赤児あかご)” の例文
旧字:赤兒
乳離れの赤児あかごにちょうどいい菓子は僕が今拵えてげるよ。お徳や、例の軽焼餅を持っておいでな。大原君、この軽焼餅は別製だぜ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかしその言葉が終らない内に、もうそこへはさっきの女中が、ばたばた上草履うわぞうりを鳴らせながら、泣き立てる赤児あかごきそやして来た。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
甘藷を手掘りすると、早生は赤児あかごの腕程になって居る。大根、漬菜つけなを蒔かねばならぬ。蕎麦、秋馬鈴薯もそろ/\蒔かねばならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
脚気症の母乳はよく赤児あかごの脳を犯すことや、その取り返しのつかない将来すえのことを思うと、絶対にやってはならないことだった。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
金力と云ったものが、丸切り奪われている父が、黄金魔と云ってもよいような相手から、赤児あかごの手をじるように、苛責いじめられる。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
セメントの橋の上を材木置場の番人かと思われる貧し気な洋服姿の男が、赤児あかごを背負った若い女と寄添いながら歩いて行く。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこで、鬼子母神を念ずれば、諸願円満なるこというに及ばず、なかんずく赤児あかごを守り、乳の出ない婦人が祈るとことのほか霊応いちじるしい。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
医「それから愚老が懐中から四文銭を出して、赤児あかごの手へ握らせますと、すうと手を引込ひっこまして頭の方から安々やす/\と産れて出て、お辞儀をしました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小供等さへ高い声も立てない。時偶ときたま、胸に錐でも刺された様な赤児あかご悲鳴なきごゑでも聞えると、隣近所では妙に顔を顰める。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから時を移しても、赤児あかごの啼く声がちっとも聞えないので、崔は怪しんでうかがうと、赤児もまた殺されていた。
この時、崖下の小屋の中でたくましい赤児あかごの泣き声がした。山吹が子供を産み落としたのである。産まれた子供は男であった。で、猪太郎ししたろうと名付けられた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大人おとなにしてなお赤児あかごのごとし」という語があるが、しいて赤児のごとくにならずとも、すくなくともいつまでも青年の気概きがいうしなわずにあるを要する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
葉子はその顔を見て、恐ろしい大胆な悪事を赤児あかご同様の無邪気さで犯しうるたちの男だと思った。葉子はこんな無自覚な状態にはとてもなっていられなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
天上に二三の星が何かを招くようにきらめき、地上にぽつぽつと明りが光りそめることは、朝赤児あかごが目をあくのと同じ新鮮な感じで彼をおののかすのであった。
これよりは騒ぐことはなけれど、精神の作用はほとんど全く廃して、そのなること赤児あかごのごとくなり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そうなるまでは、作品は母体に結びつけられてる赤児あかごであり、生きた肉体にびょう付けされてる生けるものである。生きんがためには、それを切断しなければいけない。
赤児あかご』は重瞳ぢゆうどうの三男をしたのである。奥方は何と云ふ罪障つみの深い自分だらうと考へ出した。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ひところはしゅうとめおまんの手飼いの白でも慕って来るかして、人の赤児あかごのようにく近所の三毛や黒のなき声がうるさいほどお民の耳についたが、今はそんな声もしないかわりに
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母はそう言って赤児あかごを抱き取り、くろずんだ乳首を含ませながら、お産の話をしはじめた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
借さないのみならずいまだに佐助が赤児あかごの父親であることを否定するどころなく二人を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そっとのぞいて見ると、爼板まないたの上に赤児あかごのようなものを載せて、しきりに料理していた。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
通されたのは二階の六畳の書斎であったが、庭を瞰下みおろすと、庭には樹から樹へひもを渡して襁褓おしめが幕のように列べてしてあって、下座敷したざしき赤児あかごのピイピイ泣く声が手に取るように聞える。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一隅に小さい葛籠つづら、その傍に近所の人の情けでこしらえた蒲団ふとん赤児あかごがつぎはぎの着物を着て寝ていて、その向こうに一箇の囲炉裏いろり、黒い竹の自在鍵じざいかぎ黒猫くろねこのようになった土瓶どびんがかかっていて
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
今三人の前に生れてから三月ばかりった一人の赤児あかごが、美しいきれに包まれて捨てられているのでした。伊作の話では、伊作の最初に見付けた時は、赤児はよく眠っていたということでした。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
