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恃
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たの
ふりがな文庫
“
恃
(
たの
)” の例文
その期待を
恃
(
たの
)
みにしてゐた国民にとつて、十万円の研究費すら投じなかつたといふ軍部の低脳ぶりは国民を驚倒せしめたものである。
咢堂小論
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
彼自身、二回も雪中を冒して、柳ヶ瀬、賤ヶ嶽などの境を巡視しているように、彼はまた自然をも歳月をも
恃
(
たの
)
みとはしていなかった。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「同じ芸術だから
詩歌
(
しいか
)
の趣味のあるものはやはり音楽の方でも上達が早いだろうと、ひそかに
恃
(
たの
)
むところがあるんだが、どうだろう」
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
薩軍は、田原の険を
恃
(
たの
)
んで、植木の営の警備を怠って居たので、輜重を収める暇もない。町に入り込んだ官軍は、民家に放火した。
田原坂合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
「骨肉亦無多。孑立将何恃。」〔骨肉亦多キコト無ク/孑立シテ
将
(
はた
)
何ヲカ
恃
(
たの
)
マン〕枕山には兄弟骨肉の互に
相恃
(
あいたの
)
むべきものがなかった。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
▼ もっと見る
久しく修養を積んで、内に
恃
(
たの
)
む所のある作者は、身を困苦の
中
(
うち
)
に屈していて、志はいまだ伸びないでもそこに安楽を得ていたのであろう。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
たとえ私は卑しくとも、卑しいことを恥ずる感情は失ったことはなく、またそれを私のわずかの
恃
(
たの
)
み場として守っていますから。
青春の息の痕
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
彼はその排水路に、自らの服の裏地を裂いて捨て、万一の救援を
恃
(
たの
)
んだわけであるが、その排水は例の池へ開いていたのである。
千早館の迷路
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
彼は思えり、その
来
(
きた
)
らざるを
恃
(
たの
)
むなく、我が待つあるを恃むべしと。彼は思えり、食を足し、兵を足す、これ国防の主眼なりと。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
もう後へは
退
(
ひ
)
かれぬようになって、未練なわしの心にもどうぞ死ぬ覚悟がつこうかと、それを
恃
(
たの
)
みにあんな
真似
(
まね
)
をしてみたのだ。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
それでも、衆を
恃
(
たの
)
んで、外見ばかりは勇ましく、
人気
(
ひとけ
)
のない病院と寺との横道を、新仲町に出た。陣形をととのえ、玉井家を、包囲した。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
それで
彼
(
かれ
)
は
遠
(
とほ
)
く
利根川
(
とねがは
)
の
工事
(
こうじ
)
へも
行
(
い
)
つたのであつた。
彼
(
かれ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
伎倆
(
うで
)
を
恃
(
たの
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
彼
(
かれ
)
は
以前
(
いぜん
)
からも
少
(
すこ
)
しづつ
開墾
(
かいこん
)
の
仕事
(
しごと
)
をした。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
最初から自分こそはという自信と、親兄弟の勢力に
恃
(
たの
)
む所があって宮中にはいった女御たちからは失敬な女としてねたまれた。
源氏物語:01 桐壺
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
無邪氣なること赤子の如く、胸中一事を包藏するに堪へざるものに似て、智を
恃
(
たの
)
める士流は遂にその
底蘊
(
ていうん
)
を窮むること能はず。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
が、「パンのみでは生きられない」と云ふ註釈を施すのを忘れなかつた。それから彼自身の力を
恃
(
たの
)
めと云ふ悪魔の理想主義者的忠告を斥けた。
西方の人
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
同時に大勢の労働人員を一つの工場の内に集めると、集団の力を
恃
(
たの
)
んで近代的な労働者の自覚が出て来て、使う方としては不便になって来る。
私たちの建設
