吝嗇けち)” の例文
買いたいものがあっても金に不自由していた自分は妙に吝嗇けちになっていて買い切れなかった。「これを買うくらいなら先刻さっきのを買う」
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
婆あさんは腹の中で、相変らず吝嗇けちな人だと思った。この婆あさんの観察した処では、石田に二つの性質がある。一つは吝嗇である。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
万年寺の伯父は有福であるに拘はらず、吝嗇けちで薄情だといふので兄弟中で最も評判が悪く、伯父などは殆ど往来しなかつた位だつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
五厘切手使うのにも、まるで官庁のように、いろいろな帳簿に記入するので、社長の吝嗇けちな性格がひとごとならず、情けなく思われた。
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
あるいは介山居士という人は吝嗇けちなのであるまいかとひそかに心配したりしたが、やがて鳴尾君が帰ってきて、さて食べはじめてみて驚いた。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
私は卑屈で、しかも吝嗇けちであるから、こちらから名乗ってお礼を言う勇気もなく、お酒を一本呑んで、さっさと引き上げた。
俗天使 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「なんとかしようと思っても、こう人間が吝嗇けちになっては全く仕事がやりにくい、この頃の手合は容易のことでは百文の賽銭さいせんも投げんからの」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
即ち慳貪けんどんそばから来たものであって、慳貪とは、吝嗇けちの事、引いては安直という意味になり、つまり御手軽に安直に食べられるそばの事である。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
決して世間で云ふ吝嗇けちではないといふこと、兄貴の嫁がこの母親の性質を理解しないために双方で不満をもち、たうとう別居することになつたが
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
つまり日本風の料理屋へ行くと外見みえのために贅沢ぜいたくをしなければならず、西洋料理屋へ往くとなるたけ吝嗇けちにしなければならんものと心得ています。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
同じ金儲かねもうけの話にしても、弥勒あたりでは田舎者の吝嗇けちくさいことを言っている。小学校の校長さんといえば、よほど立身したように思っている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
こちらの住持が困りはせぬかと言へば、少しは困るだらうが致し方が無い、大體こちらのお住持が餘りに吝嗇けちだから斯ういふ事にもなるのだといふ。
山寺 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
その上スコットランド人は吝嗇けちなんですが、この下宿の夫婦はスコットランド人中でも特別にしわん坊で困りました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
シャクは、美しく若い男女の物語や、吝嗇けち嫉妬しっと深い老婆ろうばの話や、他人には威張いばっていても老妻にだけは頭の上がらぬ酋長しゅうちょうの話をするようになった。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
最早親元身請などの吝嗇けちくさいことは云わぬと、妙なところに意気味いきみを出されたもので、海上さんは直接に花里身請のことをお部屋へ懸合われました。
彼は妙に落着きがなくなり、大抵の男鰥おとこやもめがそうであるように、だんだん疑い深くなり、吝嗇けちくさくなって行った。
もう一度挨拶金を追加させ、特に目立って、吝嗇けちな大名は、その行列が通行する頃を見計らって、松平の御前みずから何ということなく門前のあたりを徘徊はいかいしながら
いまだからそんなくちもきけるんだ。あまつちよめ!……貴樣きさまはなだつた時分じぶんときたらな……どうだい、あの吝嗇けちくせえちつぽけな、えてなくなりさうなはながさ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
吝嗇けちで、傲慢ごうまんで、キザで、馬鹿で、阿呆で、小汚なくて、ああ、思い出しても胸が悪くなる、ベッ、ベッ
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さて竜に生まるるは、必ずしも瞋痴ばかにおこった者に限らず、吝嗇けちな奴も婬乱な人も生まれるので、けちな奴が転生した竜は相変らずしわく、みだらなものがなった竜は、依然多淫だ。
金を遺すものをいやしめるような人はやはり金のことに賤しい人であります、吝嗇けちな人であります。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
喧嘩安は喜恵子が吝嗇けちだと云つて、ぐづまいて来た。然し家のものはみな喜恵子の注意深い取扱に喜んで居た。その中でも、おみつと岸本の老夫婦は涙を流して喜んだ。
彼はそのくらい吝嗇けちな家主が、屋根がると云えば、すぐ瓦師かわらしを寄こしてくれる、垣が腐ったと訴えればすぐ植木屋に手を入れさしてくれるのは矛盾だと思ったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下女下男よりは吝嗇けちと譏らるる身が、お吉よりは天晴れ切れ離れよきお妾さまと誉められぬ。
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
れならばれがんでる、萬燈まんどう此處こゝへあづけてけばれも蝋燭ろうそくぬすむまい、正太しようたさんばんをたのむとあるに、吝嗇けちやつめ、其手間そのてまはやけととししたにかられて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「嘘ばっかり」と佳奈が云った、「噂では吝嗇けちなことで有名だというじゃございませんの」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
