女子おなご)” の例文
およし (口惜しがっし)女子おなごのくせに、よう無慈悲なことがいえるな。ええわ、ええわ。今に思い知らせてやるけに。(退場する)
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
男も勿論そうですが、女子おなごというものは、心中の一つもしてみようという女子は、その何をさし置いても帯を大切にすることですね。
「来てはいけないのか。あっ待った。そこの女子おなご。いずれおまえは、里からさらわれてきた人妻か娘だろう。あぶないよ、退いていな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その高と申す女子おなごじゃ。高は一度死んだものである。よって僧侶の一空にかばねを引き取らせるが、一空は高を惣七に預けるがよかろう。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その證拠には、この間都から参詣に来た商人あきうどが、うっとりと麿の顔を眺めて、女子おなごのように愛らしい稚児だと独り語を云うたぞや。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
不義を犯した大奥の女子おなごを、餓え死にさせる土蔵であった。幾十人幾百人、美しい局や侍女達が、そこで非業に死んだかしれない。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
公子 面倒です、あとはどうでもい。ただ女子おなごを馬に乗せ、槍を立てて引廻したという、そんな事があったかという、それだけです。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なにから何まで、よく気がつくな、いやそれが女子おなご——女子のいない家は、荒れ野のようなものと、昔からいうが、もっともだ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
女子おなごに文字を教えると艶文いろぶみばかり書くと、文字を教えたがらなかったという土地がら、文盲をつくるのに骨を折ったのであろう。
エ、焼餅、焼餅といふものではないえ、女子おなごの子はお焼きといふものどすへ。けどそれは今内にないさかい、また今度買うて上げますわ。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
そして僕は程なくこの男のために Aphrodite たり、また Persephone たる女子おなごどもを見ることを得たのである。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
惡業わるさまらぬ女子おなごがあらば、繁昌はんじようどころかひともあるまじ、貴君あなた別物べつものわたしところひととても大底たいていはそれとおぼしめせ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お前は女子おなごを不憫がって暮しな。心から可愛がっておやり。なぐさみにするでなしに。こりゃ、お前に好いことを云ってやっているんだよ。
それに何処のなんという女子おなごやら、誰も知った人もない名もない頃の私なのですから「アッ又来やはった」などと小僧さんや丁稚でっちさん達が
座右第一品 (新字新仮名) / 上村松園(著)
雨月 さらでも女子おなごは罪ふかいと聞いたるに、源氏を呪詛のろい調伏ちょうぶくのと、執念しゅうねく思いつめられたは、あまりと云えばおそろしい。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
曲輪育ちの女子おなごはな、千石万石がほしゅうはない。気ッ腑がほしゅうござるとよ。わはは。——誰袖源七! 六兵衛のところへ早う行けい。
こんな心懸こころがけくない女子おなご臨終りんじゅう通報しらせが、どうしてひいさまのおもとにとどくはずがございましょう。なにみなわたくしわるかっためでございます。
早「他のことでもねえが、此間こねえだわれがに話をしたが、おらうちの客人が病気になって、娘子あまっこが一人附いているだ、女子おなごよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女子おなごの世に生れし甲斐かい今日知りてこの嬉しさ果敢はかなや終り初物はつもの、あなたは旅の御客、あうも別れも旭日あさひがあの木梢こずえ離れぬ内
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
伝三郎の言を借りると、千恵造は、「後々あとへ別嬪な女子おなごをもらって、勝負した(うまくやったという意)」のだ。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それほど喜んでいながら、上京しない、それほど可愛がって、夫婦とまで約束した女子おなごの所へ、一辺に寄りつかなくなる。之は何かあるぞと思いました。
いんや、マンは、わかった女子おなごじゃけ、きっと、許してくれる。女同士、あんただちの気持がわかるにちがわん。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「ええ、未だ隠すか。これ、この懐中ふところのふくらみ、よもやその方女子おなごにして、乳房の高まりでも有るまいが」
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
(ほんとに人魚を見やしないの、人魚を見ると世の中の女子おなごが厭になって、どこかへ往ってしまうと云うよ)
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
不遠慮に何にでも手を触れるのが君の流儀で、口から出かかった詞をも遠慮勝えんりょがち半途はんとめるのが僕の生付うまれつきであった。この二人の目の前にある時一人の女子おなごが現れた。
彼はついぞ一度も、自分が女子おなご女子おなごでないかなどという疑問を起こしたことがなかったのである。
