ろう)” の例文
現にろうを破ったのさえ、次郎を助けようと思うほかに、一人の弟を見殺しにすると、沙金にわらわれるのを、おそれたからであった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この寄場はろうではないと云い、その扱いも牢にいる罪人とは慥かに違うが、いずれにせよ、世間から隔離されるだけの理由があった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今になると残されてよかったので、あの時連れて行かれようものなら、浦塩うらじおかどこかのろうで今ごろはこッぴどい目にってる奴さ。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
おじさんが、いまろうへはいっているんだったら、いいな。そうすると私は、毎日、大得意で、ニュウスをお送りできるのだけれど。
俗天使 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ときにな、わしは今日、あのミーチカの強盗をろうの中へ打ちこんでやろうかと思ったが、今またどうしたものかと迷っておるのだ。
「おお! 薊州けいしゅう奉行所のろう役人。そうだ、そこへおいでなさるのは、たしかあだ名を病関索びょうかんさくとおっしゃる牢頭ろうがしらさんじゃございませんか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ろうはどこだ。」みんなは小屋に押し寄せる。丸太なんぞは、マッチのようにへし折られ、あの白象は大へんせて小屋を出た。
オツベルと象 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それから忠寛は木小屋に仮に造った座敷ろうへ運ばれた。そこは裏の米倉の隣りで、大きな竹藪たけやぶを後にして、前手まえでには池があった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
役場をあずかっている人で、典獄てんごく(刑務所の役人)と代理執行官だいりしっこうかんをかねていた人は、わたしたちをろうに入れることをこのまなかった。
もしこの惰性を構成する分子が猛烈であればあるほど、惰性その物もろうとして動かすべからず抜くべからざる傾向を生ずるにきまっている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その左賢王に打破られた公孫敖こうそんごうが都に帰り、士卒を多く失って功がなかったとのかどろうつながれたとき、妙な弁解をした。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ろうやぶりをして、逃げだした怪物ですから、拘置所でも、とくべつの注意をして、もっとも、見はりにつごうのよい
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おとこは、そのてつろうなかでは、自由じゆうあるくことすらできませんでした。また、ゆびすにもされないように、外部がいぶは、金網かなあみられていたのでした。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一人の罪のない男がいまろうに入れられているのだが、その男に負わされた罪の下手人を君は指し示すことができるのだ
しかし天命が働いてきます。そのろうはこわれかけていましたので、予審判事はシャンマティユーをアラスの県の監獄に移したがいいと思ったのです。
思えば思うほどなんの楽しみもなんの望みもなき身は十重二十重とえはたえ黒雲に包まれて、この八畳の間は日影も漏れぬ死囚ろうになりかわりたる心地ここちすなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そのかわり、ごろう払いになればまた源之丞どのとやらも情にほだされて、二世かけましょうと、うれしいことばもろともお迎えに参りましょうからね。
「いいえ、それはあなたが、つかまえて、土のろうに入れてあるひとたちの、においでしょう。」といいました。
ジャックと豆の木 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
人民たちは、エキモスがろうにとじこめられて、いよいよ今日は島ながしになるんだということを、いつのまにかききだして、たいへんさわぎたっています。
銀の笛と金の毛皮 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それがおろうにはいってからは、仕事をせずに食べさせていただきます。わたくしはそればかりでも、おかみに対して済まない事をいたしているようでなりませぬ。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「華族さんだって石炭泥棒にいってとっつかまればろうちこまれる。関さんはおベッカなんか使わない」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今にしてむべきにあらざれば、彼はろうかるる罪人のごとく悄々しおしおしたがいゆきぬ、常にはほかに訪う人なかりし寡婦が住居の周囲に、今はほとんど人の山を築けり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
「えっ、怪星ガンの住人ですって。それはたいへんだ。いよいよぼくらをろうへぶちこむか、それとも皆殺しにするために有力な軍隊をひきいて乗りこんできたのでしょうか」
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
うすると私の書記かきしるしておいたものは外交の機密にかかる恐ろしいものである、しこれが分りでもすればぐにろう打込ぶちこまれて首をられて仕舞しまうにちがいないとおもったから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
