ほう)” の例文
ここにお話する事件も、とても常識的には信用が出来ないからというので、編輯長の紙屑籠の中へほうりこまれた種の一つであります。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
何しろ、其奴そいつの正体を見届けようと思って、講師は燐寸まっち擦付すりつけると、対手あいてにわかに刃物をほうり出して、両手で顔を隠してしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから、のん気な学生がはかまをここにほうり込んで置いて、学校まで着流しで来ては、よくここでこそ/\袴をはいているのを見た。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
よせよせとも言わなければ、蜜柑の皮や下足札や座蒲団をほうりつけられることもなく、かえって二十銭銀貨一枚いただけたなんて。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
十何人の毛唐や、支那人を相手に大喧嘩を致しました揚句、半殺しにノサレたまんま、その賭場の地下室にほうり込まれてしまいました。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
此の色目で男をなやましたかとお村をズタ/\に斬り、われは此の口で文治郎に悪口をいたかと嬲殺なぶりごろしにして、其の儘脇差をほうり出し
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
で、直ぐ近所のポストへほうり込んでからソコラを散歩してかれこれ三十分ばかりして帰ると、机の上に「森林太郎」という名刺があった。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
新聞が障子のすき間からほうり込まれて、あたりに不行儀に散らばっていた。彼は、(あのちびの奴、いくら言ってもこうして行きやがる)
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
手はそのまま垂らしても好い。(フロックコオトの上着を脱いでゆかの上にほういだす。娘は姿勢を保ちいる。画家は為事を続く。)
たとえばご三男様と相撲すもうを取る場合、遠慮なくほうり出してやるようならよろしい。しかしもしご機嫌きげんを取る料簡りょうけんでいくようなら大反対です
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
得意場廻りをして来た小僧の一人が、ぶらりと帰って来たかと思うと、岡持をそこへほうり出して、「旦那。」と奥へ声をかけた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この申立てはよく辻褄つじつまが合っています。ピストルの音で驚いて飛出したから日記帳がそのまま机の上にほうり出してあったのです。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
散らかっておりまして、と床の間の新聞をほうり出すやら。火鉢を押出して突附けるかとすれば、何だ、熱いのに、と急いでまたずらすやら。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かねて燻製には意地いじのはったる博士は、卓子テーブルの上に載っている残りのノクトミカ・レラティビアの肉を一片又一片と口の中にほうり込む。
それで、また例の通りだとは思いながらも、其処にどたりと枕をほうり出して、わざと大きな音がするように寝転んでやった。
理想の女 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
暗い穴の底へほうり込まれたような鬱憂もないが、矛盾した自己を、やや離れた態度で、冷かに観照しうるだけの皮肉がある。
二郎はその合歓の木蔭に来て鎌や、なたほうり出して、芝生の上に横になって何を考うるともなくじっと池の上を見下している。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「重い重い。まったく、くたびれてしまった」と、京山は、大きな新聞紙の包をテーブルの上にほうり出して、ぐったりと椅子に腰掛けました。
稀有の犯罪 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼はいよいよたまらなくなって、懐中電燈をほうりだすと、今度こそはしか呼吸いきの根を止めようとして、頸ったまを押えつけた。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
で先生が満足に打つまで球をほうらなければ機嫌が悪い、ようやく直球を一本打つと先生はにっこりと子どもらしくわらう、そうしてこういう。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
遠い所を手荒な人足の手で、船艙へほうり込まれ、掴みまわされて運ばれて来るのだから、満足で着く事は今まで殆ど無い。
無題(一) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
始めに小さな包のようなものを筒口へほうり込んで、すぐその上へ銀色をした球を落し、またその上へ、てのひらから何かしら粉のようなものを入れる。
雑記(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こんな大事を、まりでもほうるように、満座の中へいきなり云って投げたのである。——が、まだ伊勢方面の変を、正しく知っていない者もあるやと
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例えば雨の日に蝙蝠傘の代りにステッキを差して歩いたり茹で卵をつくるつもりで懐中時計を湯の中にほうりこみ卵を手にして見つめている類である。
放心教授 (新字新仮名) / 森於菟(著)