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
と、ナオミはその晩尋ねましたが、彼女の口調はいかにも老嬢の
寵
(
ちょう
)
を
恃
(
たの
)
んで、すっかりたかを
括
(
くく
)
っているように聞えました。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
それでも自分はまだ此の先の日々に何か
恃
(
たの
)
むものがあるように自分を説き伏せて此の儘こうした無為の日々を過していなければならないのか。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
米国が戦争に参加して連合国側に偉大な強味を与えたことも、その兵力よりは、その豊富な財力に
恃
(
たの
)
む所があるからです。
三面一体の生活へ
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
皆以て身の重きを成して自信自重の
資
(
たすけ
)
たるべきものなれども、
就中
(
なかんずく
)
私徳の盛んにしていわゆる
屋漏
(
おくろう
)
に恥じざるの一義は最も
恃
(
たの
)
むべきものにして
日本男子論
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
然らざれば
則
(
すなわ
)
ち
険
(
けん
)
を
恃
(
たの
)
みて
衡
(
こう
)
を争い、然らざれば則ち衆を擁して入朝し、
甚
(
はなはだ
)
しければ則ち
間
(
かん
)
に
縁
(
よ
)
りて而して
起
(
た
)
たんに、之を防ぐも及ぶ無からん。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
彦三郎が
座頭
(
ざがしら
)
の位地と人気を
恃
(
たの
)
んで、脚本
改竄
(
かいざん
)
の我儘を主張したが為である。彦三郎といえども黙阿弥には敵し得ない。
寄席と芝居と
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
自分の力でどうしようというわけにはゆかないものであると知りながら、お松は人の力の
恃
(
たの
)
みにならないことをもどかしがって思案に暮れました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
あの自力を
恃
(
たの
)
む禅僧に、真に悟り得ている者は少ない。しかし他力的な無学な善男善女には
敬虔
(
けいけん
)
深い者がはなはだ多い。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
恃
(
たの
)
む所の深い此あて人は、庭の風景の、目立った個処個処を指摘しながら、其拠る所を、
日本
(
やまと
)
・
漢土
(
もろこし
)
に
渉
(
わた
)
って説明した。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
蓋
(
けだ
)
し
薄弱
(
はくじやく
)
なる
人間
(
にんげん
)
は、
如何
(
いか
)
なる
場合
(
ばあひ
)
にも
多
(
おほ
)
くは
己
(
おのれ
)
を
恃
(
たの
)
む
能
(
あた
)
はざるものなるが、
其
(
そ
)
の
最
(
もつと
)
も
不安心
(
ふあんしん
)
と
感
(
かん
)
ずるは
海上
(
かいじやう
)
ならむ。
旅僧
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
正に是れ光格天皇御即位の年、江戸の将軍徳川家治の在職十九年、田沼
意次
(
おきつぐ
)
父子君寵を
恃
(
たの
)
んで威権
赫灼
(
かくしやく
)
たる時となす。
頼襄を論ず
(新字旧仮名)
/
山路愛山
(著)
肺病に罹つては到底駄目だとは知りながらも尚ほ親の慾目で此春までは若しやといふ
恃
(
たの
)
みが両親の心にあつた。そして田舎で出来るだけの手を尽した。
厄年
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
宋の国がこんなに不安な状態になっているのも、全く三人がその兵力を
恃
(
たの
)
んで非望をたくらんでいるからのことだ。
論語物語
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
才弁縦横の若い二人を前にして、巧言は徳を紊るという言葉を考え、
矜
(
ほこ
)
らかに我が胸中一片の
氷心
(
ひょうしん
)
を
恃
(
たの
)
むのである。
弟子
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
遠い日本古代の婦人に見るような、あの幸福で自己を
恃
(
たの
)
むことが厚い、
種々
(
さまざま
)
な美しい性質の多くは隠れてしまった。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
彼は、
国者
(
くにもの
)
という、——何という哀れな、せせこましい、けちくさいことだろう、——理由で、船長のところへ、日ごろの
寵
(
ちょう
)
を
恃
(
たの
)
んで出かけて行った。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
声が涙にくもってくるのを彼はぐっとおさえて、無理にもまだ何処かに
恃
(
たの
)
