棺桶かんおけ)” の例文
そこで死刑となった火辻軍平の死体は、棺桶かんおけにおさめられたのち、そこから遠くないところにある阿弥陀堂へ、はこびいれられた。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、万やむをえざる場合には、土人形六個を棺桶かんおけの中に入れて葬式すれば、友を引かぬと信ぜられておる。実に滑稽こっけい的迷信である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
こうした母国の意気組を、はるかに巴里パリーの片隅から眺めていると、片足を棺桶かんおけに突込んでいる私でさえ、真に血湧き肉躍るばかりである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さいぜん明智の事務所へ運ばれた棺桶かんおけようの木箱の中には、神谷が恐れたような死体ではなくて、このマネキン人形がはいっていたのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「じゃア君、頼むよ、一時間でも早く届くように。」と待たして置いたくるまに乗移って、「片脚かたあし棺桶かんおけに掛ってるんだから気が短かくなった。」
政府で歳入の帳尻ちょうじりを合わせるために無茶苦茶にこの材木の使用を宣伝し奨励して棺桶かんおけなどにまでこの良材を使わせたせいだといううわさもある。
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこには一個ひとつ棺桶かんおけが置いてあったが、その上に紙をって太い文字が書いてあった。それは「故奉化符州判女麗卿之棺こほうかふしゅうはんじょれいけいのひつぎ
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おおかた葬式か焼場であろう。箱の中のは乳飲子ちのみごに違いない。黒い男は互に言葉も交えずに黙ってこの棺桶かんおけを担いで行く。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ところが、それがね、しょってしまったって、一さいの事ではないのですよ。滑稽こっけいなことにはおばさんの棺桶かんおけをしょってしまったんでさあね。」
「そんなことをいっていたら、わたしたち四人が四人、かつえ死にに死んでしまって、あとは棺桶かんおけの板をけずってもらうだけが、しごとになるよ。」
片足は棺桶かんおけへ突っこんでるくせに、のこる片っぽの足じゃ、新しい生活のあけぼのをめざして、むずかしい本のページを、せっせとほっつき回ってるんだ。
棺桶かんおけらしい物が見えませんし、病死したものならまさか蒲団に包んで埋める、なんということはないでしょう」
寺男は両手を深くその中に差入れたり、両足の爪先つまさきで穴の隅々すみずみを探ったりして、小さな髑髏どくろを三つと、離れ離れの骨と、腐った棺桶かんおけ破片こわれとを掘出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……こんな往来中で、なんともかンともすみませんが、お慈悲と思し召して、この閻婆えんばに、棺桶かんおけの一つでも、お恵みなすってやっちゃあ下さいますまいか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時分から酒を飲んだから酔って転寝うたたねでもした気でいたろう。力はあるし、棺桶かんおけをめりめりと鳴らした。それが高島田だったというからなお稀有けぶである。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みんなまとめて、身体からだの代りに、小判で三百両棺桶かんおけの中へ入れて、祖先の墓の側に埋めて貰いたい——って
おっ立っといてねこの死骸をほじくらせやがる。それってえも役人どもが死んじまった者の棺桶かんおけをほじくり返してまでしらべるようなしつっこいマネをしやがるからだ。
自動車の使用が盛になってから、今日では旧式の棺桶かんおけもなく、またこれを運ぶ駕籠かごもなくなった。そして絵巻物に見る牛車ぎっしゃと祭礼の神輿みこしとに似ている新形の柩車きゅうしゃになった。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この棺桶かんおけを預かってくれるならば、火を貸そうと謂ったというような昔話がまだ残っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼の職業は棺桶かんおけ屋で、ザーミ・ヴィッチという名前だった。ごく背が高く、痩せていて、頭を少しかがめ、老農夫みたいな真面目まじめ無髯むぜんの顔だった。彼はごく信心深かった。
おそらく、その男のひとは、棺桶かんおけ這入はいるまで、奥さんをだましおおせるに違いあるまい。奥さんは良人が死んでからも、あのひとはいいひとだったと幸せに思っている事だろう。
恋愛の微醺 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「拵えて病院へ納めるのです……棺桶かんおけです」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「あ、そうか、棺桶かんおけがわりか——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
自分で棺桶かんおけだけはやぶりはしたものの、重い墓石をもちあげかねて、泣きうらんでいるような、それはそれはいやな声だった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
棺桶かんおけなぞは無論、跡形あとかたもなく腐って、ただバラバラの白骨が、小さく固っているのが、星の光りでほの白く見えるばかりです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
通常の場合にては、夢中に人の葬式を見たとか、墓場を見たとか、棺桶かんおけがあったとかいうくらいにて、つまり不吉の夢を見た。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
女はその棺桶かんおけの中にじぶんの体を入れて、それから喬生を引き寄せた。棺桶は二人を内にしてそのまま閉じてしまった。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
