有繋さすが)” の例文
わたしのやうな拗者すねものをコロリと云はせるやうに出来たら余程お手柄やと散三さん/″\に冷かされて有繋さすがの大哲学者も頭を抱へて閉口したやうだよ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
棒の先で屋根の下を掘ってみると、中から出たのは人骨か、獣の骨か、——ゴソゴソとひと固まり。有繋さすがの将軍も、「ヒャー何物!」。
おつたがにはると勘次かんじ幾年いくねんはなかつたあね容子ようす有繋さすがにしみ/″\とるのであつた。おつたは五十をいくつもえてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
で、ふね一揺ひとゆすれるとおもふと、有繋さすが物駭ものおどろきをたらしい、とも五位鷺ごゐさぎは、はらりとむらさきがゝつた薄黒うすぐろつばさひらいた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ト思ひしが。有繋さすが義を知る獣なれば、眠込ねごみを噬まんは快からず。かつは誤りて他の狐ならんには、無益の殺生せっしょうなりと思ひ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
凄然せいぜんたるつきへいうへくぎ監獄かんごく骨燒場ほねやきばとほほのほ、アンドレイ、エヒミチは有繋さすが薄氣味惡うすきみわるかんたれて、しよんぼりとつてゐる。と直後すぐうしろに、ほつばか溜息ためいきこゑがする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
有繋さすがに通常罪人を以て遇せず言葉も丁寧ていねいに監守長の如きも時々見廻りて、ことに談話をなすを喜び、中には用もなきに話しかけては、ひたすら妾の意を迎えんとせし看守もありけり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
有繋さすが良家の子息むすこだけに気高く美しい所があるように思われた。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さうして女房にようばう激烈げきれつ神經痛しんけいつううつたへつゝんだ。卯平うへい有繋さすがいた。葬式さうしき姻戚みより近所きんじよとでいとなんだが、卯平うへいやつつゑすがつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
人気の盛んなのは今日の帝展どころでなかった。油画の元祖の川上冬崖かわかみとうがい有繋さすがに名称を知っていて、片仮名で「ダイオラマ」と看板を書いてくれた。
途中で別れた白根行きの二人、帰途、この茶屋へ知らずに飛び込み、有繋さすがの両人も孤屋こおく怪婆かいば吃驚敗亡きっきょうはいぼうあとをも見ず一目散に逃げ出したそうである。
まじ/\してたが、有繋さすがに、つかれひどいから、しんすこ茫乎ぼんやりしてた、なにしろしらむのが待遠まちどほでならぬ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日さへはや暮れなんとするに、宿るべき木陰だになければ、有繋さすがに心細きままに、ひたすら路を急げども。今日は朝より、一滴の水も飲まず、一塊の食もくらはねば、肚饑ひだるきこといはんかたなく。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
客等きやくら立去たちさつてからも、かれ一人ひとり少時しばらく惡體あくたいいてゐる。しか段々だん/\落着おちつくにしたがつて、有繋さすがにミハイル、アウエリヤヌヰチにたいしてはどくで、さだめし恥入はぢいつてゐることだらうとおもへば。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
必要ひつえうなは卯平うへい丈夫ぢやうぶつていた。それからかべるのにはあひだいて二三にちかゝつた。勘次かんじ有繋さすが勞力らうりよくをしまなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
十五世紀十六世紀頃なら相当な人物であつたかも知れないが、えつきす光線や無線電信の行はれる二十世紀には到底向かない男だ。併し有繋さすがに牧師さんだ子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
これには有繋さすがの豪傑連も少なからず困った。地駄太じだんだ踏んで憤慨したが、当の相手は五、六丈上方に天険を控えて待構えている。将軍もこれには手の出しようがない。
万年博士が『天網島てんのあみじま』を持って来て、「さんじやうばつからうんころとつころ」とは何の事だと質問した時は、有繋さすがの緑雨も閉口してかぶといで降参した。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
有繋さすが渠女あれは約束の妻とも云ひかねて当座のがれの安請合をしたが其後間もなく御当人が第一に失恋を歌ふやうになつてからはプイと何所どこへか隠れて了つた。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
いくら放任教育でも有繋さすがにお客のさかな掠奪りゃくだつするを打棄うっちゃって置けないから、そういう時は自分の膝元へ引寄せておわんふたなり小皿こざらなりに肴を取分けて陪食させた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
見物席のそこらここらから笑い私語ささめく声が聞えたが、有繋さすがは紅葉である、少しも周章とっちらないで舞台へ来ると、グルリと後ろ向きになって悠然ゆうぜんとして紺足袋を脱いだ。
ノッケから読者を旋風に巻込むような奇想天来に有繋さすがの翁も磁石に吸寄せられる鉄のように喰入って巻をく事が出来ず、とうとう徹宵してついに読終ってしまった。
露伴の出世咄 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
(この点においてはかつて一度もマジメな議論をした事のない紅葉は有繋さすがに怜悧であった。)
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
之を尽く灰として了わなかったは有繋さすがの悪魔の猛火も名著を滅ぼすを惜んだのであろう。
ダンチェンコは文人としては第二流であるが、新聞記者としては有繋さすがに露西亜有数の人物だけに興味も識見も頗る広く、日本の文人のような文学一天張の世間見ずではなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
或人が、さぞ不自由でしょうといたら、何にも不自由はないが毎朝虎子おかわを棄てに行くのが苦労だといったそうだ。有繋さすがの椿岳も山門住居ずまいでは夜は虎子の厄介になったものと見える。
その上に固く結束して互に相援引し、応援するにも敵対するにも一斉にって進退緩急の行動をともにした。歩武の整然として訓練のく行届いたは有繋さすがに紅葉の統率の才の尋常でなかった事が解る。