すなわち人の真正の任務は自己の活働によって法を実現することである。救いとは赤児あかごが母のふところに抱き取らるるがごとく何物かに抱きとらるることではなくして、自己を仏にすることである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そなたは、どこかまだ、ほんとうに、生れたての赤児あかごのようなところがあるよ。お父さまには、役所の勤めもあるので、そうもゆかぬ。……が、ここへ来る夜は、夜更くるまでも、教えてやろうぞ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月琴から出た裸体はだか赤児あかご
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
午前一時、隣の赤児あかご泣く。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
赤児あかごを牛乳で育てる人は少し胃腸が悪くなると、オヤオヤこの子が下痢げりするよ、きっと牛乳屋で青草ばかり牛に食べさせるからだろう
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
或者は裾踏み乱したるまま後手うしろでつきて起直おきなおり、重箱じゅうばこの菓子取らんとする赤児あかごのさまをながめ、或者はひと片隅かたすみの壁によりかかりて三味線をけり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この赤児あかごはらんだ実は深い山の奥を離れたのち、どういう人の手に拾われたか?——それはいまさら話すまでもあるまい。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今迄自分の立つて居る石橋に土下座して、懐中ふところ赤児あかごに乳を飲ませて居た筈の女乞食が、此時にはかに立ち上つた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
討って取るは、赤児あかごを捻るより尚容易たやすい。引き抜いて払えば形がつく。お前が眼開めあきで侍なら、用捨はしない、切っても捨てよう。が、お前の身分ではなア
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はあわてゝ元来た方角へ引返そうとすると、どこかで赤児あかごく声がきこえたので亭主は又ぎよつとした。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、なんの感じも起こさないうちに、熟睡からちょっと驚かされた赤児あかごが、またたわいなく眠りに落ちて行くように、再び夢ともうつつともない心に返って行った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「はい。旅から旅へ歩くのに、赤児あかごをつれていては、手足まといになるとか——」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
髪の乱れた肥ったかかあが柱によりかかって、今年生まれた赤児あかごに乳を飲ませていると、亭主らしい鬚面ひげづらの四十男は、雨に仕事のできぬのを退屈そうに、手を伸ばして大きなあくびをしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
おあさは小股こまたの切り上った、おしりの小さい、横骨の引込ひっこんだ上等物で愛くるしいことは、赤児あかごも馴染むようですが、腹の中は良くない女でございますけれど、器量のよいのに人が迷います。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
赤児あかご揺籃ゆりかごの中でうごめいている。老人は戸口に木靴を脱ぎすててはいって来たが、歩く拍子に床板ゆかいたきしったので、赤児はむずかり出す。母親は寝台の外に身をのり出して、それをすかそうとする。
へびから赤児あかご
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
長吉はこの種の音楽にはいつも興味を以て聞きれているので、場内の何処どこかで泣き出す赤児あかごの声とそれを叱咤しったする見物人の声に妨げられながら
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、それよりも不思議なのはその実はさねのあるところに美しい赤児あかごを一人ずつ、おのずからはらんでいたことである。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕の田舎では赤児あかごがまだ誕生にならん内からめしでも餅でも団子でも炒豆いりまめでも何でも不消化物を食べさせるふうだから大概な赤児は立つ事もろくに出来ないで茶漬飯ちゃづけめし
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
赤児あかごのときから日の光をうけずに育つたにも似ないで、かれの顔は玉のやうに輝いてゐた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「それでは法蔵寺の墓地を開いて赤児あかごしがいでも引き出して三ばいにして食わせようかい」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
親娘おやこ三人づれで上方の旅へ出かけるとき、ほんの赤児あかごでごぜえましたから、いま成人していらっしゃれば、顔を見てもわかるわけはねえのですが、なに、あの古石場にいなすった娘さんなら
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこの恐ろしい沈黙の中から起こる強い快い赤児あかご産声うぶごえ——やみがたい母性の意識——「われすでに世に勝てり」とでもいってみたい不思議な誇り——同時に重く胸を押えつける生の暗い急変。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
主人は近所の工場こうじょうか何かへつとめに行った留守るすだったと見え、造作ぞうさくの悪い家の中には赤児あかご乳房ちぶさを含ませた細君、——彼の妹のほかに人かげはなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其の赤児あかごをば捨児すてごのやうに砂の上に投出してゐると、其のへんにはせた鶏が落ちこぼれた餌をも𩛰あさりつくして、馬の尻から馬糞ばふんの落ちるのを待つてゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
岸へ持って来て打ちこわすと、瓶のなかからは身のたけ一尺ばかりの赤児あかごおどり出したので、小児らはおどろき怪しんで追いまわすと、たちまち足もとに一陣の旋風が吹き起って