活溌かっぱつ)” の例文
それに、婦人達の妙に物おじをした様子で、なよなよと歩く風情ふぜいは、あの活溌かっぱつな西洋女の様子とは、似ても似つかぬものでありました。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかれども、人民自治の精神を涵養かんようし、その活溌かっぱつの気象を発揚するものに至ては、勢い英国人種の気風をさざるを得ず(大喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
自分はその暗い庭を前にながめて、番頭に背中を流してもらっていた。すると入口の方から縁側えんがわを沿って、また活溌かっぱつな足音が聞こえた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
稽古ばかまをはいて、竹刀しないの先へ面小手めんこてはさんで、肩に担いで部屋を出たが,心で思ッた、この勇ましい姿、活溌かっぱつといおうか雄壮といおうか
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
明治維新を境として、欧洲文明がしきりに移植されたように、大化改新を境として、支那文明の輸入がにわかに活溌かっぱつとなった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
若い元気な助手を十数人も使って活溌かっぱつな研究生活を続けておられた姿を思ってみると、誠に今昔こんじゃくの感にたえないものがある。
この魚は金魚よりむしろ闘魚とうぎょに似て活溌かっぱつだった。これの豊富な標本魚は、みな復一の保管の下に置かれ、毎日昼前に復一がやる餌を待った。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
(突然活溌かっぱつになりて二三歩前の方へで、独言ひとりごと。)そのくせゆうべヘレエネと話しているうちにすぐにでもかき始められるように思ったのだが。
そしたら、深雪さんが、はい、と、活溌かっぱつに、聞き出しましょうって。お春のような、のべつに、操を破っている代物とは、代物がちがうんだぜ
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ハンス・ハンゼンは優等生だし、その上活溌かっぱつな児で、英雄のように馬に乗ったり、体操競技をやったり、泳いだりして、誰にでも人気があった。
女房たちは活溌かっぱつに動きまわり、家をきちんと整理し、つやのいいひいらぎの枝の、真赤な実をつけたのが窓にあらわれはじめた。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
活溌かっぱつな、ただ精神上活動的な人間にしばしばあることだが、この手工じみた仕事に夢中になってしまい、ついに手すりの一部は実際引上げられ
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「もう僕は、憎まれる憎まれる。誰も分ってくれやしない。」と栖方はまた呟いたが、歩調は一層活溌かっぱつ戞戞かつかつと響いた。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そして映画でお馴染なじみの、あの活溌かっぱつなマックセンネットのベージング・ガールたちをおもい出さずにはいられませんでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
女学生のうちの年上で、せた顔の表情のひどく活溌かっぱつなのが、汽車の大分遠ざかるまで、ハンケチを振って見送っていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
活溌かっぱつみぎわの方へ立去った。すんなりと円みをもった、若鹿のような美しい体に、ぴったりした純白の水着が描きだす曲線はすばらしいものだった。
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
親類には大きい尼寺あまでらの長老になっている尼君あまぎみが大勢あって、それがこの活溌かっぱつな美少年を、やたらに甘やかすのである。
その挙止きょし活溌かっぱつにして少しも病後びょうご疲労ひろうてい見えざれば、、心の内に先生の健康けんこう全くきゅうふくしたりとひそかに喜びたり。
積極的美とはその意匠の壮大、雄渾、勁健けいけん、艶麗、活溌かっぱつ、奇警なるものをいい、消極的美とはその意匠の古雅、幽玄、悲惨、沈静、平易なるものをいう。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
斧四郎が、お喜代の三味しゃみで、小唄をうたうと、桂は、長州節を活溌かっぱつにどなった。露八も、幾つかの荻江おぎえを唄った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家財なぞしらんと——だが深川の商取引の活溌かっぱつさは昔どころではなく、溌溂はつらつとして大きな機運が動いていた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「それはお草臥くたびれなさいますわね。それにそんなに急がなくてもよろしいのですから。」女は活溌かっぱつにこう云った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
以前ならばどうにか活溌かっぱつな生活を続け得たものだが、今のようなあいの子の服装が癖になってしまっては、折角せっかく永い年月ゆかしがっていた常夏とこなつの国へ行きながら
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は動きながら喜ぶことができる、喜びは私の運動を活溌かっぱつにしさえするであろう。私は動きながら怒ることができる、怒は私の運動を激烈にしさえするであろう。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
昼御飯がすむとほかの子供達は活溌かっぱつ運動場うんどうばに出て走りまわって遊びはじめましたが、僕だけはなおさらその日は変に心が沈んで、一人だけ教場きょうじょう這入はいっていました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は日頃物臭さな、気力甚だ活溌かっぱつならざる男であるが、人生に対し積極的になる場合が三つある。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
