菩提ぼだい)” の例文
そのいたみなやみの心の中に、いよいよ深く疾翔大力さまのお慈悲じひを刻みつけるじゃぞ、いいかや、まことにそれこそ菩提ぼだいのたねじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こう、われにかえって、嘆声をもらすと、武蔵は初めて、菩提ぼだいと煩悩の中間から地上へ放し落されたように、両手を頭の後ろに結んで
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少なくとも仏教の根本目的は「我等と衆生しゅじょうと、皆共に仏道をじょうぜん」ということです。「同じく菩提ぼだい心をおこして、浄土へ往生せん」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
ここに草のいおりを結んで、謀叛むほん人と呼ばれた父の菩提ぼだいとむらいながら、往き来の旅人たびびとに甘酒を施していた。比丘尼塚のぬしはこの尼であると。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すると大変に感心して、シナの坊さんというものはそんなに道徳心即ち菩提ぼだい心のあついものであるかと大いに悦んで随喜の涙にむせびました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ときどきあの家へ行って、亡くなられた方の菩提ぼだいを弔っていらっしゃいます。この老人こそきっと奥様の亡くなられた日を御存じのはずです
長寿安泰なるようしまた定業じょうごうむなく薨去遊ばされるとしても、すみやかに仏の浄土に往生せられ、無上の仏果菩提ぼだいに登られるようにと願った。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
やがて菩提ぼだいの果を證することが出来ると云う其の煩悩を、始めから解脱げだつして居る自分たちは、近いうちに稚児髷を剃り落して戒律を受けたなら
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鎌倉かまくらの西御門には紀州の附家老つけがろうであった水野家の菩提ぼだい寺(尼寺)の高松寺こうしょうじがあります。そこには白梅も紅梅もあります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
出てまで菩提ぼだいを求めようとした人にな、留守居のものが何を言いに来たかと思うと、瞿麦がどうの、呉竹がどうのと、さも大事そうに聞かせているぞ
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
これはかねて私に帰依きえしてゐる或る町家ちやうかの一人娘が亡くなつたので、その親達から何かのしろにと言つて寄進して参つたから、娘の菩提ぼだいのためと思つて
「そうしてお前はまだついぞ、その人の菩提ぼだいをとむろうたことがない、その罪があるによって、お前にはこの名号を授けたところで往生は覚束おぼつかない」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
七日七日に仏像をかせて寺へ納めても、名を知らないではね。それを表に出さないでも、せめて心の中でだれの菩提ぼだいのためにと思いたいじゃないか
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
のちにはそれを出離の因縁とし、菩提ぼだいの種と名づけて悦喜えっきした者もあるが、古来の遁世者とんせいしゃの全部をもって、仏道勝利の跡と見るのは当をえないと思う。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かりにも法体ほったいして菩提ぼだい大道たいどうに入り、人天の導師ともならんと心掛けたと見ゆる者が、紙の冠などして、えせわざするを見ては、堪え得らるればこそ
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
始め彼三五郎鴻の巣なる鎌倉屋金兵衞其ほか野州やしう浪人八田掃部三加尻茂助練馬藤兵衞などの菩提ぼだいとぶらひ又元栗橋の隱亡をんばう彌十などの安穩あんをんに歸島致す樣祈祷きたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
の囚徒と共にいろいろと慰めつつ、この上は一日も早く出獄して良人おっとや子供の菩提ぼだいとむらい給えなど力を添えつ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
みな出家して勝太郎の菩提ぼだいをとむらったとは、いつの世も武家の義理ほど、あわれにして美しきは無しと。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただただ世のなかは、あさがおのはかなきわざにたわぶれて、きょうやあすやとうちくれて、何か菩提ぼだいのたねならむ。ただ一すじに後の世のいとなみあるべし。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そこで勝四郎は妻の菩提ぼだいをとむらう。中国明代の「剪灯新話」中の「愛卿伝」に想をえた一篇である。
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
街道で野だての茶をすすめ、それでくらしを立てながら、親きょうだいの菩提ぼだいをとむらいたい。この不幸を忘れるまで結婚はしない、と云い張ってゆずらなかった。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二つにはまた引取手のない無縁仏を拾いあげてねんごろに菩提ぼだいとむらってやろうとの侠気きょうきから、身内の乾児達こぶんたちに命じて毎夜こんな風に見廻らしている土左船どざぶねなのでした。
女たちは涙を流して、こうなり果てて死ぬるからは、世の中に誰一人菩提ぼだいとむろうてくれるものもあるまい、どうぞ思い出したら、一遍の回向えこうをしてもらいたいと頼んだ。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし、それは二度目の妻、すなわちアリョーシャの母である『憑かれた女』のためでなく、自分を打った先妻のアデライーダ・イワーノヴナの菩提ぼだいを葬うためであった。
ええもういいわい! 証拠さえつかめばもうよろしいわい! 母上の菩提ぼだいをとむらうのは曲者を
