かず)” の例文
……おかずも、あの、お好きな鴫焼しぎやきをして上げますから、おとなしくしていらっしゃいまし。お腹が空いたって、人が聞くと笑います。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お銀が来るようになってから、一々自身で台所へ出て肴の選択をする必要もなくなったし、三度三度のおかずも材料が豊かになった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
つつましくふた品ほどのおかずをのせた渋いろの塗膳を前に、角張った顔を貧血させて和尚様は、キチンと手を膝の上に、控えておられた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
かずが無いので困る時には、生姜や日光蕃椒のほかに、ヤタラ味噌や煮染にしめなどを買って仲間へ大盤振舞おおばんぶるまいをするものもありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今の白銅は私が夕飯のおかずを買うために持っていたので、考えて見ると自分の身に引き比べて何だか気羞かしくなって来た。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「おかずの殘りを貰ひに來なさるがね。氣の毒だから私は、奧で召上つた殘りがあれば、どつさり取つて置いて上げますだよ」
ある時御飯のおかずに、知らぬおさかながついて居りましたので、あとで助八さんにお肴の名を聞きましたら、章魚たこと申しました。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
試しに娘の食べかけの残したおかずに箸をつけようとしますと、娘はその皿を急に引ったくりまして、お母様、これは私の食べかけでございます。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お話しでないもんだから此方こっちはそんな事とは夢にも知らず、お弁当のおかずも毎日おんなじもんばッかりでもおきだろう
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ところが賄は請負で、二十銭が勿体ないようなおかずのときがあった。女事務員たちは、そんなとき食券はとっといて「モーリ」で十銭の昼食をする。
舗道 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
良人のことで清子が苦労したことと言えば毎朝つめる弁当のおかずである。いくら塩鮭しゃけが好きだからといっても、そう毎日塩鮭ぜめにするわけにもいかない。
茶粥の記 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
お滝は腹這いになって足をとんとんとやっていたが、膳の上を見ると飯をったと見えておかずを荒してあった。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
マリイは十一時頃に晴着のロオヴを着て出掛けて行つた。自分はトランクの上の台所で昼飯の仕度にかかつて、有合せの野菜や鶏卵たまご冷肉れいにくでおかずを作つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
村の濱とは違つて、自分のおかずにするくらゐの魚は直ぐ近所の岩で釣れるし、やがて小屋のまはりに柿や梨を植ゑれば樂みにもなるし儲けにもなると云つてゐた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
かずは、鳥の肉の殘りと、あやしげな茶碗蒸と、野菜だつた。茶に臭氣にほひのあるのは水のせいだらうと言出したものがあつたが、左樣言はれると飯も同じやうに臭つた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
人に可愛がられて菓子だのおかずだのをもらふから一日の米二合半の代五銭さへあればいいし、それにもう一年半で死ぬといふお告げをうけて永代経も願つてあるし
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
あれじゃア奉公人のおかずが多うがんすよ、何でも奉公人のお菜は二度はいらねいから一度になせいまし
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かずが出来上つた頃、町へ行つて居たお光も帰つて来た。お桐も眼を覚した。飯を食べる時お光はお桐にも出て来て一緒に食べんかと言つた。が平七はそれを制して
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
子供に活動を強請せがまれても、見に連れて行く代りに拳骨を一つ食はせるより外に仕方がない。女房は毎日のおかずで困難を極める。いやだいやだ、全く生きるのが厭になる。
工場の窓より (新字旧仮名) / 葉山嘉樹(著)
かずは、ふのような乾物類ばかりで、たまにあてがわれる肉類は、罐詰の肉ときている彼等は、不潔なキタない豚からまッさきにクン/\した生肉の匂いと、味わいを想像した。
前哨 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
晩のおかずは香物だけでもいゝからお晝の辨當にはお肴か肉を附けないと機嫌が惡いのさ。
しかるを愚図々々ぐづ/\さかしらだちてのゝしるは隣家となりのおかずかんがへる独身者ひとりもの繰言くりごとなんえらまん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
前垂まえだれがけの下から八百屋で買って来た牛蒡ごぼう人参にんじんを出してテーブルの上へのせておいたまま「これはおかずです」とその野菜をいじりながら雑誌を一生懸命に読出したということや
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今夜こんやのおかずうもござる。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「こっちのお乳をおかずにして、こっちのおおきい方をおまんまにして食べるんだって、」とぐッとめ附けて肩をすぼめ、笑顔で身顫みぶるいをして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遲い月はまだ出ませんが、此調子で甞めて行くと、一軒々々のおかずから、寢物語までも手に取るやうにわかるでせう。