確かめたさも半分、不気味も半分、西門慶は隣の二階へ梯子はしご段から顔だけ出した。もう棺桶かんおけも来ていて、仏前仏具の手廻しも、なるほど万端抜かりはない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おいぼれどもが」と渡貫は云った、「みんなもう半分は棺桶かんおけへはいったも同然だ、ばかばかしい、帰ろう」
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
棺桶かんおけといえ、お閻魔殿。——ご馳走でした。……お冬さん、そこで、一本松までは遥々はるばるですか。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それかといって棺桶かんおけ位牌いはいのごとく生活の決算時の入用でもない。まずなければないでも生きて行くだけにはさしつかえはないもののうちに数えてもいいように思われる。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
御経の文句を浪花節なにわぶしうたって、金盥のつぶれるほどに音楽を入れて、一荷いっかの水と同じように棺桶かんおけをぶらつかせて——最後に、半死半生の病人を、無理矢理に引き摺り起して
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自然しぜん法則ほうそく依然いぜんとしてもとのままです、人々ひとびとはやはり今日こんにちごとみ、い、するのでしょう、どんな立派りっぱ生活せいかつあかつきあらわれたとしても、つまり人間にんげん棺桶かんおけ打込うちこまれて
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
西野文太郎にしのぶんたろうがギザギザに切殺された——死骸しがいを入れた棺桶かんおけが通る——血がポタポタ垂れている——と、ほんとかうそか、ワッという騒ぎが来て、越中島の練兵場で、ズドンズドン並んで
わたしは亡くなった義父の棺桶かんおけを見ているような気持ちだった。千光寺山には紅白の鯨幕くじらまくがちらほら見えた。因の島の三ツ庄へ行くのを西行きとまちがえてたくまと云う土地へ上った。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
家の中は区役所の出張員が硫黄いおうの煙と石炭酸せきたんさんで消毒したあと、まるで煤掃すすはきか引越しの時のような狼藉ろうぜきに、丁度人気ひとけのない寂しさを加えて、葬式の棺桶かんおけ送出おくりだした後と同じような心持である。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つまりきみの棺桶かんおけなのさ。このふたりのボーイ君が、きみをいま、そのトランクの中へ埋葬まいそうしようってわけさ。ハハハ……。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
乙吉は幾度も係官の前に迷惑をかけたことをしゃし、屍体は持参じさん棺桶かんおけおさめ所持品は風呂敷ふろしきに包んで帰りかけた。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
廊下のめに暗室があって、そこに棺桶かんおけがあって紙をり、もとの奉化府州判のむすめ麗卿のひつぎと書いてあった。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「そしたら、おじさんが、棺桶かんおけへはいった時に、なぐってやる。——だから、生きてさえいれば、おらが勝つ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大抵たいていのものは絵画にしきえのなかに生い立って、四条派しじょうはの淡彩から、雲谷うんこく流の墨画すみえに老いて、ついに棺桶かんおけのはかなきに親しむ。かえりみると母がある、姉がある、菓子がある、こいのぼりがある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
武士さむらい這奴しゃつの帯の結目ゆいめつかんで引釣ひきつると、ひとしく、金剛杖こんごうづえ持添もちそへた鎧櫃よろいびつは、とてもの事に、たぬきが出て、棺桶かんおけを下げると言ふ、古槐ふるえんじゅの天辺へ掛け置いて、大井おおい、天竜、琵琶湖びわこも、瀬多せた
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つまり、外部からは少しも分らぬけれど、そのクッションの下に、長方形の棺桶かんおけの様な、空虚な部分が出来上った訳である。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その一弾が皮肉ひにくにも棺桶かんおけならぬ此のタンクの中へ残ったわけなんです。本当に恐ろしいことですね。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
上下一呼吸ひといきく間もあらせず、まなこ鋭く、ほおせてひげ蓬々ぼうぼうと口をおおい、髪はおどろ乱懸みだれかかりて、手足の水腫みずぶくれに蒼味を帯びたる同一おなじような貧民一群、いまだ新らしき棺桶かんおけを、よいしょと背負込しょいこ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いつかおまえに、何か望みはないかと訊いてやったら、人並みに棺桶かんおけぐらいは買って備えておきたいと言ったッけ。よろしい。その棺桶はわしが買ってやると約束したことがあるなあ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄暗い廊下の隅に棺桶かんおけみたいな大きな木箱が置いてある。明智が恩田をあざむくために買い入れた例の等身大の人形の箱だ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いや、くだらんことではないです。わしは、この戦車が、われわれの棺桶かんおけであることを、どうかして、早く信じ、なおつ、ついでに、この棺桶を一歩外へ出た附近の地理を
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「じゃ、長屋の衆に、もう少しずつ泣いて貰って、棺桶かんおけと線香代……」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その棺桶かんおけの中に、一体どんなものがはいっていたか、神谷青年がそれを見て、どのように驚いたか。いや、彼が驚いたのはそればかりではなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)