盲目めくら)” の例文
盲目めくらのお婆さんは、座が定ると、ふところから手拭を出して、それを例のごとく三角にしてかぶつた。暢気のんきな鼻唄が唸うなるやうに聞え出した。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
くらばんに、ゆきこおった、細道ほそみちあるいてゆくと、あちらからふえいて、とぼとぼとあるいてくるとしとった盲目めくら女按摩おんなあんまあいました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
取出し夫見よ酒も肴も幾許いくらでも出せ喰倒しをするやうな卑劣ひれつの武士と思ふかこゝ盲目めくらめと云ながら百兩餘りもあらんと思はるゝ胴卷どうまき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「桶を冠っているからにゃ、眼のみえねえのは解り切っていらあ。何でえ盲目めくらに衝突たりやがって。ええ気をつけろい気をつけろい!」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小伝馬町の古帳面屋の店蔵みせぐちの住居の二階で時折見かける、盲目めくら坊主頭ぼうさんのおばあさんが、おしょさんのうちにも時々来てとまっていた。
「それ見ろ、この坊さんが知ってらあ、見る人が見りゃあ、ちゃあんとわかるんだ、お前たちは盲目めくらだ、この坊さんはなかなかえらい」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芳賀博士はこの頃倫敦ロンドンで重い眼病にかゝつて、うやら盲目めくらになつたらしいが、知辺しるべの少い旅先での病気は誠に気の毒に堪へられない。
それは明らかに磯吉の兄の子どもとさっしられたが、盲目めくらになって除隊された磯吉につらい兄であると聞いて、ふれずにつぎに移った。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
山田「コレ危ない、左様なことを致すからお手討に逢うようなことになるのだ……あなた盲目めくらなどを斬って罪を作るでもございますまい」
私が、近所のお友達四五人と、礫川学校へ行く道で、毎朝納豆売の盲目めくらのお婆さんにいました。もう、六十を越しているお婆さんでした。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「だが、妙だな。この像の右眼だけが、盲目めくらなんだぜ。それに、像だけに埃が付いていないのは、どうしたと云うものだろう」
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
されど盲人なる彼れの盲目めくらならずとも自分を見知るべくもあらず、しばらく自分の方を向いていたが、やがてまた吹き初めた。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
盲目めくらではなく、眼はいて居ながら周囲と混融し、あるひは反発し合つて妄動まうどうして居る。未来派の絵はやがて僕の世界なのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もっとも様子で見せなくてもこの黒く焦げついたカ氏とあの子供とが兄弟であるとは、まず盲目めくらでもない限り誰も信じるものもないであろう。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
信州戸隠山とがくしやまの奥の院というのは普通の人の登れっこない難所だのに、それを盲目めくら天辺てっぺんまで登ったから驚ろいたなどという。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
砂金かね売りの吉次は、築地ついじの外に立った。どこを眺めても、盲目めくらのように門が閉まっている。雑草が、ほとんど、門の腰を埋めているのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれもそれ中途ちうと盲目めくらつたんだから、それまでにはたらいて身體からだ成熟できてるしおめえもつてるとほりあんで仕事しごと出來できるしするもんだから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
……なにも見なくともすむように、盲目めくらになりたい、教会の石段の上で。こんなことなら最初の戦闘の、最初の戦死者になればよかった、って。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
普選になったんじゃし、若松のもんも、そう盲目めくらばかりでもないよ。二度も落ちたんじゃし、原田君のような快男児が市会に出たら、市会が活気を
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
金の縁のある眼を慘忍な所業の爲めに取り去られた捕はれの鷲は、あの盲目めくらのサムスンのやうな樣子をしてゐたであらう。
たうとう盲目めくらになつたペンペは、ラランの姿すがた見失みうしなひ、方角ほうがくなにもわからなくなつて、あわてはじめたがもうをそかつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
「世間ぢやそんな事も言ふ相ですが、飛んでもない話で、金がありや、人樣の足腰なんか揉んで居るものですか、盲目めくら相應の出世でも致しますよ」
ちんば盲目めくらや。」とお信さんは片足を引きずつて歩き出しながら笑つた。「そやけど、かうなると跛の方がましえな。」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「あばれたにも何も、一体名代の代物しろものでごぜえしょう、そいつがおさん、盲目めくら滅法界に飛出したんで、はっと思う途端に真俯向まうつむけのめったでさ。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
墓地の骸骨がいこつでも引張り出して来て使いたい此頃には、死人か大病人の外は手をあけて居る者は無い。盲目めくらの婆さんでも、手さぐりで茶位ちゃぐらいかす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あなたは何時までも今のままでゐられると思つてるの、あと五年もしないうちに盲目めくらになるのは判つてるじやないの。