堕胎だたいをしたものは刑法の罪人だといえば、何の事かもとより分らず、お前巡査につかまってろうへ入れられなけりゃならないといえば、また二十五座へ遁込にげこんで躍るというであろう
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうした世の中で、たった一片のパンを盗んだ男が十九年もろうへはいっている事も妙だ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「いゝえ! いゝえ! わたくしを打ったために、あの方がろうへ行かれるようなことが、ございましたら、妾は生きては、おりません。お父様! どうぞ、どうぞ、内済にして下さいませ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先師のこの言葉に関連したことで、門人のろうも、こんなことをいった。——
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それで自分は死ぬことができなくて、やがて捕えられてろうに入れられた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あのひとは、お父さんやまま母の見張りがきびしいもんで、うちを抜け出すのは、ろう破りも同様、むずかしいんですよ。(伯父のネクタイを直してやる)伯父さんは、頭もひげももじゃもじゃだなあ。
そして彼はその記憶を「秘密ろう」と名づけたものの中へ放り込んだ。
桜痴居士作の「日蓮記」で日朗にちろう法師と明星天童子を勤め、さらに中幕の「琵琶びわ景清かげきよ」で榛沢六郎をつとめたが、日朗は召捕りの大立廻りに新手をみせ、土のろうから佐渡の別れまで幕ごとに活動して
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山のうるはしとふも、つちうづたかき者のみ、川ののどけしと謂ふも、水のくに過ぎざるを、ろうとして抜く可からざる我が半生の痼疾こしつは、いかつちと水とのすべき者ならん、と歯牙しがにも掛けずあなどりたりしおのれこそ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「それは何より、では両方! しかし堅固けんごなこのろうを……」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はじめからろうやへはいらない様にしてやれませう。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「あの男をろうにいれてしまえ。」
御徒士町おかちまちの叔父の家に、彼は、その日から窮屈な禁足を命ぜられた。六畳間の座敷ろうだ。読書以外、庭へ出るのも、許されない。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでもやっぱり、当時はわたしも借金のことで、ろうへぶち込まれようとしたこともあるんです。相手はネージンのギリシア人でしたよ。
三吉は姉の肉声を通して、暗い座敷ろうの格子に取縋とりすがった父の狂姿を想像し得るように思った。彼はお種の顔をじっと眺めて、黙って了った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから、後日、このどろぼうが再び悪事を試み、そのとき捕えられて、ろうへいれられても、私をうらむことはないであろう。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたしがその嬉しさの余り、笑い続けたのも当然です。今でも、——このろうの中でも、これが笑わずにいられるでしょうか?
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのとき人殺し兇状で、伝馬てんま町のろうに入れられている亭主のことも話したのだろう、六十日ほど経つ今日まで、ずいぶん親切にしてもらった。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
借金しゃっきんのためにろうにはいるのは、おまえが思うほどおそろしいものではない。向こうへ行けばなかなかいい人間がいるよ」
じょうのかかっているのを役人やくにんたちははずして、せまろうとびらひらいてなかへはいり、くまなく、あたりを調しらべてみました。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「二、三人呼んで、この女をろうに連れてってもらいましょう。」それからファンティーヌの方へ向いて言った。「お前は六カ月間牢にはいるんだぞ。」
その間際ですらかくのごとく頑固がんこであるなら、この頑固は本人にとってろうとして抜くべからざる病気に相違ない。病気なら容易に矯正きょうせいする事は出来まい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
親子三人干ぼしになって死ぬよりゃろうへはいったほうがましと、せがれに緒を切らして回らしたんでござんす
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
手紙を読めば分るが、自業自得とはいえ、この男は可哀相なんだ。三千子さんのためにろうにまで入っている。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこでろうに入ってからは、今まで得がたかった食が、ほとんど天から授けられるように、働かずに得られるのに驚いて、生まれてから知らぬ満足を覚えたのである。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして、犯人等に自らアピア迄出頭するように命じた。犯人達は男らしく自らアピアへ出て来た。彼等は六ヶ月禁錮きんこの宣告を受け、直ぐろうつながれることになった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)