おきて)” の例文
したがって刑法にも、藩ごとのおきてがある。だが、死刑だけは、幕府のゆるしがないと執行できなかった。その死刑にも階級があった。
せいばい (新字新仮名) / 服部之総(著)
「お前は勤めの身でないか。花代さえとどこおりなく貰って行ったら、誰も不足をいう者はあるまい。まだほかにむずかしいおきてでもあるか」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これは主のおきての書、主が私共哀れな罪人にとのこされた聖約また遺言なのです。これによれば私共は永遠のよろこびへと導かれませう。
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「しかし、一旦お上を欺き奉った罪は消えませぬ、これを万一お赦しあれば、国のおきての乱るるは必定、是非切腹をお申付けくだされ」
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どこの寺でも、「葷酒クンシユ山門ニ入ルヲ許サズ」は、法城のおきてみたいになっているが、この天野山金剛寺では、坊舎で酒を醸酒つくっている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、自然しぜんおおきなおきては、このちいさい、ほとんどはいるかはいらないほどのはなさけびや、ねがいでは、どうなるものでもなかった。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は以前とは反対に溪間を冷たく沈ませてゆく夕方を——わずかの時間しか地上にとどまらない黄昏たそがれの厳かなおきてを——待つようになった。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
すこし休息するのが自然のおきてだ(こう言われて八等官は、この分署長は先哲の残した箴言しんげんになかなか詳しいんだなと見てとった。)
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
ややありていう「牢守ろうもりは牢のおきてを破りがたし。御子みこらは変る事なく、すこやかに月日を過させたもう。心安くおぼして帰りたまえ」
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我は裸なる魂の多くのむれを見たり、彼等みないとさちなきさまにて泣きぬ、またその中に行はるゝおきて一樣ならざるに似たりき 一九—二一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
厭世と禁慾とがこの教団のまた魅力でもあった。教団が流行らない初めの頃は何とおきてをしないでも男女の間の風儀ふうぎは乱れなかった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
扉にじょうを卸した時には、軽く叩いてみて返事がなければ入るなと、こう命ぜられてあるから、金椎はそのおきてを守って引返しました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
現に、騎西家の人達は、その奇異ふしぎおきて因虜とりことなって、いっかな涯しない、孤独と懶惰らんだの中で朽ちゆかうとしていたのであった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それまでに親しんでいなかった人たちでも、夫婦の道の第一歩は、人生のおきてに従って、いっしょに踏み出すのではありませんか。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
が、まあ、爺が死ぬ、村のものを呼ぼうにも、この通り隣家となりに遠い。三度のおきてでその外は、火にも水にも鐘を撞くことはならないだろう。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
できるだけ長く生きることではなくて、もっとも強く生きることをおきてとしてる、クリストフのような人物にとっては、それが至当である。
懇ろにするなど思いもよるまい——もしまた俺の眼力違わず紋十郎めが謀反人なら、この谿谷のおきて通り矢衾やぶすまにかかって殺されねばならぬ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ほんとうだよ、女一匹というものは、しかけた恋が叶えばよし、叶わぬときは、相手の咽喉笛を食い切ってやるのがおきてなんだな。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
年明けのおきては二十七だが、あすこはうんと、お飾りのサバを讀んで、どうかすると男厄をとこやくも過ぎたのが居るんだつてね。氣をつけた方が宜いぜ
神に造られた一個の神聖な人命においてあらゆるおきてが残酷に破棄されたことについて、どの法廷も詮議せんぎをしたものはなかった。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
『それだから今度こんど瀑布たき修行場しゅぎょうばとなったのじゃ。そちとおり、こちらの世界せかいおきてにはめったに無理むりなところはない……。』
悪魔のおきてにしたがって、彼女もやはり眼をやられていた。そして、心臓の一とえぐりが、彼女の生命を完全に奪い去っていた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人間はこれからさき、確固たる古代のおきてを捨てて、自分の自由意志によって何が善で何が悪であるかを、一人で決めなければならなくなった。
白痴の女よりもあのアパートの淫売婦が、そしてどこかの貴婦人がより人間的だという何か本質的なおきてが在るのだろうか。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
大人になって、偉い人になって、遊びに行くと誓った私はお屋敷の子の悲哀かなしみを抱いておきてられいましめられわずかに過ぎし日を顧みて慰むのみである。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
