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白々
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しろ/″\
其の
中に長き夜の
白々と明渡りまして、身体はがっかり腹は減る、
如何せばやとぼんやり
立縮んで居りましたが、思い直して
麓の方へ
下りました。
肩を
斜めに
前へ
落すと、
袖の
上へ、
腕が
辷つた、……
月が
投げたるダリヤの
大輪、
白々と、
搖れながら
戲れかゝる、
羽交の
下を、
輕く
手に
受け、
清しい
目を、
熟と
合はせて
柿色に
蝶鳥を
染めたる
大形の
浴衣きて、
黒襦子と
染分絞りの
晝夜帶胸だかに、
足にはぬり
木履こゝらあたりにも
多くは
見かけぬ
高きをはきて、
朝湯の
歸りに
首筋白々と
手拭さげたる
立姿を
頬のかゝり
白々と、
中にも、
圓髷に
結つた
其の
細面の
氣高く
品の
可い
女性の、
縺れた
鬢の
露ばかり、
面窶れした
横顏を、
瞬きもしない
雙の
瞳に
宿した
途端に、スーと
下りて、
板の
間で
暑さに一
枚しめ
殘した
表二階の
雨戸の
隙間から
覗くと、
大空ばかりは
雲が
走つて、
白々と、
音のない
波かと
寄せて、
通りを
一ツ
隔てた、
向うの
邸の
板塀越に、
裏葉の
飜つて
早や
秋の
見ゆる
處が
旦那樣、
別嬪さんが、
然うやつて、
手足も
白々と
座敷の
中に
涼んで
居なさいます、
其の
周圍を、ぐる/\と……
床の
間から
次の
室の
簀戸の
方、
裏から
表二階の
方と、
横肥りにふとつた
薄紅の
撫子と、
藤紫の
小菊が
微に
彩めく、
其の
友染を
密と
辿ると、
掻上げた
黒髪の
毛筋を
透いて、ちらりと
耳朶と、
而して
白々とある
頸脚が、すつと
寝て、
其の
薄化粧した、きめの
細かなのさへ
ふと
明いた
窓へ
横向きに
成つて、ほつれ
毛を
白々とした
指で
掻くと、あの
花の
香が
強く
薫つた、と
思ふと
緑の
黒髮に、
同じ
白い
花の
小枝を
活きたる
蕚、
湧立つ
蕊を
搖がして、
鬢に
插して
居たのである。
白々と
露に
輕く……
柳の
絮の
散る
風情。