氏神うじがみ)” の例文
そうして主従三人は三社権現ごんげんと祭られ浅草一円の氏神うじがみとなり、十人の草刈りは堂の左手の後に十子堂をしつらえて祭られました。
かつては、時の氏神うじがみのように、その英姿を、世上に仰がせたほどな彼が、こんにち、この敗退に次ぐ敗退は、どうしたことかと、疑われる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氏神うじがみである白山しらやま神社の境内には、「四海泰平」「徳光遍世」などと書かれた白いのぼりが、七月の風に、パタパタと鳴っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
このまちでは、ちょうどむかしからの氏神うじがみさまの祭日さいじつたるのでした。そして、いつも、むかしわらないもよおしをするのでした。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただ氏神うじがみさまより遠いということは、少しこわかった。彼らはまだ、だれひとり一本松まで歩いていったものがないのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
大阪の市中には各所に沢山の氏神うじがみが散在し、それが今もなお七月中にその全部が、日を違えて各々夏祭を行うのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
やしろをお作りになって、今度のご征伐せいばつについていちいちお指図さしずをしてくださった、底筒男命そこつつおのみこと以下三人の神さまを、この国の氏神うじがみさまにおまつりになった後
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
むかし源氏げんじ武士ぶしいくさに出るとき氏神うじがみさまの八幡大神はちまんだいじんのおとなえるといっしょに、きっと先祖せんぞ八幡太郎はちまんたろうおもして、いつも自分じぶんかって行く先々さきざきには
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
二十三夜待にじゅうさんやまちなどとやや似ていたのは、立待たちまちといって氏神うじがみさまのやしろの前に、氏子うじこが何人か交替して立ちどおしに立っていて、そのあいだかねを鳴らしつづけること
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
耶蘇ヤソになったからって氏神うじがみさまを棄てるようじゃ駄目ですよ。皆してお礼詣りに行っていらっしゃい」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
氏神うじがみさまの祭だ、町内のつきあいだって、幾度頭を下げて頼んでも、びた一文も出さねえわからずやもありゃあ、こうしたもののわかった方もいらっしゃるってんだ。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
配給品が時の氏神うじがみであった。二人はそれを並べて幾度も手にとりあげては、顔を見合わせて笑った。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのおりわたくしとしましては感極かんきわまりて言葉ことばでず、せきなみだはらえもあえず、竜神りゅうじんさま、氏神うじがみさま、そのほか方々かたがたこころから感謝かんしゃのまことをささげたことでございました。
町内氏神うじがみの祭礼も七五三の祝儀も、自由主義を迎える世には遠慮しなくてはならなくなる。心配は参詣さんけいをする氏子うじこよりも御幣ごへいを振る神主かんぬし提灯屋ちょうちんやのふところ都合であろう。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「このひでりを知らんのか。お前の留守に、田圃たんぼかわいてしまう。荒町あたりじゃ梵天山ぼんでんやまへ登って、雨乞いを始めている。氏神うじがみさまへ行ってごらん、お千度せんどまいりの騒ぎだ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「生れ故郷の氏神うじがみさんの、森が見えますほのぼのと……あれでございますか」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母の枕もとの盆の上には、大神宮や氏神うじがみ御札おふだが、柴又しばまた帝釈たいしゃく御影みえいなぞと一しょに、並べ切れないほど並べてある。——母は上眼うわめにその盆を見ながら、あえぐように切れ切れな返事をした。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
著物きものも縫ふ、はたも織る、糸も引く、明日は氏神うじがみのお祭ぢやといふので女が出刃庖刀を荒砥あらとにかけていささか買ふてあるたいうろこを引いたり腹綿はらわたをつかみ出したりする様は思ひ出して見るほど面白い。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
大観すると、時の氏神うじがみは、どうしても、後白河法皇である。義仲といえ、頼朝、義経といえ、いわばワキ役でしかない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まずこの家より上のほうに男の児をもった家の屋のむねなわをゆわえつけ、つぎにその繩を氏神うじがみさんのやしろに引き、さらに子どものほしい家の外庭そとにわまで引いてきて
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
去年きょねんれ、徳蔵とくぞうさんに、召集令しょうしゅうれいくだりました。たつ一は、そらくもって、かぜに、はたりながら、氏神うじがみさまへおくっていったことをわすれることができません。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
荒町あらまちにある氏神うじがみの境内へ下った諏訪すわ本社のお札を降り始めとして、問屋の裏小屋の屋根へも伊勢いせ太神宮のお札がおさがりになったとか、桝田屋ますだやの坪庭へも同様であると言われると
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
春日様は藤原家の氏神うじがみでござりますが、もとは鹿島かしまの神様のおうつしでございますから、やはり、お武家様方の守り神でござります、春日四所大神と申しまして、その第一殿が常州鹿島の明神
氏神うじがみさまから一本松までの遠さを、たいしたことではないと思った。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
かりそめにも、物の下に自分を置くな。時により、貧しい月日を送る日とて、心は高く、物の上に置いてたも。氏神うじがみのお子ぞ。お日様の生かしている人間じゃぞよ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早朝に氏神うじがみさまにおまいりして、しばらくすわっているくらいがその日の勤めであって、なにも積極的に働く用はなかったらしいのだが、それでもなお、この日ぎょうを休まずに
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大きな時代の変革へんかくは、いまや西に秀吉、東に家康と、この両巨人をもって、時の氏神うじがみとあがめ、信長以前の老練家は、いくら、家格、閲歴えつれき赫々かっかくたる実績があっても
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の知っている三河みかわの或る山村では、氏神うじがみの祭礼に金的きんてきあてる神事がある。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「それがわしらの氏神うじがみだよ。わしらによい氏神なら、どちらであろうと、ついて行くよ」と
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前後三たびまでかかる不思議にい、そのたびごとに鉄砲をめんと心に誓い、氏神うじがみ願掛がんがけなどすれど、やがて再び思い返して、年取るまで猟人かりうどの業をつることあたわずとよく人に語りたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
火は、あらゆるものの決裁と清掃をり行うとき氏神うじがみだ。そして残る白い灰は、次の土壌どじょうに対して、はやくも文化の新しい萌芽ほうがをうながし、灰分的かいぶんてき施肥せひの役目をはたしている。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の鉄軍は、洛外から畿内きないへわたって、ふたたびとき氏神うじがみの威力を示した。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「武蔵どの。一同これより、この河原の上の氏神うじがみやしろまで、参詣してくつを納めて参る。——それにて式事は済むのでござる。済めば大いに飲みもし話もいたそう程にもう暫時、それにてお待ちを」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、それこそ、時の氏神うじがみ顕現けんげんのように、囲繞いにょうされていたのである。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)