思召おぼしめ)” の例文
「未熟者の拙者、とても人にお教え申すことなどは、出来ませぬが、折角の思召おぼしめしを辞するは却って失礼、宜しかったら型だけにても」
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
でもどちらが勝つでしょう?——強い方でしょうな。——どちらが強いと思召おぼしめして?——うまい物を食べて教育のある方でしょうな。
そこで皆の衆が物持から米や沢庵を持って来てウント喰い倒してやるというのは、天道様てんとうさま思召おぼしめしだ、実にいい心がけである、賛成!
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それはもう幾歳いくつになつたから親に別れて可いと理窟りくつはありませんけれど、いささか慰むるに足ると、まあ、思召おぼしめさなければなりません
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
みかど藤壺ふじつぼ女御にょごにお見せになることのできないことを遺憾に思召おぼしめして、当日と同じことを試楽として御前でやらせて御覧になった。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
習俗に盲従してゐる人達は神様の有りがたい思召おぼしめしを無にして結局は唯必要な、子を生む機械として存在するとしか思はれないのです。
男性に対する主張と要求 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
どうか、私の一生の願を聞いてやると思召おぼしめして、ただ一度でよろしゅうございますから、お目にかかることは出来ませんでしょうか。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
譬えて申せば貴方が一杯の酒を呑乾のみほしておしまいなさる時、その酒のがいつか何処どこかであった嬉しさのにおいに似ていると思召おぼしめすように
伴作 昨日一旦ゆるして歸されたは、深い思召おぼしめしのあることで、かれの罪状いよ/\明白と相成つて、再びお召捕りに相成るのだ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その水癲癇とやら奇病にでも何にでも相成りますから、どうか式部の奇病をあわれに思召おぼしめして、川を越える事はあすになさって下さい。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
みなさん、あの血を誰の血だと思召おぼしめす。云うまでもありませんわね。で、如何でございますの。時間が一秒でも違いましたでしょうか。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たとえ算哲様生前の慈悲深い思召おぼしめしがあったにしても、いつまで御用のないこの館に、御厄介になっておりますことが、どんなにか……
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
『先生までそんな事を思召おぼしめしてらっしゃるんでございますか? それじゃ余りでございますわ。綾子様がお可哀想でございます』
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
赤心まごゝろばかりはびとにまれおとることかは、御心おこゝろやすく思召おぼしめせよにもすぐれし聟君むこぎみむかまゐらせて花々はな/″\しきおんにもいまなりたまはん
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
襖の外から、殿はまだお目覚めでござるか。何事ぢや。石田治部のこといかゞ思召おぼしめすか。さればさ、俺も今それを考へてゐるところぢや。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
小勢が勝たぬには定まらず、あわよくば此方が切勝って、旗を天下につるに及ぼうも知れず、思召おぼしめしかえさせられて然るべしと存ずる
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
君臣というかきさえなければ一壺酒こしゅを中において膝ぐみで議論してみたい男ですらあるくらいな思召おぼしめしなのだ。かつは彼には実力がある。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夢の御告げでもないならともかく、娘は、観音様のお思召おぼしめし通りになるのだと思ったものでございますから、とうとうかぶりたてにふりました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうぞ、これから、これを妹とも思召おぼしめし下すって、しかっても頂き、お引立てもお願いいたしいのです。どうぞお願い申します
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しずかに大沼の真中まんなかへ石を投げたように、山際へ日暮の波が輪になってさっと広がる中で、この藤助と云う奴が、何をしたと思召おぼしめす。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何うか三八さん(歔欷すゝりなく)あなたのとこへなんぞ申して参られた訳ではございませんが、能々よく/\思召おぼしめして、子供を可愛想と思って
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
而して我等かく缺處かくるところあるを悦ぶ、我等のさいはひは神の思召おぼしめす事をわれらもまた思ふといふその幸によりて全うせらるればなり。 一三六—一三八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「旦那様、亭主がながわづらひで食物たべものさへ咽喉を通らなくなつてります。可哀かあいさうだと思召おぼしめして、一度診てやつて下さいませ。」
では貴下方に海嘯があって田も畑も一切流されて、生命だけ助かったと思召おぼしめせ、誰か救ってくれれば好いとは思いませんか。
厄払い (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もう別に宮仕えだけで身を立てようなどともしていないので、外の女房たちが自分よりも上の思召おぼしめしが好かろうとうらやましいとも思わなかった。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「まずこれなら相当の成績でございます。私もお頼まれがいがあったようなものかと思いますが、いかがな思召おぼしめしでしょう」
