殿どの)” の例文
けら殿どのを、ほとけさんむし馬追蟲うまおひむしを、鳴聲なきごゑでスイチヨとぶ。鹽買蜻蛉しほがひとんぼ味噌買蜻蛉みそがひとんぼ考證かうしようおよばず、色合いろあひもつ子供衆こどもしう御存ごぞんじならん。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのむかし、この顕家もまだ十四歳の左中将の若者であったころ、北山殿どの行幸みゆきに、花の御宴ぎょえんばいして、陵王りょうおうの舞を舞ったことがある。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてももいろの封筒ふうとうへ入れて、岩手ぐん西根山にしねやま、山男殿どのと上書きをして、三せんの切手をはって、スポンと郵便函ゆうびんばこみました。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
此方こち昔馴染むかしなじみのヸーナス殿どのめさっしゃい、乃至ないし盲目めんない息子殿むすこどのれいのコーフェーチュアのわうさんが乞食娘こじきむすめれた時分じぶん
そこ/\に暇乞いとまごひして我家に立歸りしに女房お梅は出迎いでむかへ御持參の金子きんすとゞこほりなく文右衞門殿どの請取うけとられしや如何いかにと云ふに長八かうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「あの、石川殿どのの用人、竹田とやらがまいった時から、ずっとすわりつづけで、脚がもうしびれてしもうた。やれやれ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ぼくは、今日、平木中佐殿どのが言われたように、なにごとにでも死ぬ覚悟でぶっつかるつもりでいるんです。なまぬるいことは、ぼく、大きらいです。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この岡崎殿どのが十八さいばかりの時、主人より年の二つほど若い小姓こしょうに佐橋甚五郎というものがあった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いや、むこ殿どのがあれをの無いものに大事にして居らるるはかねて知ってもおるが、……多寡が一管の古物こぶつじゃまで。ハハハ、何でこのわし程のものの娘の生命いのちにかかろう。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
よし/\、本来の田舎漢ゐなかもの、何ぞ其様な事を気にかいせむや。吾此の大の眼をみはりて帝国ホテルに寄りつどふ限りの淑女紳士をにらみ殺し呉れむず。昔木曾殿どのと云ふ武士もありしを。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼は花形殿どののために馬車を駆っているのではないか? どれだけ神のごとく、どれだけ不朽で彼はあるのか? 不朽でもなく神のごとくでもなく、自分に対する自分自身の評価
えるされむに住む靴匠くつしょうでござったが、当日は御主おんあるじがぴらと殿どの裁判さばきを受けられるとすぐに、一家のものどもを戸口とぐちへ呼び集めて、勿体もったいなくも、御主の御悩みを、笑い興じながら
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
殿どのには雲突く許りの力士が二人裸に締込みして待受けて居た。少しギヨツとした。
相撲の稽古 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
きくと、女中のだれかが強盗をかくしているに相違そういないと云うので、女中を一々呼び出した。すると、その中に大納言殿どのと云われる上席の女中がいたが、それが風邪気味かぜぎみだと云って、出て来ない。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
加賀国富樫とがしと言う所も近くなり、富樫のすけと申すは当国の大名なり、鎌倉殿どのよりおおせこうむらねども、内々用心して判官殿ほうがんどの待奉まちたてまつるとぞ聞えける。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
理不盡りふじんなるいかり切先きっさきたゞ一突ひとつきにとマーキューシオー殿どの胸元むなもとをめがけていてかゝりまする、此方こなたおなじく血氣けっき勇士ゆうし、なにを小才覺ちょこざいなと立向たちむか
今、通って来た右側の樹立の奥に見えた築地ついじと屋根が、東山殿どのの銀閣寺であったらしい。ふと、振顧ふりかえると、そこの泉が棗形なつめがたの鏡のように眼の下に見えたのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
押立おしたて玄關にはむらさき縮緬の幕をはり威儀ゐぎ嚴重げんぢうに構へたり此時下の本陣には播州ばんしう姫路ひめぢの城主酒井雅樂頭殿どの歸國の折柄にて御旅宿なりしが雅樂頭うたのかみ殿上の本陣に天一坊旅宿の由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
死亡承諾書、私永々御恩顧ごおんこ次第しだい有之候儘これありそうろうまま御都合ごつごうにより、何時いつにても死亡つかまつるべく候年月日フランドン畜舎ちくしゃ内、ヨークシャイヤ、フランドン農学校長殿どの とこれだけのことだがね
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あとはまた眠気をもよお沈黙しじまが、狭い床店の土間をのどかに込めて、本多隠岐守ほんだおきのかみ殿どのの黒板塀に沿うて軽子橋の方へ行く錠斎屋じょうさいやの金具の音が、薄れながらも手に取るように聞こえて来るばかり——。
「来賓祝辞——陸軍省の平木中佐殿どの。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わしも、いまおもへば、そもじとおなほど年齡としごろ嫁入よめいって、そもじをまうけました。まんでへば、うぢゃ、あのパリス殿どのがそもじを内室うちかたにしたいといの。
立るとは云ものゝ餘り物堅ものがたき人かなと文右衞門がうはさをなし夫に付ても娘お幸はさぞかしつらつとめならんなどと密々ひそ/\はなしの折から親分の武藏屋長兵衞は長八殿どのうちにかと聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
北宋、南宋の稀品きひん。また、東山殿どのあたりからの名匠の邦画。それから現代画として行われている山楽さんらくだの友松ゆうしょうだの狩野家かのうけの人々の作品など、折あるごとに、武蔵は観てきた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから英国ばかりじゃない、十二月ころ兵営へ行ってみると、おい、あかりをけしてこいと上等兵殿どのに云われて新兵が電燈をふっふっといて消そうとしているのが毎年五人や六人はある。
月夜のでんしんばしら (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さらには、御池殿おいけどのの御所や錦小路殿どのの内でも、奉行人たちへの慰労だの諸大名の招待が連夜のように催され、洛内の灯は、建武以来初めて、昔の都にもまさる夜景をちりばめだした。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丸木で造った山小屋の風情がなかなか風雅であるという者もいたが、これはそのかみ、斉明天皇が三韓交渉の折、筑紫の朝倉に進んだとき造られたまる殿どのになぞらえたものであった。
「二かん殿どの
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)