反対あべこべ)” の例文
旧字:反對
そしてまた(結婚式は、安東村の、あの、乞食小屋見たような茅屋あばらやで挙げろ)でしょう。貴下はまるッきり私たちと考えが反対あべこべだわ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
反対あべこべに巡査さんの手を捉って向山の坂を下りましたが、世の中には理不尽な奴もあれば有るもので、是からお調べに相成ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こたうる者はなかったから予が答えたは、まず日月出でて爝火しゃっかまずと支那でいうのが西洋の「日は火を消す」とまる反対あべこべで面白い。
急いで別れて行く高柳を見送つて、反対あべこべな方角へ一町ばかりも歩いて行つた頃、噂好うはさずきな町会議員は一人の青年に遭遇であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ところが反対あべこべですよ。お蔭で屋上庭園に行く者は一人も居なくなった代りに、その声を聞きに行く者であのホテルは一パイなんだそうです。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
使いの途中、明神下できこし召したばかりに品物を反対あべこべに、鎧櫃を饗庭様へ、九谷の花瓶を向島関屋の里の主人の寮へ——。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それとは反対あべこべに幾ら腕が冴えてゐても、食後にきまつて規那鉄きなてつ葡萄酒をたつた一杯づつ飲むやうな美術家は余りぞつとしない。
「どう致しまして、反対あべこべだ、恐縮するのはわっちの方で。……さて、お訪ねのご用の筋は? とこう一つゆきやしょうかな」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
反対あべこべに世話をしてやらねばならなくなったことを思うと、父親の丹七は、短刀をもって胸をえぐられるほど辛かった。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「東京駅で人を見送ると何時も汽車が反対あべこべの方角へ出て行くような気がするが、矢っ張りこれでも宜いんだね。彼処あすこでは何うして那様ああなるんだろう?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
意外事とんだことを素破抜かれた芸妓が、対手が新聞記者だけに、弱つて了つて、援助すくひを朋輩に求めてるのもあれば、反対あべこべに芸妓から素破抜かれて頭を掻く人もある。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
母から反対あべこべに怒鳴つけられたら、どうしようなど思うと、母の剣幕が目先に浮んで来て、足はおのず立縮たちすくむ。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ああありがたい、茶袋だと此方こちで一本というところを反対あべこべにもうせと云いますわ、ああ好い心持になりました、歌いたくなりましたな、歌えるかとは情ない
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は、慄然ぞっとするような気がして、これはなるたけ障らぬようにして置くが好いと思って、後を黙っていると、先は、反対あべこべに、何処までも、それを追掛おっかけるように
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
趙季和しょうきわという男がそれを知って反対あべこべにその餅を老婆に啖わして老婆を驢にしたという話で、高野聖では幻術で旅人を馬にしたり猿にしたりする美しい女になっており
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ですけれど、此処ぢや反対あべこべに空が青く晴れてゐますよ。何処でも同じ時に雨が降るんぢやないんですね。ある国が雨が降つてゐても、他の国では晴れてゐるんですね。
これが一つ。その翌日には、それを反対あべこべに、境から二つの外港に寄港して矢張午後四時頃に西郷港に着き、今度は内港の二つに寄港して帰途につくやうになる。これが一つ。
隠岐がよひの船 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
反対あべこべに、出刃を振廻したとか、振廻さぬとかで、結局失業くびになって此方、ブラブラして居る。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
所が親爺おやぢの腹のなかでは、それが全く反対あべこべに解釈されて仕舞つた。なにをしやうと血肉けつにく親子おやこである。子がおやに対する天賦の情あひが、子を取扱ふ方法の如何に因つて変るはづがない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
スルト今度は美人から反対あべこべに「貴方は此の塔の中を色々検査成さるお積りでしょうね」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
きてときにはさんざん悪口わるぐちわれたものが、んでからくちきはめてめられたり、またその反対あべこべに、生前せいぜん栄華えいがゆめたものが、墓場はかばってからひどいはずかしめをけたりします。
あやうくお杉ばばあに殺される所を、若旦那が早く気がいたんで、お杉の方が反対あべこべに穴の底へ墜落おっこちて死んだんですとさ。何でも人の話で聞くと、お杉婆の身体は粉微塵こなみじんになって居ましたとさ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで今度は攻勢に出て、こッちから反対あべこべに前へ出てゆくと、向うも少し気味がわるくなったとみえ、ジリジリあとへもどりましたが、突然、ピカッとしたものを真ッ直に向けてきました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ以上に感動しろというのは無理なことで、もし感動しないのが悪いとおっしゃるなら、この光景を平気で見ておられる貴方を、反対あべこべに私が告発して差支ないという理窟になるではありませんか
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それが反対あべこべに西洋にはこういう例があるの日本の医者がこういうのと悪い言草いいぐさの種ばかり覚えて今更お代をイヤがるとはもってのほかだ。おれたちが相談ずくでめたのだ。イヤもオーもあるものか。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
