譜代ふだい)” の例文
信長に会う前に、まず羽柴藤吉郎はしばとうきちろうという者に会おう。場合によっては、譜代ふだいの大身を介さないで、その人を通じて、信長に会おう。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の奉公している杉浦中務の屋敷は六百五十石で、旗本のうちでもまず歴々の分に数えられているので、用人や給人はすべて譜代ふだいである。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
則重が凡庸のうつわであるとすれば、譜代ふだいの臣と云う訳でもない河内介がそう云う大志をいだくのは戦国の世の英雄として有りがちのことであり
かりにまた譜代ふだいの家来に過分の加増をするとしても、その家来もまた知行高相応の軍役を勤むるためには、新たに郎党を召し抱えねばならぬ。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その時にうまく私を籠絡ろうらくして生捕いけどって仕舞しまえば譜代ふだいの家来同様に使えるのに、かえってヤッカミ出したとは馬鹿らしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかも、そこにあるのは、彼の心もちに何の理解もない、いたずらに万一をおそれている「譜代ふだいの臣」ばかりである。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あわよくば太閤の故智を襲わんとしているのに、小栗は、輪廓において、忠実なる徳川家の譜代ふだいであり、譜代であるがゆえに、徳川家のためにはかって、且つ
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
花田準造は江木弥作親分から乞いうけて貰った子分といえば、一種の外様とざま大名だ。譜代ふだい大名である友田喜造とは、なにかと暗流を衝突させているのかも知れない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
にくみて種々折檻せつかんなしあまつさへ藤三郎の乳母お安と言女をも永のいとまを遣したり其わけは此乳母先代平助の時より奉公ほうこうに來り譜代ふだい同樣のきめにて藤三郎の乳母となせしかば藤三郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あけの七つから一門、譜代ふだい大名、三千石以上の諸役人が続々と年始の拝礼に参上して、太刀たち目録を献上する。大中納言、参議中将、五位の諸太夫等には時服じふくりょうずつ下し置かれる。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
細川のような徳川譜代ふだいと同様の感のあった大諸侯までが参覲交代の復旧を非難するとは幕府としてはえられなかったことで、この際どんな無理をしても幕府の頽勢たいせいを盛り返し
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「涌谷さまが訴訟のために出府を許されてから、御譜代ふだい外様とざまの大名がたでいろいろとうわさがあり、会津中将(保科ほしな正之)さまでさえ、一ノ関が悪いと仰せられているということです」
りて倩々つく/″\あんずるに、國許くにもとさふらふ恩田杢おんだもく申者まをすもの老職らうしよく末席ばつせきにて年少ねんせうなれど、きつと器量きりやうあるものにつき、國家こくか政道せいだうげてまかまをさむとぞんずるが、それがしかれ若年じやくねんなれば譜代ふだい重役ぢうやくをはじめ家中かちうものども
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
炭薪すみまき奉行だの土木奉行だのは、役目だけからいえば、格の高い譜代ふだいの士が勤める地位のものであるが、彼の血は多分に若いのだ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侍でいえば譜代ふだいの家来で、殊に児飼こがいからの恩もあるので、彼はどうしても主人を見捨てることはできない因縁いんねんになっていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御三家ごさんけの事だから譜代ふだい大名の家来は大変にあがめて、仮初かりそめにも隠居などゝ呼棄よびすてにする者は一人ひとりもない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その新徴組の中で、最も怖れらるる近藤勇、土方歳三らは、もと徳川の譜代ふだいでもなんでもない。
兎のお吸物とお茶の式がある。お白書院がこれに相伴しょうばんする。御三家が済んで、御連枝溜詰ごれんしたまりづめ、大広間譜代ふだい柳間出仕やなぎのましゅっし寄合御番よりあいごばん幸若観世太夫こうわかかんぜだゆうと順々に装束を正して将軍拝賀に出る。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
惣内の女房とし續て伯父の九郎兵衞も惣内方へ介抱人かいはうにん這入はひりお深と夫婦になりて消光くらし居たり其後九助は親九郎右衞門が質に入置たる田地を請戻し譜代ふだい召使めしつかひ三五郎を鍬頭くはがしらとして元の如くに家を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「徳川幕府という機構のなかで、十善人の一に数えられていることは認めよう、だが、侯はどこまでも徳川氏の譜代ふだいであり、幕府閣僚の一人だ、外様とざま諸侯の代弁者でもなければ、もとより伊達家の庇護ひご者でもない」
ただ当り前以上に出ない譜代ふだいの侍だった。平常の時務には、かえって、こういう人間が、人一倍、便利でよく働くものだった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は譜代ふだいの家来であった。五十以上の分別ありげな彼の顔にも、苦労のしわがきざんでいるのがありありと見えた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なにしろ武力の権を一手に握り、家康が選定した江戸の城に根を構え、譜代ふだい外様とざま掩護えんごのほかに、八万騎の直参を持っているのですから、そう一朝一夕に倒れるというわけにはいきますまいから
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
請る而已のみすこしも取上らるゝ事などなく又差添さしそへの村役人共も其度毎たびごとに九助の仕業しわざに之なき趣きを申立れども證據しようこなき故取あげられず皆々歎息たんそくの外なかりしにひとり三五郎は譜代ふだい主筋しうすぢ故何分九助が無實むじつの災難を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
を遺して死んだ足利家時につかえていたもので、いわば足利家代々の譜代ふだいである。だから尊氏とは生れながらの主従であった。
