ひろ)” の例文
「ウーム。うまい! たしかに、バイだ。これは海底の味覚だぞ。しかも相当の深処に育った味覚だな。まず、そうさ。三十ひろの味かな」
黒い肌を生漆のように艶々しくみがきあげた毛並みの下に、一ひろもあろうと思える肉が細やかに動いている。七、八歳の男盛りの闘牛だ。
越後の闘牛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「あの辺は蘆ノ湖でも一番深い個所で、盛夏の候でも五十ひろからありますが、貴君はそれを御承知の上で、そこへ捨てなさッたのですか」
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その裂けめは、深さがいくひろもあって、広さも一ひろぐらいはあるということです。「その穴に落っこちたら、それこそおしまいですよ。」
忽然こつぜんとして現われ出でたのは、身のたけ数十ひろ(一尋は六尺)もあろうかと思われる怪物で、手に一つのふくべをたずさえて庭先に突っ立った。
一度はかれこれ、五十ひろ近くも下ったことがあったが、その時は、駆逐艦に援護された、日本の商船隊を認めたときであった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
大波の時には、二三十ひろの底でもひどく揺れるが、少しの波ならば、潜航艇にでも乗って、それくらい沈めば、もう動揺は感じなくなります。
夏の小半日 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのあたりは浪打ち際から一丁位沖まで、平らな岩礁があって、深さは大体二ひろから三尋位であった。所々には背の立つような浅い所もあった。
真夏の日本海 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
百二十ひろ(二百十九メートル)の深さまではかれる測深線そくしんせんが、海のそこへとどかない。つまり、海はたいへん深くて、百二十尋以上もあるのだ。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
十五ひろの深さで数回引っぱったが、我々の雇った二人の船頭は、曳網を引きずり廻す丈に強く艪を押さなかった。これは困難なことではあった。
同時に満載していた人間がドブンドブンと海へ落ちてしまったのだ。海の深さはそこいらで十五六ひろも在ったろうか……。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
日向ひゅうがの飯野郷というところでは、高さ五ひろほどの岩が野原の真中にあって、それを立石たていし権現と名づけて拝んでおりました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
本澪は第五第二の砲台の間を南へ通ずるなるが、その深さ大抵二ひろ以上、上総澪はその深さにおいて及ばざること遠し。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
洲崎沖で中層プランクトン・ネットを下ろして、五十ひろの所を二十分ばかり曵いて見たが、曵き上げた網の中には一つの生物も見い出されなかった。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
その中で文出部落を流れる本流がやまべ釣の川であつて、四五ひろの深さがあるので、釣り上げる迄のたのしみも深い。
釣十二ヶ月 (新字旧仮名) / 正木不如丘(著)
今は其れ程の水勢は無いが、水を見つめて居ると流石さすがすごい。橋下の水深は、平常ふだん二十余ひろ。以前は二間もある海のさめがこゝまで上って来たと云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは森の中の巨大な樹木のように、数ひろの茎を私の方へ差上げていて、その頂きの上を魚が泳いで行った。空中高く一群の野生の白鳥が渡っていた。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
井戸は車にて綱の長さ十二ひろ、勝手は北向きにて師走しはすの空のから風ひゆう/\と吹ぬきの寒さ、おゝ堪えがたとかまどの前に火なぶりの一分は一時にのびて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
若布わかめのその幅六丈、長さ十五ひろのもの、百枚一巻ひとまき九千連。鮟鱇あんこう五十袋。虎河豚とらふぐ一頭。大のたこ一番ひとつがい。さて、別にまた、月のなだの桃色の枝珊瑚一株、丈八尺。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひろほど沈むと、次第に速度が緩んで、まるで思案でもするように拍子ひょうしを取って揺れる。そしてもう潮に押されて、下よりは横の方へぐんぐん流される。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二十ひろ三十尋の鯨をたばにして呑み込んで、その有様は、鯨がいわしを呑むみたいだってんだからすごいじゃねえか。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一八〇六年のパリーの下水道は、一六六三年五月に調べられたのとほとんど同じで、五千三百二十八ひろだった。
スコットランドのファイン湖——それを彼は「深さ六、七十ひろ〔一尋は六フィート〕、幅四マイルの塩水の湾」
「あそこはたしか三十三ひろはありましたね。今までなら、身寄りの者はなし、喜んで潜ったんですが、どうも女房を貰うと三十三尋ときくと、ちょっと……。」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
幅員数十海里か数百海里にわたり、深さ地軸に達せんばかり、数千ひろに及ぶ世界最大最深の大渦巻が!