「それでも女子おなごが傀儡では、嫌じゃと申しは致しませぬか。」と、小さな御声で仰有いました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わしの息子は、そんなこと位でへなへなと参ってしまうような奴ではない。女子おなごひとり位のために世の中から落伍らくごしてしまうような意気地無しを儂は生んだ覚えはないのだ!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
しかし、そうなると年をとって——きたならしくなるから、女子おなごどもが好きこのんでわしのそばへ寄りついてはくれなくなる。さあ、ここで必要になってくるのは金じゃがな。
「しかし今時の女子おなごは、むかしちごうて油断が出来んけれ、お気をお付けたがええぞなもし」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さわと申される女子おなごも、その母親も、十数年前に死去致し、郡奉行、村役人とも、当時在勤の者がおりませず、ただ、近所の百姓共の申し分には、確かに、御落胤らしき小児しょうに
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
大人おとなもあればうつくしい瓔珞ようらくをかけた女子おなごもございました。その女子はまっかなほのおに燃えながら、手をあのおしまいの子にのばし、子供はいてそのまわりをはせめぐったともうしまする。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あんたはんはそりゃ、御自分の好きな女子おなごのために勝手に自分の身を苦しめておいでやすのやろさかい、ちっとも私、構いまへんで。そやけど親御の身になったら、どないに思うか。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
家内がいつか手紙で知らせてくれたが、あんたは出会う女子おなごの顔をまともには見んで、美しい想像を捕まえるために、事実がこわいというて、ただ横目でちらっと眺めるきりだそうだな。
トリスタン (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
またかく真直な上に多くの節がかさなっていますのでこれを婦人の貴い貞節に喩られています。松は豪壮勇偉な男子おとこ、竹は貞節ある淑徳な女子おなご、これは誠に相応ふさわしい双璧ではありますまいか。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「それがな、美しか女子おなごの前に行くと、だしぬけに居ずまいを正すげな」
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「おう、そうか、」と私は苦笑して、「さっきの咳ばらいは、おれの空耳であったべな。こうなると、どうも、男よりも女子おなごのほうが、しっかりしている。それでは、どうか、よろしくたのむよ。」
(新字新仮名) / 太宰治(著)
いねのそうした子供の扱い方や、やりくりの上手さは、おいねさんのような女子おなごになるようにと、できた子供に小いね、いね代などと名をつける人さえあった。そうしていね自身も七人目を生んだ。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
「それにしても満月は美しい女子おなごで御座ったのう」
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女子おなごは足元軽く退いて、男は目を醒ましますね。
「お前にも分るけえ。……おらが髪は誰でもほめるだ。髪は女子おなごの宝だって、平吉が講釈で聞いたちゅうから、おらいつでもよく洗ってるだよ。平吉が椿の実いどっさり取ってきてくれるだから、それで洗うと艶が出るだよ。」
特殊部落の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「彼も女子おなごながら、相当、やります」
投手殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
火に行く先をふさがれて、ぜひなくかごを休めていると、そこへそちと、もう一人、よしありげな女子おなごとが、気を失って引きずられてきた
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おおおお、誰や知らぬ、その二度添というのはの、……お稲がのぞみが遂げなんだ、縁の切れた男に、後で枕添まくらぞえとなった女子おなごの事いの。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「戸部氏のご立腹、ごもっともでござる。下世話げせわにも、とかく女子おなごにもてる男には嫌なやつが多いと申す、ぷッ! 高慢面こうまんづら鼻持はなもちならぬわ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
察するに、妖狐が種々に形を変じて、容貌きりょうのいい女子おなごを犯していたもので、朱の鈎を引いてあるのは、すでにその目的を達したものであろう。
「許せ許せ。先程の約束を果せと言うのであろうが、わしは至って不粋ぶすい者でな。女子おなごをあやす道を知らぬのじゃ。もうあやまった。許せ許せ」
女子おなごに喜ばれる商売だな」「その代り殿方にはいけません」「そう両方いい事はない。江戸はどこだ? 日本橋辺かな?」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
九郎右衛門や宇平からは便たより絶々たえだえになるのに、江戸でも何一つしでかした事がない。女子おなご達の心細さは言おう様がなかった。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
仏壇の前に端坐して、祈念をこらしている妻の姿などを、まじまじと眺めながら、彼は「女子おなごは楽なものじゃ」と思った。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)