お作はただの一度も、自分の料簡りょうけんで買物をしたことがない。新吉は三度三度のおかずまでほとんど自分で見繕みつくろった。お作はただのろい機械のように引き廻されていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と仕方が無いから其のは寝ましたが、翌朝よくあさから土鍋で飯はきまして、おかずそとから買って来まして喰いますような事で、此処こゝおります。甚藏はぶら/\遊び歩きます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一家六人のところ毎晩精進揚三つ買ってきておかずにする、どうして三つの精進揚が六人で食べられるのかと訊ねたら、なんと鋏で二つずつに切るのだと言った、これも団丸。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
町の角や辻々へ大釜をえて、町内の物持から米やおかずを貰って来てかゆいて食い、食ってしまうとときの声を挙げて、また次の町内へ繰込んで貰って炊いて食い歩くのです。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
アアして勉強してお勤にお出の事たからその位な事は此方で気を附けて上げなくッちゃアならないと思ッて、今日のお弁当のおかずは玉子焼にして上げようと思ッても鍋には出来ず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「もすこしお待ちになると温い御飯も、おかずもできますが」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何となくにぎやかな様子が、七輪に、晩のおかずでもふつふつ煮えていようという、豆腐屋さ——ん、と町方ならば呼ぶ声のしそうな様子で。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お國の阿魔は人形喰ひだから、敬吉は良い男に違ひないが、あんなヒネたのなんか振り向いても見ませんよ。その代り内々は神山守のところへ、おかず
きゃらぶき葉蕃椒はとんがらしのようなものも、けんどんのすみに仕舞っておき、お茶漬のおかずにするのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旦那自暴やけを起しちゃアいけねえ、お前さんの様な親孝行な人はねえ、旦那が自分でおまんまを炊いておかずまでこせえて食わせようと云うに…そんな人がある訳のものじゃアねえ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すなわち富士講でいう小谷禄行おたにろくぎょうの教えを聞いてから、熱烈なる不二教の信者となり、既に四十年間、毎朝冷水を浴びて身を浄め、朝食のおかずとしては素塩一さじに限り、祁寒暑雨きかんしょういとわず
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
にぎやかじゃあるし、料理が上手だからおかずうまいし、君、昨夜ゆうべは妹たちと一所に西洋料理をおごって貰った、僕は七皿喰った。ははは
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「時分時で財布は御存じの通り北山でしょう、江戸名題の豪族のおかずはどんなものかと——修業のために」
友之助はお村に云い付けて、斯う云う時に御恩を返さなければならん、お前おかずこしらえるのが面倒なら、料理屋からかってゞもいゝから毎日何か旦那の所へ持っていってお上げ。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
不器用なお作がこしらえてくれた三度三度のゴツゴツした煮つけや、薄い汁物つゆものは、小器用なお国の手で拵えられた東京風のおかずと代って、膳の上にはうまい新香しんこを欠かしたことがなかった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
切溜きりだめの中には沢庵たくあん煮染にしめや、さまざまのおかずが入れてあります。
「晩のおかずに煮て食おう。」と囃しざま、糸につながったなり一団ひとかたまりになったと見ると、おおきひさしの、暗い中へ、ちょろりと入って隠れてしまった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「向うの駄菓子屋の女房ですよ、——神田一番の金棒曳かなぼうひきで、町内のおかずの匂いまで嗅ぎわけて歩く女で」
勘次かんじや、お前あの奥のお筆さんの処へついでに水を汲んでやんなよ、病人があるから定めし不自由だろう、何かおかずこしらえてやろうと思うが、手一つで親の看病をしながら内職をして居るので
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
少しは力の恢復かいふくして来たお銀が、がみ姿で裏から入って来たとき、笹村の顔色がまだ嶮しかった。笹村はその時、台所へ出て七輪の火を起して、昼のおかずを煮ていたが、甥も側に働いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
晩のおかずに、煮たわ、喰ったわ、その数三万三千三百さるほどにじいの因果が孫にむくって、渾名あだな小烏こがらすの三之助、数え年十三の大柄なわっぱでござる。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「時分時で財布は御存じの通り北山でせう、江戸名題の豪族のおかずはどんなものかと——修業のために」
女房おみねは萩原のたくへ参り煮焚にたきすゝぎ洗濯やおかずごしらえお給仕などをしておりますゆえ、萩原も伴藏夫婦には孫店まごだなを貸しては置けど、店賃たなちんなしで住まわせて、折々おり/\小遣こづかい浴衣ゆかたなどの古い物を
そちこちするうち、昼も過ぎたので、年寄はまめまめしくかたばかりの膳立ぜんだてをした、おかずがその時目刺に油揚あぶらげ
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)