先達せんだつ)” の例文
諏訪、上原の合戦では、糧道の先達せんだつに道を教えなかったら、村はなへ煙硝を仕掛け、一郡七カ村を跡方もなく噴き飛ばしてしまった。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
代助はやがて書斎へ帰つて、手紙を二三本いた。一本は朝鮮の統監府に居る友人あてで、先達せんだつて送つて呉れた高麗焼の礼状である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
このさばけた先達せんだつを見送ろうとして、よく鎗錆やりさびを持出した画家と勧進帳かんじんちょうを得意にした画家とはダンフェール・ロシュルュウの方面から
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『集団行進』の中に辛うじて二人の先達せんだつを送った婦人の大衆はまだまだ「やさしい婦人の歌心」という程度のところに引止められていて
滝見たきみ屋といふところで、腹をこしらへ、弁当を用意し、先達せんだつを雇つていよいよ出発したが、この山越は僕には非常に難儀なものであつた。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「娘が長年の病氣を治して貰ひました。嫁入前の十九でございます。その御恩報じに、番頭と一緒に先達せんだつ樣の御世話を引受けて居ります」
探るも氣の毒なり一行はながらにして名所を知るの大通なる上露伴子といふ先達せんだつあり云立を並べんとする小僧の口を塞ぎ座敷を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
仮りに私が先達せんだつでありとしましても、それは諸君を治めるという意味の立場でなく、諸君に物を相談するという立場でありたい。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
四郎右衞門先々まづ/\引止ひきとめ下女に云付さけさかなを出し懇切ねんごろ饗應もてなして三郎兵衞を歸しけり其後三月十日に三郎兵衞二十兩加賀屋へ持參ぢさん先達せんだつての禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もと吉野山参りの先達せんだつをなんべんもやった亀菊かめぎくさんは、ひさしぶりに鳴らしてやろうというので、宝蔵倉ほうぞうぐらからほら貝をとり出してきました。
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「あの先達せんだつになってゆく男は、たしかこの間川長かわちょうの座敷で隣合った阿波侍……たいそうぎょうさんな身支度で、一体どこへゆくのかしら?」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなたの許婚いいなずけ右京次郎殿、例によって先達せんだつとなり、水晶山の人足ども、明十日の払暁ふつぎょうに、黒姫山を逃げようと企てておるのでございますぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一、翌日より大工頭、下奉行等社家しゃけ一同の先達せんだつにて、御本社ごほんしゃ、拝殿、玉垣を始め、仮殿かりでん御旅所おたびしょにいたるまで残らず見分。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのころハイカラな商売とされた斯界しかい先達せんだつであり、その商売に転向した多勢の佐倉藩士の一人で、夫人も横浜の女学校出のクリスチャンであり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼は立上り、一生懸命にしっかりした上、アイヌの先達せんだつに助けられて、再び馬に乗った。我々が乗った馬のあるものは、不埓きわまる毛物である。
おれ先達せんだつ先祖せんぞ計算けいさんをして、四十代前だいまへおれ先祖せんぞすうが、一まん九百九十五おく二千一百六十二まん五千七百七十六にんだといふ莫大ばくだい數字すうじ發表はつぺうしたときには
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
しかし案内者や先達せんだつの中には、自己のオーソリティに対する信念から割り出された親切から個々の旅行者の自由な観照を抑制する者もないとは言われない。
案内者 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
否むしろ先達せんだつたる大都市が十年にして達しえた水準へ五年にして達しうるのが後進たる小都市の特権である。
松江印象記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幾人も寄ってたたく中には、おのずからたたき馴れた先達せんだつがあって、先ず範を示してこうやれという。その結果は
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
としとったがんが、かれらの先達せんだつでありました。つぎにりこうなエスがんと、勇敢ゆうかんケーがんがつづきました。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
主命との御諚ごじょうござりますれば致し方厶りませぬ。千之介がけわしく叱ったのも無理からぬこと、実は波野と二人してこの怪談を先達せんだつてある者から聞いたので厶ります。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
東京の庚申講の先達せんだつであって、この人が庚申山から皇海山に至る道を開き、そこを奥院とした。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
宇治の属する大隊は旅団の先達せんだつとして、その前日すでに盆地に入っていた。最後尾の大隊が砲撃を受けたと言う報告が来た時、宇治はほとんど信ずることが出来なかった。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
先達せんだつの仁右衛門は、早やその樹立こだちの、余波なごりの夜に肩を入れた。が、見た目のさしわたしに似ない、帯がたるんだ、ゆるやかな川ぞいの道は、本宅から約八丁というのである。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが耶蘇やそ教主義の学校でして、その教師のなかにまだ若い御夫婦の方でしたが、それは熱心な方がありましてね、この御夫婦が私のまあ先達せんだつになってくだすったのですよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
