組合いながら、芝生の小路を、逍遥しょうようしている外は、人影は更に見えなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
真実に脱俗して栄華の外に逍遥しょうようし、天下の高処におりて天下の俗を睥睨へいげいするが如き人物は、学者中、百に十を見ず、千万中に一、二を得るも難きことならん。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
佐佐木信綱のぶつな、森鴎外、坪内逍遥しょうよう、という大先輩の御後援をいただいて、鴎外先生は新たに「曾我兄弟そがきょうだい」をお書き下さるし、坪内先生は、「浦島」の中之段だけ
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しんを凝らし、もってますます妖怪の蘊奥うんおうを究め、宇宙の玄門を開き、天地の大道を明らかにし、生死の迷雲を払い、広く世人をして歓天楽地の間に逍遥しょうようせしめ
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
何百年の昔よりこのかた朝の露さやけしといいては出で夕の雲花やかなりといいてはあこがれ何百人のあわれ知る人や逍遥しょうようしつらん相にくむ人は相避けて異なる道を
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
……うねったり輪をいたりしながら、幾組もの男女が入り乱れて動いている一方には、ほかの組々が腕を組み合わせて、広間じゅうをぐるぐると逍遥しょうようしている。
上陸して逍遥しょうようしたきは山々なれど雨にさまたげられて舟を出でず。やがてまた吹き来し強き順風に乗じて船此地を発し、暮るる頃函館はこだてに着き、ただちに上陸してこの港のキトに宿りぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大井の野に残った殿上役人が、しるしだけの小鳥をはぎの枝などへつけてあとを追って来た。杯がたびたび巡ったあとで川べの逍遥しょうようあやぶまれながら源氏は桂の院で遊び暮らした。
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
同島南海岸を逍遥しょうよう中、海浜より七、八メートル離れた這松はいまつの根元に、四十五、六歳ぐらいのねず背広、格子縞こうしじま外套オーバアーの紳士がくれないに染んで倒れ、さらに北方十二メートルのところに
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
花桐の里方では、彼女を倉の中に閉じ込め、謹しみと罪科とによって庭にも逍遥しょうようできぬようにした。倉の中の一室は秋深くうすら寒くすらあって、来る日も彼女は一つの窓から外を眺めた。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
この時から、二つにたち割られた場所のなかで、彼の逍遥しょうようがはじまった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
秋もけて、暁闇ぎょうあんがすぐに黄昏たそがれとなり、暮れてゆく年に憂愁をなげかけるころの、おだやかな、むしろ物さびしいある日、わたしはウェストミンスター寺院を逍遥しょうようして数時間すごしたことがある。
水を入れたガラスばこがいくつも並んでいる。底に少しばかり砂を入れていろいろが植えてある。よく見ると小さな魚がその藻草の林間を逍遥しょうようしている。瑪瑙めのうで作ったような三分ぐらいの魚もある。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
市の中心をること遠き公園の人気少き道を男女逍遥しょうようす。
最終の午後 (新字新仮名) / フェレンツ・モルナール(著)
今こそ私は、自由な天地に逍遥しょうようしているのであった。
十一月十七日 金沢市逍遥しょうよう
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
之と争って、時われに利あらず、旗を巻いて家を飛び出し、近くの井の頭公園の池畔をひとり逍遥しょうようしている時の気持の暗さは類が無い。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
自分はそれをしおに拝殿の前面を左右に逍遥しょうようした。そうして暑い日をさえぎる高い常磐木ときわぎを見ていた。ところへ兄が不平な顔をして自分に近づいて来た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、供奉の公卿たちも、ここでは山上の潔斎けっさいも解かれて、俗称“もみじ寺”の今を盛りなもみじの間を逍遥しょうようしあった。
「信道知識」即ち同信同行の一類眷属けんぞくも、現世安穏、来世には生死を解脱げだつして三尊にしたがいまつり、不生不死なる涅槃ねはんの彼岸に逍遥しょうようせられ、しかも尽きざる功徳により
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
昨夕へいげんと両々手を携えて門前を逍遥しょうようし、家に帰りて後、始めて秘蔵せし瑞西スウィッツル製の金時計を遺失せしをりぬ。警察に訴えて捜索を請わんか、可はすなわち可なり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
滑稽こっけいなことはみなが庭園へ出て逍遥しょうようした時佐助は春琴を梅花の間に導いてそろりそろり歩かせながら「ほれ、ここにも梅がござります」と一々老木の前に立ち止まり手をってみき
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
文学は伝記にあらず、記実にあらず、文学者の頭脳は四畳半の古机にもたれながらその理想は天地八荒の中に逍遥しょうようして無碍むげ自在に美趣を求む。はねなくして空にかけるべし、ひれなくして海に潜むべし。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
当時もしこの開成校をして幕府の政権を離れ、政治社外に逍遥しょうようして真実に無偏・無党の独立学校ならしめ、その教員等をして真実に豪胆独立の学者ならしめなば、東征の騒乱、何ぞ恐るるに足らんや。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
蒲公英たんぽぽの咲く長堤を逍遥しょうようするのは、蕪村の最も好んだリリシズムであるが、しかも都会の旗亭きていにつとめて、春情学び得たる浪花風流なにわぶりの少女と道連れになり、喃々戯語なんなんけごかわして春光の下を歩いた記憶は
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
小紋の羽織にふところして逍遥しょうようするを見るのみ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
片瀬河畔逍遥しょうよう。まさを居。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
淵明、王維の詩境を直接に自然から吸収して、すこしのでも非人情ひにんじょうの天地に逍遥しょうようしたいからのねがい。一つの酔興すいきょうだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
松下嘉兵衛まつしたかへえのやしきを出て、食も宿もなく、山林を逍遥しょうようしていた時代の自分が——ふと思い出されてきた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「漢陽は、遠いなあ。」いずれが誘うともなく二人ならんでびょうの廊下から出て月下の湖畔を逍遥しょうようしながら、「父母いませば遠く遊ばず、遊ぶに必ず方有り、というからねえ。」
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
御歯黒おはぐろ蜻蛉とんぼが、鉄漿かねつけた女房にょうぼの、かすかな夢の影らしく、ひらひらと一つ、葉ばかりの燕子花かきつばたを伝って飛ぶのが、このあたりの御殿女中の逍遥しょうようした昔の幻を、寂しく描いて、都を出た日
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さわやかな山麓さんろくの秋の空気を深々と吸い、ときどき湖のほとりの路を逍遥しょうようしたり、二階の部屋のベッドの上に身を横たえつつ富士の姿を窓越しにながめたりするだけで、既に十分満足であった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
公務あるものは土曜日曜をかけて田舎廻りを為すも可なり。半日のかんぬすみて郊外に散歩するも可なり。むなくんば晩餐ばんさん後の運動に上野、墨堤ぼくてい逍遥しょうようするもあに二、三の佳句を得るに難からんや。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
おそらく飛鳥あすか天平てんぴょうの人たちも、この道を逍遥しょうようしたことであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「夢窓国師や大燈国師になるから、こんな所を逍遥しょうようする価値があるんだ。ただ見物したって何になるもんか」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
折ふし、落葉のけむりを仰ぎ、ひとり逍遥しょうようしながら、吟じているものがあった。人見又四郎かも知れない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鷲になって、蔵の窓から翼をひろげて飛びあがり、心ゆくまで大空を逍遥しょうようした。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)