づつ)” の例文
古い小袖を元のやうに古い葛籠つづらにしまひ終つた家人は片隅から一冊づつ古い書物を倉のなかへと運んでゐる。自分は又来年の虫干を待たう。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「この鐘楼しゆろうの石段は屹度きつと一つだけ土にでも埋もれてゐるんぢや無からうか。今一つづつ踏んで居るのに、うしても段拍子だんびやうしに合はない。」
なさばつひには首をも失はんされば汝等に此金を三百兩づつつかはし殘り五百兩は我が物となし此盜賊を止め此金子をもつて各々おの/\金堅氣かねかたぎたつき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
股引と上着とに各二種づつの別有るは地方のふうことなるを示すものが階級かいきうの上下を示すものか是亦うたがひ無き能はざれど、其二種に限られしが如きと
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
私より年上の権八は毎朝造船部へかん/\たゝき(鉄のさびを叩き落す少年労働者)に出て二十銭づつまうけて帰つた。次の弟はまだ小学校に通つてゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
それに受持以外に課外二時間づつと来ては、他目よそめには労力に伴はない報酬、いや、報酬に伴はない労力とも見えやうが、自分は露いささかこれに不平は抱いて居ない。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と言ひながら、白い半身をのぞかせると、腕を伸してひとつづつ、鈴のついた履物から先に投げ棄てた。
繰舟で往く家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
何故なぜだらうと思つて聞いて見ると、この奥さんの良人をつと逗子づしの別荘にやまいを養つてゐた時分、奥さんは千枝ちえちやんをつれて、一週間に二三度づつ東京逗子間を往復したが
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一町余下手しもてに同じ網があつてそこにも見張して居た。そのまた下手にも斜にだん/\岸に近づいて幾艘かの舟が並んで居た。どの舟にも一二人づつ立つて見張つて居た。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
みんなが十二銭づつだとさ、税金を安くして高低たかひくなしにして下すつた。本当に公平な賢い殿様だ。」
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
わざは、其古い形は、壬生念仏の様にもの言はぬ物ではあるが、狂言を興がる様になつてからは、わざをも籠めて狂言と言ふ様になり、能とは段々少しづつ隔つて行つた。
妻 人さへ見れば、五万円づつやるつていふらしいわね。なるほど、それぢや病気だわ。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
五六日ふりしのち此ごろまでふらず、此比三度少しづつふりたれども、地泥ちでいをなすにいたらず。然れども此上ふりてはまたあしし。これにてよき程也。これは蒓郷によろし。土地によるべし。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
之れ予等一行にしたがふて利根水源すゐげんたる世人未知の文珠もんじゆ菩薩をはいせんとする為めなり、各蕎麦粉三升をふ、之をへば曰く即ち食糧しよくれうにして、毎日三合づつ之をに入れてみ以てうへしのぐを得
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
「ぢや、お母さんはお前に月々十円づつ、お母さんの金を上げます。」
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
だが幾度いくたび考へてみても自分の女房かないは乳房と良心とを二つづつ持つてゐる代りに、生命いのちはたつた一つしか持つてないらしかつた。
さても吉兵衞はもとよりとめる身ならねば乳母うばかゝゆべき金力ちからなく情け有家へ便たよこしかゞめて晝夜をわかたず少しづつもらなし又はちゝの粉や甘酒あまざけと一日々々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さてこれから怎したもんだらう? と考へたが、二三軒向うに煙草屋があるのに目を付けて、不取敢とりあへず行つて、「敷島」と「朝日」を一つづつ買つて、一本けて出た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
或はだいの上に石を横たへて左手の指にてこれおさへ右手には、前述の骨角こつかくの如き堅き物にて作れる棒を持ち、此棒このばうの尖端を石片の周縁いんえんに當て少しづつし缺きしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