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
およそこの種の人は遁世とんせい出家しゅっけして死者の菩提ぼだいとむらうの例もあれども、今の世間の風潮にて出家しゅっけ落飾らくしょく不似合ふにあいとならば、ただその身を社会の暗処あんしょかくしてその生活を質素しっそにし
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「お願いだ、親分。あの娘には、何にも知らせたくはありません。私の居ないのを不思議に思ったら、亡妻かかあ菩提ぼだいを弔うため、西国巡礼に出た——とそう言っておいて下さい」
仏家は曰く、「煩悩即菩提、生死即涅槃。」(煩悩ぼんのうはすなわち菩提ぼだい生死しょうじはすなわち涅槃ねはん
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
今川義元公が戦死者の菩提ぼだいのために、わざと風景のよい山の中腹に建てられたもので、寺領も沢山に附いておったが、その後、信長公、秀吉公、東照宮様と代が変って来るうちに
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の聴水ちょうすいつりよせて、首尾よく彼奴きゃつを討取らば、いささ菩提ぼだいたねともなりなん、善は急げ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
菩提ぼだいすなわち悟りの訳語としてもこの語が用いられた。道元はこれらのすべての意味を含めてこの語を使っているらしい。その点でこの語はかなり近く Logos に対等する。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
が、彼等の菩提ぼだいとむらっている兵衛の心をむ事なぞは、二人とも全然忘却していた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先祖や亡くなった兄姉の菩提ぼだいをもとむらおうという末っ子二人の思いつきなのである。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
可哀想な娘の菩提ぼだいをとむらうことに自分の全財産を投げ出そうと決心したんです。
三の字旅行会 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
おんみにもしものことあらば前夜よりしばしば誓いたる通り、わらわは必ず尼になりて、卿の菩提ぼだいを弔わん、……さりながらかりそめにもかかる悲しきこと言わるるは、死にに往かるる心にや
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
わたくしはもういやでございます、菩提ぼだいをすてて来ましたわたくしどもに、よいことのあろうはずはありません、たった今、今の今——郷里くにに帰していただきます、見も知らぬこのような土地で
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「今となって、源様を助けようとも思わなければ、また、もう手遅れにきまっているけれど、せめては、水につかった死骸なりと引きあげて、回向えこう手向たむけ、菩提ぼだいをとむらうことにしたら……」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ああ年代の歴史に書かれたる血腥ちなまぐさき画図や。サルマシヤは罪なきに亡滅したり。しかして泣く者とてはあらず。ほこを揮うてこれを救う義侠ぎきょうの友もなく、不運を憐れみ菩提ぼだいを弔う慈悲ある敵もあらず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そして、二人の娘の菩提ぼだいとむらって、余生を送りたいと思っています。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
村の者は今更与右衛門を成敗さすに忍びないので、与右衛門に出家さして累の菩提ぼだいを弔わすがいいだろうと云うことになった。その時名主の庄右衛門しょうえもんは、二三人の同役をれて家へ来てお菊に云った。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
糞尿ふんにょうにも道あり、蛇も菩提ぼだいに導く善智識であらねばならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この時、煩悩ぼんのうも、菩提ぼだいもない。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誓願せいぐわん向日葵ひぐるまに——菩提ぼだいの東
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
みて菩提ぼだいをさそふべう
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
菩提ぼだいの寺の冬の日に
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
(巧拙は問うところでない、供養の心もちが、菩提ぼだいへとどけば足りるのだ。——今夜のうちに彫り上げて、この寺にのこしてゆこう)
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
只今にも出家して主君の菩提ぼだいを弔うであろうものを、おゆるしのないのが残念であると、そう云って涙にむせんだので、それでは是非に及びませぬ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
煩悩ぼんのうを断じて菩提ぼだいを得ることです。つまり凡夫ひと仏陀ほとけになることです。にもかかわらず、迷いもない、悟りもない、煩悩もなければ、菩提もない。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
両親や妹の菩提ぼだいを弔うだけならば、必ずしもここに留まるにも及ばないが、悲しむべく怖るべきはかの髑髏である。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
初めの日は中宮の父帝の御菩提ぼだいのため、次の日は母后のため、三日目は院の御菩提のためであって、これは法華経の第五巻の講義のある日であったから
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)