葡萄ぶどう)” の例文
その周囲一面に葡萄ぶどう栗鼠りすの模様を彫れということで御座いました。右の材料は花櫚かりんで、随分これは堅くて彫りにくい木であります。
臙脂えんじ色の小沓こぐつをはいた片足は、無心に通路の中ほどへ投げだしてあつた。葡萄ぶどうかごは半ば空つぽになつて、洗面台の上にのせてある。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
身延山みのぶさんの霊場、御岳おんたけの風光、富士の五湖、それに勝沼の葡萄ぶどう、甲斐の国といえば誰もこれらのものを想い浮べることでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何にでもからみつく葡萄ぶどうの若芽のような子供の通性として、彼女も愛しようとしたことがあった。しかしそれはうまくゆかなかった。
かくて一方には大厦たいか高楼こうろうにあって黄金の杯に葡萄ぶどうの美酒を盛る者あるに、他方には襤褸らんるをまとうて門前に食をう者あるがごとき
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
「糖尿病には日本酒と葡萄ぶどう酒が悪いそうで、主治医の酒井博士よりも家内の方がやかましくて飲ませませんよ、ハッハッハハハ」
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ここには、いまだに、鬼ごっこや、罰金遊び、目隠し当てもの、白パン盗み、林檎りんご受け、葡萄ぶどうつかみなど、昔の遊戯が行われている。
天道てんとうというものはありがたいもんだ。春は赤く夏は白く秋は黄いろく、秋が黄いろになると葡萄ぶどうむらさきになる。実にありがたいもんだ。」
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これは風情じゃ……と居士も、巾着きんちゃくじめの煙草入の口を解いて、葡萄ぶどう栗鼠りす高彫たかぼりした銀煙管ぎせるで、悠暢ゆうちょうとしてうまそうにんでいました。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
被害者は葡萄ぶどうを食べながら犯人と談笑して、その商取引を終るやいなや、ただちに「斬り裂くジャック」の狂刃の下に、名の示すごとく
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そは汝、貧しく、ゑつゝ、はたに入り、良木よききの種をきたればなり(この木昔葡萄ぶどうなりしも今荊棘いばらとなりぬ)。 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
なにしろ、お医者に言われると、ちゃんと、もう十年にもなりますでしょう、うちにいれば、お午飯ひるは、ビフテキ一皿と、葡萄ぶどう六顆むっつばかり。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
... 菓物くだものや何かをお砂糖漬にするのも防腐のためです」妻君「そういうものですかね、モー葡萄ぶどうが沢山出ますがあれもジャムになりましょうね」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「静かに、静かに」用意の葡萄ぶどう酒を二、三滴、屍骸の口へ垂らしてやった。すると、陳君は、眼をひらいて、四辺あたりをきょときょと見廻した。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
かまに湯を煮たて手にかまをもってる農夫、アルコール地方にたいして反抗した葡萄ぶどう酒地方へ話しかけるため、木の上に登っている民衆の贖主あがないぬし
小さい水彩画と、ピカソの絵葉書、その脇には圭子自身の製作らしい麻布あさぬの葡萄ぶどうの房のアプリケが、うすよごれた壁をすっかりかくしていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
川上道かわかみみちの尽きて原へ出るところに、松の樹蔭から白く煙の上るのは商人あきんどが巣を作ったので、そこでは山葡萄ぶどう、柿などの店を出しておりました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
細木夫人は、そういう扁理を前にしながら、手にしている葡萄ぶどうの皿から、その小さい実を丹念に口の中へ滑り込ましていた。
聖家族 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
昨日きのう葡萄ぶどうはおいしかったの。」と問われました。僕は顔を真赤まっかにして「ええ」と白状するより仕方がありませんでした。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
婆さんの話しによると昔は桜もあった、葡萄ぶどうもあった。胡桃くるみもあったそうだ。カーライルの細君はある年二十五銭ばかりの胡桃を得たそうだ。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最初まず雌の方が、鳥の羽や、鳥のふんや、葡萄ぶどうの葉や、わらくずなどの浮んでいる泥水の中へ、そのまま滑り込む。ほとんど姿が見えなくなる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
範宴のすがたを見ると、白絹の法衣ほうえ白金襴しろきんらん袈裟けさをかけ、葡萄ぶどうのしずくを連ねたような紫水晶の数珠ずずを指にかけていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霧原警部は、いつも飲用して居るフランス葡萄ぶどう酒を取り寄せた。特等訊問法が行われるときには必ずこの葡萄酒が出る。
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
叉銃さじゅうしてくさむらに煙草を吹かしながら大欠伸あくびをしたり、草原に寝転んでその辺に枝もたわわに実っている野生の葡萄ぶどうに口を動かしたりしているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
光丸は、大きな葡萄ぶどうの葉と実のついた浴衣ゆかたを着て、勝則の腹のあたりに、きちんと坐っている。頭は洗い髪にしていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
