只今ただいま)” の例文
『ええ只今ただいま足下そっか御関係ごかんけいのある事柄ことがらで、申上もうしあげたいとおもうのですが。』と、市役所員しやくしょいん居並いなら人々ひとびと挨拶あいさつむとこうした。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
前便に申上候井上の嬢さんに引き合せくれんと、谷田の奥さんが申され候ゆゑ、今日上野へまゐり、只今ただいま帰りてこの手紙をしたため候。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
只今ただいまのご質問はいかにもごもっともであります。多少御実験などもお話になりましたが実は遺憾いかんながらそれはみな実験になって居りません。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「岸本様——只今ただいまここに参り居り候。久しぶりにて御話承りたく候。御都合よろしく候わば、このくるまにて御出おいでを御待ち申上げ候」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
只今ただいまの文子さんの意見は、満場一致で、賛成されたやうに思ひます。では、どういふ方法でタマをこらし、しつけをしますか?」
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
物見遊山ものみゆさんもうしてもそれはいたって単純たんじゅんなもので、普通ふつうはお花見はなみ汐干狩しおひがり神社仏閣詣じんじゃぶっかくもうで……そんなこと只今ただいまたいした相違そういもないでしょうが
坂の下へいったり、邸の裏へ廻ったり、ずっとさきのかどまで行ったりして、只今ただいまは低く、只今のはハッキリと聴えたと、幾返りか報告した。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
常に師に従ひて往ける老僕あへぎ/\立帰り只今ただいま何者とも知らず凌雲院に来り先生の御宅に俄に対面を請ふものあり急ぎ帰らせ給へと申す。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貴君が今まで召上った事のないという御馳走です、好い匂いでしょう、あれは南京豆です、只今ただいま南京豆のお汁粉というものを
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
お疲れでございましょうけれども、只今ただいまお見えになっていらっしゃいますから、是非お三人お揃いで、………と云って来た。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そんなに、面倒臭い時計なのですか、それじゃ、お預りするのではなかったわ。それじゃ只今ただいま直ぐお返しいたしますわ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
貝原益軒かいばらえきけん先生は只今ただいま房事中と来客を断られた由であるが、私はこういう聖人賢者は好きではない。こんなところは何も正直に言うことはないさ。
余はベンメイす (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
が、只今ただいま、お話を承ってく了解しました。では、象牙のことは今日限り打ち切りまして、やっぱり従前通り、木彫りの方をお願い致しましょう
「お話中でございますが、司令官閣下、只今ただいま、T三号の受信機に至急呼出信号を感じました。秘密第十区からの司令官あての秘密電話であります」
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昨夜は杉原警察署の留置室で一方ひとかたならぬ歓待を受け候上、結構なる自動車にて送られ只今ただいま自動車は四条通を疾走中に候。
祭の夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「よく運転手にそう云ってTホテルへお送りさしときました。只今ただいま、ご主人も奥さまもお留守のことをよく申し上げて」
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
奥さんが催促すると、次の室で只今ただいまと答えるだけでした。それをKは不思議そうに聞いていました。しまいにどうしたのかと奥さんに尋ねました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで私は只今ただいままで言わずに居ったチー・リンボチェに尋ねた事をば、とうとう話さねばならぬ事になってしまった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
『どこのお姫さまか存じませんが、それはそれは美しいお姫さまが、只今ただいま、六頭立の馬車でお越しになりました。』
シンデレラ (新字新仮名) / 水谷まさる(著)
貞吉ていきちという小僧が、こくりこくりと居寐いねむりをしていたので、急いで内へ飛込とびこんで、只今ただいまと奥へ挨拶をすると主人は「大分だいぶ今夜は遅かったね」と云うから
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
「あの岩は、民部大輔が、あとから、持つてまゐつた筈でございます。只今ただいま大輔を、これへ呼び出しませう。」
岩を小くする (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
只今ただいまではこの事ようやく公けに聞え、上ではよりより詮議の最中——此の事を聞いた時拙者は其方そなたを思い出した。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
貞時はきこんでこの家の主人によく事情を話して、すぐに只今ただいまから同伴するようにいった。然らずばなかなかこの家にもそなたを調宝ちょうほうがって離すまいといった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
大阪書生の特色只今ただいま申したような次第で、緒方の書生は学問上の事については一寸ちょいともおこたったことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「お母さん、只今ただいま」と、呼んでも、お母さんの返事がなかったら、その時は、どんなであろうか。二たび呼んで見る、三たび呼んで見る、その時の失望が思いやられる。