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その日も、薄暗いボックスのクッションに、京子と向い合っては見たが、あいだの小さい卓子テーブル一つが百ひろもある溝のように思われ、京子は冷たい機械としか感じなかった。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
さて『古事記』にこれより先かの尊豊玉姫の父海神わたつみのもとより帰国の時一ひろの和邇に乗りて安著し
其処の岩鼻は直下数百ひろの渓谷を瞰下する断崖の頂きで岩は一面に微細な青苔に蔽われている。彼は青苔に草鞋をしっかと着け、軽々しく小便を洩らすことなどがある。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
高さは僅か三十三ひろとちっとばかり、下はたんとも深くねえが、やっぱり三十と三尋、甲州名代なだいの猿橋の真中にブラ下って桂川かつらがわ見物をさせてもらうなんぞは野郎も冥利みょうりだ。
ことにハナウマイのはてしない白砂のなだらかさ、緑葉び張ったパルムのこずえあざやかさ、赤や青の海草が繚乱りょうらんと潮にれてみえる岩礁がんしょうの、幾十ひろいてみえる海のあおさは
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
日本の多毛蟲のキイトプテラスは干潮線に近い、或は海水七八ひろの砂泥の中に、U字形の管を作つて入つてゐる。この動物は頗る軟體だから、その管の外には决して出ない。
光る生物 (旧字旧仮名) / 神田左京(著)
二子ふたこの柄もしまもわからぬ腰卷の上に、ヨレヨレの印半纒しるしばんてんを引つかけて、猫の百ひろのやうな三尺帶、髮はほこりだらけで、蒼黒く痩せた顏は、この世の者とも思へぬ凄まじさです。
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ひろくらいで足りたものが、今では六尋も要るので、千幾百年も経ってこんな大きさになっていながら、まだ成長をやめないのかと、唯もう驚かれるばかりだということだ。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
ひろばかり隔たれるうしろの方に給ひし安達夫人の何事かと歩み寄り給ひしこそ恥しくさふらひしか。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ひろもあるかと思われる黒い壌土じょうどの層が、水気をふくんだうるみ顔をこちらに向けている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ロフォーデンとモスケーとのあいだにおいては、水深三十五ひろないし四十尋なり。
一寸いっすんのびればひろッてえこともあるんだ、左様そうくよ/\心配しんぺえして身体でも悪くしちゃア詰らねえからなア、まさか間違ったら其の時にまたなんとでも仕ようがあらアな、え、何うするって
われ怒りて、五百ひろのところより矢を射らば、五百人の人を倒し、九百尋のところより矢を射らば、九百人の人をたおすべし——。(ふと気づいて、苦笑する)と、まあ、世間では噂しているよ。
「十五ひろ——三十米ぐらいはあるね。渦の巻工合で深さがわかるよ。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
勿論もちろん、かのふねわたくし想像さうざうするがごと海賊船かいぞくせんであつたにしろ、左樣さう無謀むぼうには本船ほんせん撃沈げきちんするやうなことはあるまい、印度洋インドやう平均水深へいきんすいしんは一せんひやく三十ひろ其樣そんふかところ輕々かろ/″\しく本船ほんせん撃沈げきちんしたところ
彼是二十ひろばかり引き去りて、止まりたれば、即ち又手繰れるに、ごつごつと、綸に従きて近づく様明に知れ、近づきては又急に延し、其の勢いのあらき、綸はびんびん鳴りて、切るるか切るるかと
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
土に曳きひろする藤を挿してゆけ、かぐろの髪と紫と大路に浪をなさむ時、みやこをとめはさうぐるひ、千人ちたりにわけて与へよと、おん跡おはむそのなかに、われもまじりて西鶴の経師きやうじが妻のふりに似る
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
わたくしに命じた。わたくしは毎日一ひろに余る容態書を作つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
春の夜はものぞうつくしゑんずるとひろのあなたにまろ寝の人も
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
催馬楽歌さいばらうたの「ひろばかり隔てて寝たれどかよりあひにけり」
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
*かなた地上に一ひろの乾ける樹幹立つを見よ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
鯛釣り漁師は、丹精して繋いだ百ひろもの本天狗素の釣り糸を、時々河豚にやられるので、河豚にかかっちゃ泣いても泣ききれないとこぼす。
海豚と河豚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今でもこの海峡には海の底に狭い敷居のような浅いところが連なってその両側はそれより百ひろ以上も深く掘れ窪んでいます。
瀬戸内海の潮と潮流 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
井戸ゐどくるまにてつなながさ十二ひろ勝手かつて北向きたむきにて師走しはすそらのからかぜひゆう/\とふきぬきのさむさ、おゝえがたとかまどまへなぶりの一ぷんは一にのびて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
木曜島では二十ひろから三十尋の海底だったが、あそこの海では十尋から十五尋の浅海に差しわたし一尺の余もあろうという老貝がギッシリしきつらねてあるのだ。