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
御家に奥様が居て下さるのは——かごうぐいすの居るように思召おぼしめして、私でさえ御気毒に思う時でも御腹立もなさらないのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だがほんの遊戯と思召おぼしめして一つ御指南を仰ぎたいと守宮が答えて上の方の広場へ伴れ行き、サアあそこの樹幹にヴェロと言うかやが生えて居る
身も心も嬢次様のものでございます。わたくしの名は呉井嬢次と思召おぼしめして差支さしつかえございませぬ。……お尋ねになる事は、それだけでございますか
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
他は犬われは狐、とてもかなはぬ処なれば、復讐あだがえしも思ひとどまりて、意恨うらみのんで過ごせしが。大王、やつがれ不憫ふびん思召おぼしめさば、わがためにあだを返してたべ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「お父さま。あのおはなし。あれはもう、折角の思召おぼしめしで御在ますけれど、実はもう、なんにもならない事だと存じますから。」と涙をすすった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「さすがは門之丞殿だ。身をもって萩乃さまをかばったとは、見あげたおこころ……若殿がお聞きなされたら、どんなに御満足に思召おぼしめすことか」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「その方、伺ったことを、御隠居さまに申上げたところ、とにかく逢うてとらせようとの思召おぼしめし——お庭先きにまわれ!」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
のちにせっかく当番をゆるされた思召おぼしめしにそむいたと心づいておいとまを願ったが、光尚は「そりゃ臆病ではない、以後はも少し気をつけるがよいぞ」
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『けれど、せっかくの思召おぼしめさるる観月のお莚に、何も奉らないのは、さぞかしご本意なく思召さるるでありましょう』
にらみ鯛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
御覧になる思召おぼしめしもあられたので、上にはことのほか御落胆。死因をきわめて、ぜひともその理を分明ぶんみょうさせよとのお達しである。……それはそうと……
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ぜひともこの醤をあわれと思召おぼしめし……その代り、お礼の方はうんときばり、博士のお好みのものなれば、ウィスキーであろうとペパミントであろうと……
それと、先日と、——あなたに私がお目にかかったのは二度と思召おぼしめすかも知れませんが、私は実は何遍もお目にかかっているのです。おわかりですか。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
事の仔細を申さば、只〻御心にたがふのみなるべけれども、申さざれば猶ほ以て亂心の沙汰とも思召おぼしめされん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
額をつるつるに剃り上げられ、ポーランド王国へ追いやられました。神様の思召おぼしめしで何ともなりません。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しゅうは取計らわぬ、屋敷へ参らぬか、私のためには命の恩人のお前を、父上も憎うは思召おぼしめすまい」
なにしろ竜宮界りゅうぐうかい初上はつのぼり、何一なにひとわきまえてもいない不束者ふつつかもののことでございますから、随分ずいぶんつまらぬこと申上もうしあげ、あちらではさぞ笑止しょうし思召おぼしめされたことでございましたろう。
ただ天下に雷の如く響きしものは、勅答として出でたる「神洲の大患、国家の安危、容易ならざる事」といい、「今般仮条約の趣にては、御国体立ち難くと思召おぼしめさる」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それらの道は、ただ上の城の偉い人たちと彼らの思召おぼしめしとにまかせているだけであれば、永久に閉ざされているばかりか、目に見えないままでいるにちがいないのだが。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「どうして、どうして」——フィリップが口を出す——「人の乳を飲んで、肥えるの肥えないの、水々しくはなる、色は白くなる、ひどく思召おぼしめしにかなったわけですよ」
其飛鳥の都も、高天原広野姫尊様たかまのはらひろぬひめのみことさま思召おぼしめしで、其から一里北の藤井原に遷され、藤原の都と名を替えて、新しい唐様もろこしよう端正きらきらしさを尽した宮殿が、建ち並ぶ様になった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
邦良早世ましましたので、後醍醐天皇は御自身の皇子を皇太子にと思召おぼしめされたが、幕府は両統迭立の議によって、後伏見の皇子量仁かずひと親王(光厳院こうごんいん)を皇太子に立て奉った。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
世界が大水になって神の思召おぼしめしにかのうた者のみが、生き残ったという信仰さえあったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お医者もそれほどの大事とはいわなかったそうで、いよいよ御臨終という時傍らにいたお医者に大喝して、「帰れ」といわれたそうです。さぞかし残念に思召おぼしめしたでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
思召おぼしめしは有難う存じますが……わたしのような小屋者が……貴郎あなたのような御大家様の……」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)