七条新地はししたに女郎屋を、三条の方に鳥屋を、西石垣さいせきに会席料理屋を、先斗町ぽんとちやうに芸者屋をといふ風に、次から次へと新しい妾を蓄へては、その度毎に新しい店を一つづつもたせた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
彼等は丸太をぶつ切りにした木枕を並べて一つの蒲団ふとんえりと襟とに二人づつ枕違ひに寝た。障子越しの三畳には一組の夫婦が寝てゐた。私も誰れかの蒲団に入れてもらはねばならなかつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
暫く遠ざかつてゐた洋酒に私は再び慣れて、一回りしては一杯づつ傾けた。壜を片手にして私は回り灯籠の影絵のやうにグル/\と堂々回りをした。床に打ち倒れて、ボーフラのやうに身を悶えた。
鱗雲 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
武士さむらひや職人や商人あきんどは何程づつよろしうございますか。」
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
姉さんとお前とあつしに、五万円づつつていふんだらう。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「廿九日。晴。朝四時頃品川著船。鮫津川崎屋へ上陸。夫々分散。病院は脇本陣広島屋太兵衛へ落著。御上おんかみ当時御在府に而、一統へ御意有之並に為陣服料ぢんふくれうとして金三両づつ被成下なしくださる。尤典式伊木市十郎御使者也。」席順には「典式伊木市左衛門、三十八」と云つてある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
氏はよく理髪床かみゆひどこへ出掛けるが(成金にしても、人並みに頭は一つづつ持つてゐる)、そんな折にも鞄だけは店に持込んで、じつと跨倉またぐらはさんでゐる。
くばまづ品川新宿板橋千住の大出口おほでぐち四ヶ所へは人數千人づつかためさせ其外九ヶ所の出口でぐちへは人數五百人づつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二度目の二年生の授業が始まると、私は何といふ事もなく学校に行くのがたのしくなつて、今迄は飽きて/\仕方のなかつた五十分づつの授業が、他愛もなく過ぎて了ふ様になつた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
膿はまだ少しづつ出て居たが痛みはもうすつかり無くなつて了つて、歩くのに少しも困難を感じなかつたが、病後の衰弱の身体とて、重い水桶をにたつて坂を上るには最初の中かなり苦痛であつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
そこで英軍の塹壕から、剽軽へうきんな男が一人のこ/\這ひ出して、やつとこさで牝牛を連れ帰つたのち、そこらに散らばつた銀貨を一つづつ克明に拾ひ上げた。
やがて、下腹部したはらの底が少しづつ痺れる様に痛み出した。それが段々烈しくなつて来る。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
勘定高い聴衆ききての誰彼は、きゆうのさきから、金貨が一つづつこぼれおちるやうに思つて、腹の底から揺り動かされた。
茶は一斤半として九十銭、新聞は郵税を入れて五十銭、それを差引いた残余の一円と外に炭、石油も学校のを勝手につかひ、家賃は出さぬと来てるから、校長はどうしても月に五円づつ得をしてゐる。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
玉泉はこんなに言つてその緑青と群青とを使つた生徒からは、その場で五銭づつ受取つてたもとに投げ込んでゐた。
その男はそれからといふもの女房かないと寝るたんびに、以前の放蕩を思ひ出して、一両づつ貯金筒に投げ込んで置いた。
日本画家番附ばんづけといふものを発行してゐる男が、東京と京都とに二三人づつと名古屋に一人居る。
大分以前京都のある呉服屋が栖鳳、香嶠かうけう芳文はうぶん華香くわかうの四人に半截はんせつを一枚づつ頼んだ事があつた。出来上つてから店の番頭が金子きんす一封を持つて華香氏のとこへお礼に往つたものだ。
新しい近江八景を選ぶのもいゝが、何処かに一つづつがんや雨やをあしらつて欲しいものだ。
内証ないしようで大観氏と里栄とに教へる。こゝにお座敷のお客達に黙つて上方舞を見惚みとれさせる一つの秘方がある。それは山村に感心したお客には一ぷくづつ大観氏のを褒美として取らせるといふ事だ。
「うむ、よし/\。」としよつた化学者は娘の言ひなり通り、さくらんぼを一つづつ鄭寧ていねいに丼の水で洗つて食べてゐたが、暫くすると籠のなかは空つぽになつた。すると化学者は手を伸ばして丼を取上げた。