)” の例文
阿闍梨あざりは、白地の錦のふちをとった円座わらふだの上に座をしめながら、式部の眼のさめるのをはばかるように、中音ちゅうおんで静かに法華経をしはじめた。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わざと経文を声高くしてみたところで、それは、またあらぬ人の怪しみを買うばかりで、お松の耳に届こうわけもないのであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、行者心蓮は、子供のいる家の前に立つと子の功徳を説き、地蔵愛をし、わけて子を亡くしたという家を聞くと、必ず訪ねて慰めた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かう言つて、信者の男女なんによはやつて来た。現に、かの女の行つた時にも、若い老いた女や男が五六人庫裡に集つて経をしてゐるのを見た。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
終夜よもすがら供養くやうしたてまつらばやと、御墓の前のたひらなる石の上に座をしめて、経文きやうもんしづかにしつつも、かつ歌よみてたてまつる。
我友はこれより我にさきの詩をせしめて聞き、頗妙なり、羅馬日記ヂアリオ、ロオマに刻するに足ると稱へき。我等二人は杯を擧げてアヌンチヤタがことほぎをなしたり。
かくてその黄昏たそがれにいたり、源教げんけうは常より心して仏に供養くやうし、そこらきよらになしきやうたり。七兵衛はやきたりぬ。
たちは長い間、汽車にられて退屈たいくつしていた、母は、私がバナナをんでいる傍で経文をしながら、なみだしていた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
餞別せんべつに貰つた小判の百兩を懷中に深く祕め、編笠に面體を隱したまゝ、先づ日頃信心する觀音樣の近くに陣取つて心靜かにうろおぼえのおきやうし乍ら
晝の間は我等祈る毎に恰も祈りの後の唱和の如く清貧仁惠の例をし夜到ればこれに代へて貪慾の罰の例を誦す
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
彼は、今度は少し大きな声で経をし続けた。だが、まばたき一つで、また娘達のまぼろしがかへつて来た。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
彼女は千枝松が毎晩誘いに来るのを楽しんで待っていた。千枝松もきっと約束の時刻をたがえずに来て、二人は聞き覚えの普門品ふもんぼんしながら清水へかよった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
レオ・アフリカヌスはアフリカのセネガ人馬を得れば塗香の呪言しながらその馬の全身に塗ると書いた。
仏典をし、彼の心は卑下するところなく高められ、遍在し、その心は香気の如く無にも帰し、岩の如くにそびえもし、滝の如くに一途に祈りもするのであつた。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
面當つらあてがましくどくらしい、我勝手われがつて凡夫ぼんぷあさましさにも、人知ひとしれず、おもてはせて、わたしたちは恥入はぢいつた。が、藥王品やくわうぼんしつゝも、さばくつた法師ほふしくちくさいもの。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
観音経を覚えて、上野の暗いところを通る時にはそれをしながら歩くと恐くないと語っていた。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
「オーッ」という声が聞こえて来たが、すぐその後から妖精にとっては何より恐ろしい破邪顕正経、すなわち真言の孔雀経を音吐朗々とする声が力強く聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いろいろ繕われてあるのはことに移ろい方のおそい中にどうしたのか一本だけきれいに紫になっているのを宮はお折らせになり「花中偏愛菊はなのなかにひとへにきくをあいす」としておいでになったが
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
君は、ジュムゲジュムゲ、イモクテネなどの気ちがいの呪文じゅもんの言葉をはたしてしたかどうか。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
参詣人が来ると殊勝な顔をしてムニャムニャムニャと出放題なお経をしつつおろうを上げ、帰ると直ぐ吹消してしまう本然坊主のケロリとした顔は随分人を喰ったもんだが
満廷の朝臣たちがおのゝき恐れ、或は板敷の下にい入り、或は唐櫃からびつの底に隠れ、或は畳をかついで泣き、或は普門品ふもんぼんしなどする中で、時平がひとり毅然きぜんとして剣を抜き放ち
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「人に気づかれるな」とか「外に気をつけろ花世」などとささやくこえを聞きながら、しかし俊恵はそっと口のうちで経文をしていた、ともすればあの経蔵の中で感じたような
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
暫時にしてその棒の前端互いに相接し、ついに相合するに至る。その合するときに当たりて、さらに他の呪文をするときは、前端次第に相開きて、最初の位置に復するを見る。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
母はまた、観音様信仰で、毎晩お灯明をあげては、口の中で観音経か何かをしながら拝んでいた。そして毎月十七日の晩には、必ず錦町の観音堂に参った。私も必ずそのお供をした。