渠の形躯かたちは貴公子のごとく華車きゃしゃに、態度は森厳しんげんにして、そのうちおのずから活溌かっぱつの気を含めり。いやしげに日にくろみたるおもて熟視よくみれば、清※明眉せいろめいび相貌そうぼうひいでて尋常よのつねならず。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……彼はそっと眼だけを毛布のそとに出しながら夢心地ゆめごこちにそれを見入っていたが、やがてそれらの活溌かっぱつに運動している微粒子の群はただ一様に白色のものばかりでなく
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
これをがいするに、上士の風は正雅せいがにして迂闊うかつ、下士の風は俚賤りせんにして活溌かっぱつなる者というべし。その風俗をことにするの証は、言語のなまりまでも相同じからざるものあり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
世帯崩しょたいくずしの年増女としまおんなを勝手元に働かせて、独身で暮している川西のために、時々上さんのるような家事向の用事に、器用ではないが、しかし活溌かっぱつな働き振を見せていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それに伴れて蒸気の力を十分に強くしてピストンの運動を活溌かっぱつにさせることができるわけです。
ジェームズ・ワット (新字新仮名) / 石原純(著)
「あなたも今日は大変好い着物を着てるねえ。……今日はあの絣を着て来なかったの。あれが私大好き。活溌かっぱつで。……だけどその着物も好い着物だわ。こんどこしらえたの?」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ぼくが可笑おかしがって、吹出ふきだすと、あなたも声を立てて、笑いながら、『土佐の高知の、播磨屋はりまや橋で、ぼうさん、かんざし、買うをみた』とすそをひるがえし、活溌かっぱつに、踊りだしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
毎晩筋の発展し成長する夢——即ち連続した夢の中で活溌かっぱつに生活して行くということは、非常に珍しいことで、これは京極三太郎の生理的あるいは心理的特色であったかも知れません。
すると消防隊は、にわかに活溌かっぱつになった。大勢の隊員が、さらに呼びあつめられた。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おはようございます。」と活溌かっぱつに言った。すると、ひどいじゃないか、その学生は、実にいやな、憎しみの眼で、チラと僕を見たきりで、さっさと正門へはいって行ってしまった。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
事務に懸けては頗る活溌かっぱつで、他人の一日分沢山たっぷりの事を半日で済ましても平気孫左衛門、難渋そうな顔色かおつきもせぬが、大方は見せかけの勉強ぶり、小使給事などを叱散しかりちらして済まして置く。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
当時の開国論者の多くは真の開国論者に非ず、ただ敵愾てきがいの気を失し、外人の恫喝どうかつ辟易へきえきし、文弱、偸安とうあん苟且こうしょの流にして、而しての鎖国論者中にこそ、かえって敵愾、有為ゆうい活溌かっぱつの徒あり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
わかい、健康けんこう男女だんじょは、それぞれ工場こうじょうへいき、活溌かっぱつはたらいたのですが、正吉しょうきちは、それらのひとたちとおなじことはできず、ある電気工場でんきこうじょうつとめて、体力たいりょくにふさわしい仕事しごととして、ニクロムせんいたり
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すると、さまざまな筋道の立たぬ考えがき上がって頭がぐらぐらとした。彼が目が覚めていて活溌かっぱつでいるときは、彼はこんなふうには見えなかった、——たしかにこんなふうには見えなかった。
誰が誰だかわからんのが姿見の井戸の底のみそなんだから、あんたも女ということを気づかれんように、なるたけ物をいわずに、いうときには太い声を出して、できるだけ活溌かっぱつにふるまいなさい。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それは彼れの貨物に対する需要の活溌かっぱつ性に応じ増減しつつある。
活溌かっぱつにがたぴしといふ音すずし
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
安いに似合わず活溌かっぱつな馬だと感心はしたが、馬に感心したからと云って飲みたくない茶を飲む義理もあるまいと思って茶碗は手に取らなかった。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幼いころは至ってお転婆だったのだし、親猫になってからだって、相当に喧嘩けんかも強かったし、活溌かっぱつに暴れる方であった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だが、いくら活溌かっぱつに動いて見せたところで、これが健康な人と云えるだろうか。あの顔色はどうだ。目のまわりを薄黒く隈取くまどっている死相はどうだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
嫁にゆくまえと同じように、雑貨店のほうでも洋食部のほうでも、活溌かっぱつに動きまわったし、まえよりもあいそよく、客あしらいもやわらかになった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ところが、著者とその仲間とのあいだの交わりは、つねに新しく、活溌かっぱつで、直接的である。作家は自分のために生きるよりも以上に読者のために生きたのだ。
後、第一皇子(後深草)が即位されたが、後嵯峨院は第二皇子(亀山)の活溌かっぱつを愛せられて、これに位を譲らしめられ、ここに二流が分立することとなった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
航空研究所や地震研究所での活溌かっぱつな研究生活もまだ始まらない前で、私は随分忙しい思いもした。しかし千載一遇せんざいいちぐうの良い訓練を受けることが出来たのであった。