青春の天刑病者達 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
「はい、もう長い間わづらつてゐます。いろいろ医者のてあても受けましたが、悪くなるばかりです。ほんたうの盲目めくらになるのもぢきだと思ひます。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「みんなで寄ってたかって俺を狂人きちがいにして、こんなところへ入れてしまった。盲目めくらの量見ほど悲しいものはないぞや」
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、枕を引きよせながら、自分の心を強ひて盲目めくらにしようと、くぼんだ眼を閉ぢて、うとうととなって行った。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
盲目めくらでありながら、よくも、巧妙に凶行をとげたものですねえ。いずれ、前科持ちでしょう。え? やっぱり、そうですか。それから、Pのおじさん。
現場の写真 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
音楽の技巧的鑑賞には盲目めくらだが、何となしに酔はされた感激から、急にまだ日の暮れぬ街路へ放たれた心持は、鳥渡ちよつと持つて行きどころがない感じだつた。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
が、若松屋惣七わかまつやそうしちは、すこし眼が見えない。人の顔ぐらいはわかるが、こまかいものとくると、まるで盲目めくらなのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そしてこれからは、御内室のことは断じて口にしません、断じてです、あのことについては私はつんぼ盲目めくらおしになります、それを刀にかけて誓います」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは私だって盲目めくらじゃございませんわ。主人は村島さんと御一緒だと言えば私が納得すると思っているのです。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人を盲目めくらと思うとる。最初から試し斬りの切柄かけた白鞘の新身あらみの脇差を引付けて、物を訊く法があるものか。
若し途中で、或はあしなへ、或は盲目めくら、或は癩を病む者、などに逢つたら、(その前に能く催眠術の奥義を究めて置いて、)其奴そいつの頭に手が触つた丈で癒してやる。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「此の盲目めくら坊主、おんなじ家が判らないのか、お前はぜんたい、何のためにそんなことをしておるのじゃ」
長者 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……オートバイかトラックかがあちらから、大へんな勢ひで盲目めくら滅法に驀進ばくしんして来る。私はその道を横切らうとして、それに気がつき、危いと避けようとする。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
盲目めくらにされても降り得ようほど案内知った道でありながら、誰も彼も行き迷うたあげくたおれてしまうのが、ほど経て道ばたへむごたらしい屍骸しがいになって知れるのよ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
二人ふたりに別れて自分の船室に帰った葉子はほとんど delirium の状態にあった。眼睛ひとみは大きく開いたままで、盲目めくら同様に部屋へやの中の物を見る事をしなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
目は明いておるが盲目めくらであったと申すか。道理ではまぐりのような目を致しおったわい。それにしても源七とやらは、とうにもう大川から三の川あたりへ参っている筈じゃ。
デュアック あれは、盲目めくらの老琴手コエルでございましょう——あの名高い女王マカを愛して、あまりに深く愛した為に、女王の手で盲目めくらにされたコエルでございます。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
普通選挙論では外山正一とやましょういちが福地に応援して、「毎日記者は盲目めくらへびにおじざるものだ」といった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おしとかつんぼとか盲目めくらとかいう不具者あるいは子供位を除くのほかは大抵商売人というてもよい位。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
まだ盲目めくらにならない深雪が、露のひぬま……と書かれた扇を手文庫から出して人知れず愛着の思いをべているところに跫音がして、我にもあらず、その扇を小脇にかくした
朝顔日記の深雪と淀君 (新字新仮名) / 上村松園(著)
私はトッパーがその靴に眼を持っていたと信じないと同様にまったくの盲目めくらであるとは信じない。私の意見では、彼とスクルージの甥との間にはもう話は済んでいるらしい。
盲目めくらの母はただ悲嘆に沈んでいるばかりで、くわしい事情もよく判らなかったが、姉のおこよが縁組の破談から自殺を遂げたらしいことは、年のゆかない彼女にも想像された。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さりながら今より思い合わすれば、如何いか盲目めくらへび物にじずとはいいながら、かかる危険きわまれる薬品を枕にしてくも安々とねむり得しことよと、身の毛を逆竪さかだつばかりなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「もしもだね、メチルで盲目めくらになったと仮定する。もちろん仮定だよ。その時君は、アンマになろうと思うかね。それとも琴を勉強して、その方面の師匠になろうと思うかね?」
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
石塔の代を盲目めくらの兄のところへ返して、それから、一生だって……。どこまでも、はてもなく、真暗な闇が続いてるようだった。あたしは笑ってやりたかった、が笑えなかった。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)