この秋はやしきのまわりの栗の樹からうんと実もとれますし、来秋から邸についた葡萄ぶどう畑で素敵な新酒を造りますよ。どうぞおひまを見てお訪ね下さい。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄ぶどうの季節まで待ってくれ、と答えた。
走れメロス (新字新仮名) / 太宰治(著)
奥が深いかわり間口が狭い庭に、夏の日をしのぎよくするための葡萄ぶどう棚がつくられていて、建物の入口の横から庭へはいる境は、低い植込みだった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
食堂のたなに飾ってある葡萄ぶどうが毎日少しずつなくなるのは不思議だという話が出ました。きょうはたった四つになったといってわざわざ見せてくれました。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
京島原の月、大和やまと三輪初瀬の月、紀伊路の夜に悩んだこともあれば、甲斐の葡萄ぶどうをしぼる露に泣いたこともある。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
虎疫コレラが大流行で、我々は生のもの、例えば葡萄ぶどうその他の果実や、各種の緑色の物を食わぬようにせねばならぬ。加之しかのみならず、冷い水は一口も飲んではいけない。
家の壁は葡萄ぶどう、薔薇の蔓にまとわれ、半身像を以て飾られ、まどけたには瓶を並べ、纏絡てんらく植物それより生え出でる。舞台の右方はこの壁にて仕切られるなり。
叔母は、じぶんだけのためにとってある、西洋種の緑色の葡萄ぶどうの皮を、手間とヒマをかけて丹念にむきながら
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
碓氷うすいその他の坂本の宿、越後えちご葡萄ぶどう峠の如きは麓の村も衰えたが、その後に起った山道の衰微の方がなお烈しい。一夏草を芟払かりはらわずにおけば大道も小径になる。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「寧ろこの使用つかい古るした葡萄ぶどうのような眼球めのたまえぐり出したいのが僕の願です!」と岡本は思わず卓を打った。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
溝の角の無花果いちじく葡萄ぶどうの葉は、廃屋のかげになった闇の中にがさがさと、既に枯れたような響を立てている。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
省三はめしの時にみょうな好奇心から小さなコップに二三ばい飲んでみた葡萄ぶどう酒のよいほおに残っていた。それがためにいったいに憂鬱ゆううつな彼の心も軽くなっていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その前から悪くなっていた正一の胃腸は、ビールと一緒に客の前に出ていた葡萄ぶどうのために烈しくそこなわれた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夏の野に木苺きいちごをもとめ、秋の山に木通あけび葡萄ぶどうつるをたずねて、淡い淡い甘味に満足しているのである。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
よく、野葡萄ぶどうの巻ひげの先の粘液が触れるように、ケティにベタベタからみついてくる草がある。その情緒を知らせる微妙な力が、彼女をじわりじわりと包んでいった。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
山鹿の全身は紙のように白くなって、わなわなとふるえはじめた。その眼は真赤に充血してぴょこんと飛出し、くちびる葡萄ぶどう色になって、ぴくぴくぴくとひきつっていた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
菜園と並んで、四角に区切られた苺畑が見え、その横には模型を見るように整然と組み合わされた葡萄ぶどう棚が、梨の棚と向かい合って見事に立体的な調和を示していた。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
なお、同じ著者の『葡萄ぶどう畑の葡萄作り』にも、この『博物誌』にある数項目が加えられているが、『葡萄畑……』は、もちろん『博物誌』よりも前に世に出たのである。
博物誌あとがき (新字新仮名) / 岸田国士(著)
しかしまた一方からいうと、木の実というばかりでは、広い意味に取っても、覆盆子いちご葡萄ぶどうなどは這入らぬ。其処で木の実、草の実と並べていわねば完全せぬわけになる。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
老父は小商こあきないをして小遣いを儲けていた。継母は自分の手しおにかけた耕吉の従妹の十四になるのなど相手に、鬼のように真黒くなって、林檎りんご葡萄ぶどうの畠を世話していた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
葡萄ぶどうの葉と酔いしれて踊っている人々の姿とを見事に浮彫りした大きな黄金のポンスばちが一個。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
もろもろの花は地にあらわれ、鳥のさえずる時すでに至り、班鳩やまばとの声われらの地にきこゆ。無花果樹はその青きを赤らめ、葡萄ぶどうの樹は花さきてそのかぐわしき香気をはなつ。
常春籐きづた葡萄ぶどう、そのほかいかなる植物の葉よりも古代的で典型的な建築用唐草模様の一種であって、次第によっては未来の地質学者の頭をなやます謎となるかもしれない。
父の持山に葡萄ぶどうを栽培するのが目的で、駒場の農科大学に入学して、卒業間際になっていた者ですが、九州人の特徴として、器量も無い癖に政治問題の研究に没頭した結果
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日は行軍で四里ばかり歩いた。田舎屋で葡萄ぶどうを食べて甘美うまかった。皆百姓は忙がしそうだ。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)