信元は、意をふくんで、岡崎を訪れて、元康にも会い、三河譜代ふだいの石川、本多、天野、高力こうりきなどの諸臣にも会って、側面から誘引ゆういんに努めた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加賀大聖寺だいしょうじの城主、拝郷はいごう五左衛門家嘉いえよし、石川郡松任まっとうの城主徳山五兵衛則秀のりひで、ふたりとも、柴田譜代ふだいの重臣だし、勝家が股肱ここうの老職たちだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、足利譜代ふだいの諸将はともかくいられたが、九州諸党の大将輩にしてみると、これは何か肌寒い。卒然とみな色を失った。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
細川家の物頭役で譜代ふだいの奉公人である。今度、内蔵助外十七名を藩邸に預かってから、彼も接伴役せっぱんやくの一人に任命されていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親族の柳生河内、菅原夕菴せきあん譜代ふだいの木村五平太、服部織部介はっとりおりべのすけ、庄田喜兵衛次きへえじ、和田、野々宮、松枝などの老臣旗下はたもとたちは
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわゆる譜代ふだいの臣以上なものがある。とりわけ細川藤孝には、その家筋の高さに対しても、別格の尊敬を払っていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんな話題にも、動作にも、そうした洗練や頭脳のよさが、誰の眼にも映るのである。——郷臭ごうしゅうの濃い一族や、譜代ふだいの臣にはそれが気にそまないで
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまや箱根の孤塁こるいには、譜代ふだいの御一族の全生命が、ただ一つのお救いのみを、ひたすら、お待ちしておりますものを
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうの丹三郎だけでなく、丹党の武士は、譜代ふだいでもない自分らの手に旗が預けられたことを誉れに感じたようだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでにへいみ、兵糧ひょうろうもとぼしく、もとより譜代ふだいの臣でもない野武士のぶしの部下は、日のたつほどひとり去りふたりにげ、この陣地をすて去るにちがいない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇喜多勢の背後には、秀吉の譜代ふだいと見られる諸将が陣していた。盤上の駒組こまぐみは一応まずととのったかたちである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鍛て。——この窪田清音は、徳川譜代ふだいの臣じゃ。今にも、事こそあれば、たとえ勤王方の兵であろうと、この老骨に、伝来の一腰横たえて、戦うやも知れぬ
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「二心ある者は、系類であると、譜代ふだいの臣であるとを問わず、思いきって、討つ者は討ち、追う者は追い、ほとんど清洲から清掃されたようでありまする」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
譜代ふだいの臣や、近習の誰彼のうちにも、ゆうべここを立って、こよいはもう見えない顔がたくさんある。将士の戦死者、三百余、手負いは数も知れなかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逸早いちはやく、駈けつけて、岡崎の諸門をかためていた譜代ふだいの者に迎えられると、それらの多年手塩にかけて来た面々めんめんの顔が、いつもより数倍も、たのもしく見えた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事あれば、ここには一族、重臣、元老、それに譜代ふだいの御家人。いかめしい肩書の人々は、ありあまっている。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
譜代ふだいの家来も一族も肉親までが、あらかた敵です。その中にいらっしゃる信長公は、まだ二十歳はたちの孤君です。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の将士も、譜代ふだい足軽のべつを問わず、死ぬことはもういとわなかったにちがいない。けれど、大きな死にがいを持ちたかったことは疑いもないことであろう。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
厩中間うまやちゅうげんから取り立て、だんだん重用して、いまでは譜代ふだい同様な待遇と広範こうはんな職権を与えている者なので——平六の云い分もわかるが——裁決に困るのであった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さればよ、官兵衛どのに、その忠義などを、求めるのが無理であろうよ。われわれ譜代ふだいの臣とはちがい、つい父の代からご当家に縁故をむすんだご被官ひかんに過ぎぬ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かりそめにも、それを軽んじたりなどしたら、いかなる譜代ふだいでも諸侯でも、たちどころに痛罰を喰う。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのほか、名ある侍、譜代ふだいの勇将が、続々とたおれてゆき、全諸部隊の死傷は、半分以上にのぼった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御牧みまき三左衛門、奥田宮内くない、明智十郎左衛門、進士作左衛門しんしさくざえもん、妻木忠左衛門、溝尾庄兵衛みぞおしょうべえなど、明智家譜代ふだいの名だたる勇将は、ことごとくこれへ殺到したといってよい。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに、徳川家康は、自身、譜代ふだいの家臣とともに、この大宮に待ちあわせて信長の迎えに出ていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
井伊兵部いいひょうぶ、石川数正かずまさ本多ほんだ平八郎、彦八郎などの一族、鳥居とりい、大久保、松平まつだいら奥平おくだいらなどの譜代ふだい、酒井、榊原さかきばらなどの精鋭、水野、近藤、長坂ながさか坂部さかべ、などの旗本たち——。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)