お母さんは僕達の太陽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
氏はドイツ語をも解し、『只今ただいま流行してゐますのはドリユゼンペストです』などと話して呉れた。
雷談義 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ヤッサモッサ捏返こねかえしている所へ生憎あやにくな来客、しかも名打なうて長尻ながっちりで、アノ只今ただいまから団子坂へ参ろうと存じて、という言葉にまで力瘤ちからこぶを入れて見ても、まや薬ほどもかず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
只今ただいまの我国の有様ではとても筆や楽器は鉄砲にかないませんから、素直に鉄砲に屈従して離婚沙汰ざたなどには立至らずに納まりそうなものでしたが、どういうものでしょうか。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
実は御願おんねがい只今ただいま上りましたので御座ございますと、涙片手の哀訴に、私はただちにって、剃刀かみそり持来もちきたって、立処たちどころに、その娘の水のるような緑の黒髪を、根元から、ブツリ切ると
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
そうだ、只今ただいまの限りでは、彼らの力の最善をささげたのである。自分のことは文句なしに差しいて、こうした板囲いの家を邦夷のために建てねばならぬとし、建ててしまった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
只今ただいまのあなたの恐しくお思いあそばす、そのお心持こころもちが、丁度昨晩のわたくしの心持と同じなのでございますよ。丁度只今のあなたのように、昨晩はわたくしが恐しく存じましたの。
只今ただいまより淋しくて悲しくて心細さのなきむねを答え、何故なればかく無情の処置をなし改化遷善せんぜんの道をさえぎり給うぞ、監獄署の処置余りといえば奇怪なるに、署長の巡回あらん時
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
川村の事は只今ただいまグラスゴウ市の版元から頼まれて編み居るロンドン大学前総長フレデリク・ヴィクトル・ジキンス推奨の『南方熊楠自伝』にも書き入れ居るから外国までの恥さらしじゃ。
本当に、王さまの只今ただいまの御心情こそ、嫉妬とお呼びしてしかるべきものと存じます。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
とにかく、本日只今ただいまから、男子と女子の交際は、絶対にこれを禁止する。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
是はまあどうした訳と二三日は気抜きぬけする程恨めしくは存じたれど、只今ただいま承れば御親子ごしんしの間柄、大切の娘御を私風情のいやしき者に嫁入よめいらしてはと御家従ごけらいのあなたが御心配なすッてつれゆかれたも御道理
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
只今ただいま兄がお礼に参りましたの。先生がお好きって妾が申しましたからってね、倉屋の羊羹を持って参りましたの……イイエ。もう帰りましたの。折角お休息やすみのところをお妨げしてはいけないってね。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お疲れでございましたろ。只今ただいま主人も参じます」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それは只今ただいま当地の大乗院にお移ししてございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「このチャンスを逃さず本日只今ただいま申込まれよ」
外来語所感 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「それで、只今ただいまもおいでなさるので?」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
只今ただいま立処たちどころに自殺します。)
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美伃 只今ただいま
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
只今ただいま
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「左様。一昨年の調べでは、奇術を職業にしますものは、五十九人となってりますが、只今ただいまは大分減ったかと存ぜられます。」
現在げんざいわたくしとて、まだまだ一こう駄眼だめでございますが、帰幽当座きゆうとうざわたくしなどはまるでみにくい執着しゅうじゃく凝塊かたまり只今ただいまおもしてもかおあからんでしまいます……。
只今ただいまご門の前へ乞食坊主こじきぼうずがまいりまして、ご主人にお目にかかりたいと申しますがいかがいたしましょう」と言った。
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
貴客あなたこそ御退屈でしょう。失礼ですけども私が只今ただいま珈琲こーひーせんじて別に珈琲ケーキをこしらえますから少々お待ち下さいまし
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
自分もあなたの御意見によって番町の御友人とやらに御相談するよう姪の許へ只今ただいま別に書面を送るつもりである、しかしその御友人の反対を恐れたら
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いゝえ、直ぐお帰りになります。只今ただいま私の宅からお帰りになったのですから、よそへお廻りにならなければ三十分もしないうちに、お帰りになります。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)