倹約をむねとして一〇家のおきてをせしほどに、年をみて富みさかえけり。かつ一一いくさ調練たならいとまには、一二茶味さみ翫香ぐわんかうたのしまず。
なさん是かへつ罪人ざいにん多くならんなかだち也とあざけりし人多しとかや是非ぜひ學者がくしやろんなりといにしへより我朝わがてうおきてにぞかゝる事なけれども利の當然たうぜんなり新法しんはふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
誓ってもらいたいのです。つまり、ラブ・イズ・オンリー・ロウ、恋愛こそ唯一のおきて、そう決心してもらいたいのです。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
側に居ります同心は一応あらためて罪人に渡しまするがおきてでございますから、横合よこあいから手を出して取ろうと致しますると、亥太郎が承知いたしませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よくかえりみますと沖縄の絣には、どうあっても美しくなるようなおきてが働いていることが気附かれます。それはことごとく「手結てゆい」と呼ぶ方法で織られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
なぜと云ふに、此国の裁判官は犯罪の事実を簡単明快に決定すると云ふことの外、被告の利益などを取調ぶる必要がないとおきてられて居るからである。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
殉死にはいつどうしてきまったともなく、自然におきてが出来ている。どれほど殿様を大切に思えばといって、誰でも勝手に殉死が出来るものではない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
寺のおきてに依るに、凡そ尼となるものは、授戒に先だてる數月間親々の許に還り居て、浮世のよろこびを味ひ盡し、さて生涯の暇乞して俗縁を斷つことなり。
守るために、このおきてをつくったのだろう。しかし、慾深い人は、死を覚悟してこの掟を破ったんだ。この扉を開いた
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
き上げさしてのぼって来たが、恐ろしいことのあった晩から、鐘の出来た夜は女人禁制というおきてになって、今夜このあたりにも姿を見せずにいるのだ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
またこの地は禁猟の域で自然と鳥が繁殖し、後年おきてのゆるむに従って焼き鳥もまた名物の一つになったのである。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
無意識に守りぬかうとする一つの「おきて」が宿つてゐるのだと、どうして、もつと早く気がつかなかつたのだらう。
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
これが、当十方不知火流のおきてじゃと、申しいれてあるはず。この始末では、今日の立ちあいはお流れ、お流れ……
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
吉之丞は、かたちだけの信徒になっても、吉利支丹の行儀ぎょうぎもしらず、とうおきてを保つことなどは思いもよらない。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
われらにしてもしまことの心の底から、ミューズやヴェヌスの神に身を捧げる覚悟ならば、われらは立琴ハルブいだくに先立っておきてきびしいわれらが祖国を去るにくはない。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
城ではあの人たちは城のおきての下で行動するわけですが、そこでは静かにして、品位を保っています。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「よそ様はとにかく、花岡伯爵家は花岡伯爵家でございます。おかみおきてにそむくことはできません」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もとよりこのおきてをもってすことはできまいが、母無くして生まるる子というものは有り得ない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
此は勿論、貴族の家庭では、出来ぬおきてになって居た。なっては居ても、物珍ものめでする盛りの若人たちには、口をふさいで緘黙行しじまを守ることは、死ぬよりもつらいぎょうであった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ましてやここは諸縁断絶しょえんだんぜつ、罪ある者とてもひとたびあれなる総門より寺内に入らば、いかなる俗法、いかなる俗界のおきてを以てしても、再び追うことならぬ慈悲の精舎しょうじゃじゃ。
旅のおきてもやかましい。一行が京都へ着いた際の心得まで個条書になって細かく規定されている。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
古代においてはある国々においてはすべての機能はうやうやしく語られおきてによって調節された。
傾城けいせいは金でかふものにあらず、意気地にかゆるものとこころへべし」とはくるわおきてであった。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
定座のおきてによってそれらのわがままの戸口をふさがれてしまうので、そこでどうにかそこから抜け出しうべく許されたただ一筋の困難な活路をたどるほかはないことになる。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これは、私の国のおきてで、人に話してはならない事になつてゐるのですから。それより、あなたが、自分で一つ、あててごらんなさい。日本の人は賢いから、きつとあたります。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)