聴けばある坂道で、剛力先生凹垂へこたれて容易に動かばこそ、仕方がないので、衣水子金剛力を出して、エイヤエイヤと剛力の尻を押上げたとの事。これではまるで反対あべこべだ。呆れ返った剛力どのかな。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
私が何とかいってくさすと、今までと打って変って反対あべこべに、「それは君、君は誤解している。紅葉はんな男じゃない。君、今度は十分肝胆を披瀝ひれきして話して見給え、」とにわかに紅葉の弁護を做初しだした。
西川一草亭氏はこれとは反対あべこべに、物を食べる時には、その値段から切り離して持前の味のみを味はひいと言つてゐる。
下手人がしらばくれて、(死)をたしかめに来たものらしい。わざと化されて、怪まぬように見せて反対あべこべに化かしてやった。油断をするに相違ちがい無い。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
斯うして会場の正面にゑられた敬之進を見ると、今度は反対あべこべに彼の古壁に倚凭つた娘のことを思出したのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「まるで反対あべこべね。私は夏中置いたらあの不良少女に誘惑されるだろうと思って心配しているんでございますよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小坊主の癖に生意気だから投げ飛ばしてやろうと思って、相撲をとってみると反対あべこべに投げ飛ばされるので、これはおかしいと思ってまたかかって往くとまた投げ飛ばされる。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
時々紋太郎がこんなことを云うと却って用人三右衛門の方が昔と反対あべこべに慰めるのであった。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ところが親爺の腹のなかでは、それが全く反対あべこべに解釈されてしまった。何をしようと血肉の親子である。子が親に対する天賦てんぷ情合じょうあいが、子を取扱う方法の如何いかんって変るはずがない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第一此罪人を男か女かとお考えなさい、アノ傷で見ればしぬる迄に余ほど闘った者ですが女ならアレほど闘う中に早く男に刃物を奪取うばいとられて反対あべこべに殺されます、又背中の傷はにげた証拠です
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
茶袋だと此方で一本といふところを反対あべこべにもう廃せと云ひますは、あゝ好い心持になりました、歌ひたくなりましたな、歌へるかとは情ない、松づくしなぞは彼奴に賞められたほどで
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
お徳はどうかすると譏謔あてこすりを言い兼ないがお源さんにそんなことでもすると大変よ、反対あべこべ物言ものいいを附けられてどんな目にうかも知れんよ、私はあの亭主の磯が気味が悪くって成らんのよ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
お前の阿母おっかさんや𤢖わろだろう。それだから、若旦那の方こそお前さん達をうらんでもいのに、お前さんの方で反対あべこべに若旦那を怨むなんて、早く云えば外道げどう逆恨さかうらみで、理屈が全然まるで間違っているんだよ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
反対あべこべ眉間みけんに石をたゝき付けられて、傷を負つた者は幾人いくたりもある。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
で、これを反対あべこべ他人ひとに芸をさせて、それで食つてく事が出来たなら、そんな結構な事はない筈だと、色々思案の末が、ふといゝ考へを思ひついた。
かっしゃるのは反対あべこべに秋谷の方じゃ。……はてな、と思うと、変った事は、そればかりではござりませぬよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
成程、父の厳しい性格を考へる度に、自分は反つて反対あべこべな方へ逸出ぬけだして行つて、自由自在に泣いたり笑つたりしたいやうな、其様そん思想かんがへを持つやうに成つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
門から玄関までの長い家へ行くと帰途かえりには出て来てから屹度反対あべこべの方角へ向う。子供の時分の話だが、自分の学校が分らなくなって巡査に訊いたことさえあるんだからね
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
だから、恐らく学問などは習う必要はないだろう。ひとつ反対あべこべに弟子でも取って、お前さんの方で教授するかな。……いや待ったり他のことがある、生花や茶の湯を習うがいい。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ御米に遠慮がある上に、それほど気が進まなかったので、つい口へ出さなかったまでだから、細君からこう反対あべこべに相談を掛けられて見ると、もとよりそれをこばむだけの勇気はなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次に又もう一本同じ位の毛をお抜なさい、イエナニ何本も抜には及びません唯二本で試験の出来る事ですからわずかもう一本です、爾々そう/\、今度は其毛を前の毛とは反対あべこべに根を左り向け末を右向て
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
(おや、反対あべこべに往ってたか)
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
西洋の習慣で男子の外套は左から右に合はせるのに、女子のはそれと反対あべこべに右から左に合せることになつてゐるが、その理由わけを知つてゐる人はたんと有るまい。
むこうが使ってる道具を反対あべこべにこっちで使われたんだね、別なこたあねえ、知事様がお豪いのでござりますだ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「シッカリものだが何だ」こう以前の自分とは反対あべこべなことを言って、家へ戻って来た。彼は自分の家の内に、居ないおせんを捜した。幾つかある部屋部屋へ行って見た。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)