むべきものが残っているという気もちをかきたてようとしている様子であったが
菎蒻
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
何気
(
なにげ
)
なく
閉
(
と
)
じたる目を見開けば、こはそも
如何
(
いか
)
に警部巡査ら十数名手に手に警察の
提燈
(
ちょうちん
)
振り照らしつつ、われらが城壁と
恃
(
たの
)
める室内に
闖入
(
ちんにゅう
)
したるなりけり。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
吾が力を
恃
(
たの
)
むほどの自信もなし。かるが
故
(
ゆゑ
)
に人の
上
(
かみ
)
に立たんなどの身に過ぎる事に志すべからず。
万
(
よろ
)
づ吾が程を知りて、分に安んじなば身も安全なるべし。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
明君賢相のつねに出ずるを
恃
(
たの
)
むべからずして、なるべく虐政を防ぐの法を設けざるべからざるに至る、日本において立憲政体の要用は実にこれより起これり。
近時政論考
(新字新仮名)
/
陸羯南
(著)
わが信仰の純正とわが行為の
無疵
(
むきず
)
とに
恃
(
たの
)
む、これ何の時にもあるオルソドクシー(いわゆる正統教)である。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
いまや邦夷は家来に
恃
(
たの
)
んでいることも出来なくなった。彼の肩にかかっている人々の気持を思えば、壮年の血が底鳴りをうつのであった。時に年齢三十五歳。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
見なき信は盲信となり、頑信となり、他律信となり、外堅きが如くして内自ら
恃
(
たの
)
む所なきの感を生ずべし。
予が見神の実験
(新字旧仮名)
/
綱島梁川
(著)
しかし、
畢竟
(
ひっきょう
)
するに彼等は防空上の惨敗者であり、
憐
(
あわれ
)
むべき愚民であります。自ら
恃
(
たの
)
むところ厚き我々は決して彼等の言に耳を傾けてはならないのであります。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
わたしはみずから
恃
(
たの
)
む真価を越えてほかの人たちよりも神々によってめぐまれているように思われる——あだかも神々の手から、他の人の受けていない免許状
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
天国は、「我こそ大なり」「我こそ有資格者なり」と、己に
恃
(
たの
)
むところある者の行く場所ではありません。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
所謂
(
いわゆる
)
「近代人」はそういう心を持っているものならぱ、我々は
寧
(
むし
)
ろ退いて、自分がそれ等の人々よりより多く「非近代的」である事を
恃
(
たの
)
み、かつ誇るべきである。
性急な思想
(新字新仮名)
/
石川啄木
(著)
旧約ヨブ記第十八章第十四節、「やがて彼はその
恃
(
たの
)
める天幕より
曳離
(
ひきはな
)
されて懼怖の王の
許
(
もと
)
に
駆
(
おい
)
やられん」
落穴と振子
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
衆を
恃
(
たの
)
んで報復的にこれを懲罰しようとするような、そんなひどいことがどうして起りえられましょう。
融和促進
(新字新仮名)
/
喜田貞吉
(著)
我輩はこのカランの逸話を読んで、三十年来の誤信を
覚
(
さと
)
ったとき、つくづく吾人の知識の
恃
(
たの
)
み難きものなることを嘆じ、更に自疑反省の必要の大なること感じた。
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
博愛の思想の萌芽が妨げられ、やがてこの怪傑は最後の
顛蹶
(
てんけつ
)
を招いたけれども、続いて起った
独逸
(
ドイツ
)
民族はまたも戦勝に眩惑して自己を以て独り優秀なる民族と
恃
(
たの
)
み
永久平和の先決問題
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
矜りとは自ら
恃
(
たの
)
むところがあることであります。これさへあれば、何ものも怖れずといふ信念です。
青年の矜りと嗜み:――力としての文化 第四話
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
自ら
恃
(
たの
)
むところありげな気持がうかがわれた——それは一つ一つの動作に現われていたが、しかしけっして彼女の物腰から柔かさと優美さを奪うような事はなかった。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
皮肉で我儘でむら気で高慢で、明るい人なつっこさがあって、自分の幸福と天才とを
恃
(
たの
)
んでいて、さながら、そのすべては決して変ることはないといった風である。——
道化者
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
恃
漢検1級
部首:⼼
9画
“恃”を含む語句
矜恃
自恃
自恃庵
心恃
怙恃
空恃
恃處
相恃
神恃
自恃居士
衿恃
頼恃