井上さん与重よぢゆうさんなど先達せんだつで相談最中なさうですよ、先生、うして下ださる御思召おぼしめしですか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
皮膚の建築、ニヒリズムの舞踏、われらの先達せんだつ、おお、今こそ彼らは真に明るく生き生きと輝き渡っているではないか。万歳——参木は思わず乾杯しようとしてグラスを持った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
亥「へえ…なんだって豊島町の富士講の先達せんだつだの法印が法螺ほらの貝を吹くやら坊主が十二人」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
出立の前夜、文吾の母は、いろ/\に心配して、先達せんだつ源右衞門の家へ尋ねて行つた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
而してトルストイ伯の如きはみづか先達せんだつとなりて、是等の農民を救ひつゝあるなり。
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
私の女郎買とバクチの先達せんだつ大和屋惣兵衛やまとやそうべえ、又の名を大惣だいそうという男が居りました。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あとに残されたのは町内の薪屋まきやの亭主五兵衛と小間物屋の亭主伊助で、この二人は信者のうちの有力者と見なされ、いわゆる講親こうおやとか先達せんだつとかいう格で万事の胆煎きもいりをしていたのである。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある人、これを御嶽講おんたけこう先達せんだつに占わしめしに、時次郎の亡妻たたりをなすなりといいし由。もっとも、そのホヤはそのまま同家に保存しある由なれば、なにびとにても、なお見ることを得べし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
思いのほかに人の雑鬧ざっとうもなく、時おり、同じ花かんざしを、女は髪に男はえりにさして先達せんだつらしいのが紫の小旗こばたを持った、遠い所から春をってめぐって来たらしい田舎いなかの人たちの群れが
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ホームズやヂュパンには読者は到底ついて行くことが出来ず、いわば「先達せんだつは雲に入りけり」の感があるが、カリングと歩いていると、どうかすると自分の方が先になれそうに思えることがある。
ヂュパンとカリング (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
聞えないかの低い声で鼻唄はなうたをうたいながら歩いている源吉爺さんを先達せんだつにして、トヨは毎日の道順にしたがい、のきの傾いた商家がたち並んでいる広い村道から、ほこりっぽい田圃径たんぼみちへと通り抜けてゆく。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
木の葉一枚動かない沈鬱なる空の下に、案じたほどのこともなく向う岸へ渡り、崖の上へ立って振り返ってみると、白衣の道者の一連が来て、大沢の手前でうずくまり、先達せんだつがお祈りを上げている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そうして「先達せんだつの心中のたけ、今の学人も思ふべし」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
春の山比叡ひえ先達せんだつ桐紋きりもん講社かうじや肩衣かたぎぬしたる伯父かな
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
雲突く修驗山伏すげんやまぶしか、先達せんだつあとふんでゆく。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
先達せんだつに連れてささぐる歌ごゑも
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
滝見屋たきみやというところで、はらをこしらえ、弁当を用意し、先達せんだつを雇っていよいよ出発したが、この山越やまごえは僕には非常に難儀なものであった。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「娘が長年の病気を治して貰いました。嫁入り前の十九でございます。その御恩報じに、番頭と一緒に先達せんだつの御世話を引受けております」
そういう中で、最も古いところに着眼して、しかも最も新しい路をあとから来るものに教えたのは国学者仲間の先達せんだつであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
では、日本で本当に天照大神のお光をわが身に体験した先達せんだつは誰かとお尋ねになれば、それは黒住宗忠公でございますね。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これに反して、佐川のむすめの方は、つい先達せんだつて、写真を手にしたばかりであるのに、実物にせつしても、丸で聯想がうかばなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あがなふには首代くびだいと云ふ事あり先達せんだつて其方伯母より借たる雜物ざふもつは富松町質屋六兵衞方にて五十兩借請かりうけ其金を以て小間物荷を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もと、その修験者は、京都の聖護院しょうごいん御内みうちにあって、学識も修行も相応にすぐれた先達せんだつのように承っております。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「立ち聞きしました、立ち聞きしました! ……聞けば何んとあの先達せんだつ様は、おそれ多い大塔宮様!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
茸爺きのこぢゞい茸媼きのこばゞともづくべき茸狩きのこがりの古狸ふるだぬき町内ちやうない一人ひとりぐらゐづゝかならずあり。山入やまいり先達せんだつなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)