吝嗇けちな内儀の間に挟まって、朝から晩まで、さいなみ続けられながら、三度の食事もおちおちとる暇もない程、——どうしてこんなにも身体からだが続くかと、自分で自分が疑われるほど
夏中雨ばかりだし、いやあな風が吹くし、風は何のしにもなりはしないし、ブラシュヴェルは大変吝嗇けちだしさ。市場には豌豆えんどうもあまりないので、何を食べていいかわかりゃしない。
「伯父さんは吝嗇けちですか」乃公の声が余り大きかったので、伯父さんは喫驚した。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うち吝嗇けちぢやから見附みつかるとしかられる、これ股引もゝひきはかまと一しよ戸棚とだなうへせていて、ひまさへあればちびり/\とんでたをとこが、庭掃除にはさうじをするといつて、くだんはちつけたつけ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
世間体をごまかす為ばかりでなく、まったく服装なりにも振りにも構わずに働いて、一生懸命に金をためる。色男の伝介には何一つみついでやったことは無かったそうです。つまり吝嗇けちなんでしょうね
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近所の人の話ではその荒物屋の親爺さんというのが非常に吝嗇けちで、その娘を医者にもかけてやらなければ薬も買ってやらないということであった。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
着る物も着せねえで人を困らせても構わず無闇に金をためるのを吝嗇けちと云ってごくいけねえのだ、それから自分が一ぺい食う物を半分食って、れは欲しい
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一人は気のおけないなかまの者で、「どこへ行くけえ? そうけえ、新郷へ行くけえ、あそこはどうもな、吝嗇けちな人間ばかりで、ねっかららちがあかんな」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
吝嗇けちな奴がなけなしの財布の底をはたく時にはこんな顔をするものである。その時である。玄関の戸が開く音がして、「ごめん下さい。」という爽やかな声が聞えた。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
それならばれが呼んで来る、万燈は此処ここへあづけて行けば誰れも蝋燭ろうそくぬすむまい、正太さん番をたのむとあるに、吝嗇けちな奴め、その手間で早く行けと我が年したにかられて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ごくごく吝嗇けちに行った処で、うなぎか鳥ね、中な処が岡政で小ざっぱり、但しぐっと発奮はずんで伊予紋となろうも知れず、わっしゃ鮨屋だ! 甘いものは本人が行けず、いずれそこいらだ、まあ
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宗助そうすけわらした。かれ其位そのくらゐ吝嗇けち家主やぬしが、屋根やねるとへば、すぐ瓦師かはらしこしてれる、かきくさつたとうつたへればすぐ植木屋うゑきやれさしてれるのは矛盾むじゆんだとおもつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それは吝嗇けちでね。それよりかあたし、うちの向こうにいるかわいい男が好きなのよ。若い男だが、それはりっぱよ。あんた知ってて? 見たところ何だか役者のようだわ。あたし役者が大好き。
「これは吝嗇けちでナカ/\払わないことさ。愛蘭アイルランド人払いってのは……」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうかと言って、この老人は吝嗇けちののしられるほどに汚い貯め方をするのでもありません。相当のことだけはして、誰にもそんなに見縊みくびられもせずに伸ばして行くところは、なかなか上手なものです。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吝嗇けちを生命の京わらんべも、これには皆々舌を巻きて、近処の噂さかしまし。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
と、吝嗇けちな人で女の事でなければ銭を使わん人でありますが、其の時は余程嬉しかったと見え、二百円出して
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
翌月廻し、ひどいのになると翌々月廻しというのがある。集金やのおばさんに云わせると、「吝嗇けちで図々しいんだから。」というわけだが、結局は困っているからである。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
うち吝嗇けちじゃから見附かるとしかられる、これを股引ももひきはかま一所いっしょに戸棚の上にせておいて、ひまさえあればちびりちびり飲んでた男が、庭掃除そうじをするといって、くだんの蜂の巣を見つけたっけ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早くと言ふに、夫れならば己れが呼んで來る、萬燈は此處へあづけて行けば誰れも蝋燭ぬすむまい、正太さん番をたのむとあるに、吝嗇けちな奴め、其手間で早く行けと我が年したに叱かられて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小野さんは吝嗇けちな事を云うと思った。小夜子は知らぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吝嗇けちにするのじゃアねえ倹約をするだよ、吝嗇けちとは義理もなさけも知らねえで、奉公人などに食う物も喰わせず
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
玄「それは万々承知さ、此様なことは云いたくは無いが、あんまり貴公達が因業で吝嗇けちだからさ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ムーン吝嗇けちやつだ……ぢやアうちのを出して使へ。
吝嗇家 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)