私の母 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
二三遍全体を読んで見て、今度は目をつぶつて今書いた三行を心でし出した。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その祖母なる人はものの記憶よかりし人にて「八犬傳」など芳柳閣の邊迄暗誦そらんじ居て、求むれば何時も高らかにして聞かせ給ひぬ。「平家物語」の幾章も亦かくしてわれは聞き覺えしなり。
そして呪言じゅごんのようにこの問答を繰り返し口にしている。こんな問答のうちにも、栂尾上人の夢の種がこぼれてひこばえているのかと、そう思ってみて、鶴見はいつまでもうっとりとしていた。
「おお、シダテネオム、ミリノス、プロバリンテよ、エアンチデの三女神よ! ああたれかわれをして、ラウリオムやエダプテオンのギリシャ人のごとくに、ホメロスの詩をせしむる者があるか!」
その歌をします声にさめし朝なでよの櫛の人はづかしき
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
目見まみ青きドミニカびとは陀羅尼だらにし夢にも語る
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一、するはこれ極楽浄土の歌。
かなしき調を口にして
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
師の慈円をはじめ弟子僧たちは、誰からともなく、経文きょうもんを口にして、それが、音吐高々と、雪と闘いながら踏みのぼってゆくのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでゐて、葬式が行くと、どんな貧乏なものでも、乃至ないしは富豪でも、同じやうな古い僧衣ころもを着て、袈裟けさをかけて、そして長い長い経をした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
さきにはタツソオの詩をして聞せ給ひしが、その句は今も我おもひ往來ゆききして、時ありては獨り涙をおとすことあり。そはわが泣蟲なるためにはあらず。
餞別せんべつに貰った小判の百両を懐中に深く秘め、編笠に面体めんていを隠したまま、まず日頃信心する観音様の近くに陣取って心静かにうろ覚えのお経をしながら
やがてその寂寞じやくまくたるあたりをふるはせて、「ろおれんぞ」の上に高く手をかざしながら、伴天連の御経をせられる声が、おごそかに悲しく耳にはいつた。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
与八が東妙和尚からお経を教えられて、しきりにそれをしているのは、今に始まったことではありません。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しをはりて七兵衛に物などくはせ、さて日もくれければ仏壇ぶつだんの下の戸棚とだなにかくれをらせ、のぞくべき節孔ふしあなもあり、さてほとけのともし火も家のもわざとかすかになし
かくて相共に第七圈に達すれば色慾の罪を淨むる一群の魂焔に包まれつゝ聖歌をうたひ且つ貞節の例を
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
仏典をし、彼の心は卑下ひげするところなく高められ、遍在へんざいし、その心は香気の如く無にも帰し、岩の如くにそびえもし、滝の如くに一途に祈りもするのであった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼はいつものように観音経をし出そうとしたが、不思議にのどが押し詰まったようで、唱え馴れた経文がどうしても口に出なかった。胸は怪しくとどろいてきた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一は牝馬ひんば春を思う際身分より出づる粘液を採り、呪をしながら諸霊草と和し薬となすものだ。
と、行手の草叢くさむらから真っ白いものが飛び出した。他ならぬ野性の兎である。その時忽然遥か行手から読経の声が聞こえて来た。数十人の男女の者が声を合わせてしているらしい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
支那しなの人に見せて批評をさせてみたいほどの詩ばかりであると言われた。源氏のはむろん傑作であった。子を思う親の情がよく現われているといって、列席者は皆涙をこぼしながらした。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
食事が済む、と探訪員は、かれ自から経典と称する阿夏品おなつぼんしはじめた。これよりさき金之助は、事故あって、訪問の客に面会を謝する意を、附添の看護婦に含ませたことはいうまでもない。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二三遍全體を讀んで見て、今度は目を瞑つて今書いた三行を心でした。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
悲しともなくしゆけど、ひびらぐこゑ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
御經みきやうをもんずるわが身
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ばばは、眼をつぶって、小声に経をし始めた。経を誦している間は、苛責かしゃくも忘れ、こわさもまぎれた。幾刻もそうしていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)