支那街の無頼漢が、鰐寺わにでらの縁日に行って喧嘩を始め、相手の男を鰐のいる池にち込んだというんです。ほうり込まれた男はそれっきり出て来ません。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
外に出て買う時に限って敷島しきしまを吸うのは、十銭銀貨一つほうり出せば、釣銭つりせんらずに便利だからである。朝日よりも美味うまいか如何どうか、私には解らぬ。
「だ、だれのために死んだんでえ、——ほ、仏を、こ、こんなとこに、ほうりこみやがって、な、なにが、身ども、だ」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
監物がさきに粗末な客殿の竹の簀子を敷いた縁側へ往った。監物は銃を背からおろして、それを簀子の上にほうり出すように置きながら鷹揚に腰をかけた。
不動像の行方 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
特別に自分を尊敬もない代りに、うおあれば魚、野菜あれば野菜、誰が持て来たとも知れず台所にほうりこんである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おれもたまらんから、古い杉ッ葉に火をつけて、ほうりつけてくれた。もうあんなものはいないから安心するがいい。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
体裁は私の方から退校を願ひ出た形になつて居るが、事実は云ふまでもなく学校の方からほうり出されたのである。
落第と退校 (新字旧仮名) / 丘浅次郎(著)
神の矢は案外に無造作に土間の仕事場、つまり矢を造る工場らしい土間の一隅の木の箱の中にほうりこまれていた。
善ニョムさんも、ブルブルにふるえているほどいかっていた。いきなり、娘の服のえりを掴むとズルズル引きって、畑のくろのところへほうり出してしまった。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「やっぱりそうだったのか……」とその家の主人は、食べかけていた夕飯のはしほうり出して飛んで来てくれた。
けれど、それがもしかすればあなたのお手にははひらずに、間で、誰か役人の机の中にほうりこまれてしまふかもしれない、と思ふとまた私の胸は暗くなります。
ある女の裁判 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
それから自分の着て居る着物はれては居りますが、其衣それも帯を解いて脱いでしまって向うの岸へほうりつけ下着もその通りに投りつけて丸裸体になりましたが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
離れの六畳へ這入るや否や、婆やはかやの手を握ったまま其処へ体をほうり出す様にしてぺたりと坐った。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
宿の横の、土管焼の井筒が半分往来へ跨がった井戸傍で、私はそこにほうりだしたブリキの金盥かなだらい竿釣瓶さおつるべの水を汲みこんで、さて顔を洗いながら朝飯のあてを考えた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
というと、これをお着せなさい、川風はさむいわとでもいったのであろう、えんな声がしてフワリと私の上にほうりこまれたものは、軽いフワフワした薄綿のねんねこだった。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
貞之進の肚裡はらのうちは一層二層三層倍に沸返にえかえって、突然いきなりその手紙を取って丸め、丸めたのを噛んで前なる川へほうり込み、現在封を破った上で、持って帰ればいゝとはどこがいゝ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
大阪でチボ(スリ)とえば、理非をわかたず打殺して川にほうり込むならわしだから、私は本当に怖かった。何でもげるにかずと覚悟をして、はだしになって堂島の方に逃げた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
僕の空想したのは、……僕の書こうと思っているのは、女を裸体にして自動車から銀座通のような町の上にほうり出してやりたい。日比谷ひびや公園の木の上に縛りつけて置くのも面白い。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このあいだって来た米国野球商売人の始球式には、我輩も大いに進んで球をほうって遣った次第である、華盛頓ワシントンの学生といい、リーチ・オール・アメリカンといい、その技倆ぎりょうはとにかく
運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
また私の体はきずをしても滅多にうみを持たず癒るのが頗る早いので、小さい創は何んの手当てもせず何時もそのままほうり放しで置きます。つまり私の体は余り黴菌が繁殖せぬ体質とみえます。
彼は小箱を拾って、腹かけのどんぶりの中へほうり込んだ。箱は軽かった。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
『エイ、勝手にしろ』とルパンは受話器をほうり出した。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
土塊つちくれのようにほうり出された章魚人夫
サガレンの浮浪者 (新字新仮名) / 広海大治(著)
ほら 合をするとほうつてくれます
いくら商売敵だかは知らないが、物をほうって、人の眼を潰そうなんて、そんな親分じゃありません——て言うと、お前は銭形のに——
美留藻は紅矢の家を逃げ出しますと、先ず一番に仕立屋に行って着物を受け取りまして、だちんには一粒の大きな金剛石ダイヤモンドほうり出して来ました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)