もう)” の例文
盗賊とうぞくどもは人形をおどらして、金もうけをするつもりでしたが、中にさるがはいっていないんですから、人形はおどれようわけがありません。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
借りた方は精々せっせっり出して、貸元かしもとの店へ材木を並べるばかり。追っかけられて見切って売るのを、安く買い込んでまたもうける。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やはり吉を大阪へやる方が好い。十五年も辛抱しんぼうしたなら、暖簾のれんが分けてもらえるし、そうすりゃあそこだから直ぐに金ももうかるし。」
笑われた子 (新字新仮名) / 横光利一(著)
と母親が云った、「権右衛門ごんえむさんは金もうけのためならどんな事でもするし、儲かりそうな金のためならそれ以上のことをしますからね」
金持の連中もまた、もうけたい奴は盛んに儲け、儲けた上に莫大の配当をしました。そうして、大ビラで贅沢ぜいたく僭上せんじょうの限りを尽しました。
ふところの金よりはその腰のものを奪うのが目的である。当時、日本刀は荷抜屋ぬきやの一番もうかる品で、また一番買い占めにくい品でもあった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……そいつは冗談だが、こいつはもうけ話なんだ。相手は屹度きっと買うよ。彼奴等あいつらはきっと今朝がた、留置場りゅうちじょうのカンカン寅と連絡をしたのだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
で、このオールド・ミスは、実にやりくりがまずい。というのは、できるだけ少くもうける工夫をしているとしか思えないのである。
いくらもうけたの、やれ、身体がいくつあっても足りないのなどと、オダをあげたりするんで、おやじは一層おもしろくないんですな
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
それで直段ねだんは胡麻の油の三倍も高く取ってもうかる儲かるとよろこんでいます。実に今の世の不徳義な商人ほど不埒ふらちなものはありません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いえ——吾夫やどでも、小泉さんに御心配を掛けては済まない、そのかわりもうけさして頂く時には——なんて、そう言い暮しましてね。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういう戦争に参加して、自称するごとくいくらか「ぜにもうけ」て、それから彼はモンフェルメイュにきて飲食店を開いたのであった。
叔父はそのころから株に手を出したり、礦山こうざんの売買に口を利いて、方々飛び歩いたりした。そしてもうけた金で茶屋小屋入りをした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たゞ、二三年来の幸運で、金だけは相当もうけました。私は、今何に使っても心残りのない金を、五百万円ばかり現金で持っています。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すなわち金をもうけるのも儲ける道を純白にし、卑怯ひきょうな方法にて儲くれば、これ奮闘ふんとうの敗北なりとみなし、また高き位地を得るにしても
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もうけ仕事というんなら、いくらでも乗りやすぜ——このごろ、ずッと勝負できが悪くって、すっかりかじかんでいるんですから——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
宿のあるじは、彼がそこに滞在する間は、心持ちは親がわりであった。商いは水ものであった。もうけが無ければ翌年まで宿料を貸した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
私が巨万の富を蓄えたとか、立派な家を建てたとか、土地家屋を売買して金をもうけて居るとか、種々なうわさが世間にあるようだが、皆うそだ。
赤木医師の話によると、インチキ病院のひとつで、精神病院というのは経営次第によっては、なかなかもうかるものだそうですな。
凡人凡語 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
太夫元の藤六は、米櫃こめびつのお松に死なれた上、うんともうかっていた小屋にケチが付くのを心配して、すっかりしおれ返っております。
桐沢氏の次男がお嬢さんの婿になって、若夫婦のあいだにはすでに男の児がもうけられていることを、わたしもかねて知っていた。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼の手柄は実に偶然のもうけ物で、裏面に潜んでいる耻ずかしい動機が露顕することを考えたら、とても恐ろしくなるのであった。
と、おかあさんはいいました。海蔵かいぞうさんは、せんだって利助りすけさんが、山林さんりんでたいそうなおかねもうけたそうなときいたことをおもいだしました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
これこそ、全くそっくりではないか! そこでは誰をもはばからない「原始的」な搾取が出来た。「もうけ」がゴゾリ、ゴゾリ掘りかえってきた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
漢書かんじょ匈奴伝きょうどでんには、その後、李陵の胡地でもうけた子が烏籍都尉うせきといを立てて単于とし、呼韓邪こかんや単于ぜんうに対抗してついに失敗した旨が記されている。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
父はああいう奇人で、もうける考えもなかったのですが、この興行が当時の事ですから、大評判で三千円という利益があった。
しなければならぬ。正義だの、人道だのということにはおかまいなしに一生懸命もうけなければならぬ。国のためなんて考える暇があるものか!
私の父は代議士のほかに新聞社長と株式取引所の理事長をやり、私慾しよくをはかればいくらでももうけられる立場にいたが全く私慾をはからなかった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
二度目の妻が死んで、五十近くなった時、一寸ちょっとした投機でかなりもうけ、一生独りの生活には事かかない見極めのついたのを機に職業も捨てた。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
古くからこの土地で小さな下駄屋を遣っていたが、もうけた金は病人の女房の養生費にアラカタぎ込んでいたものだという。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのお金だって、いちどきに沢山もうける実業家ではなし、大臣は貧乏だったから、なかなかあれでも心にかけて積んでおいて下さったのです。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼は元商人だったが、前もって定めておいた一定額の財産をもうけるとただちに、きっぱりと仕事をよしてしまったのだった。
……小判、大判、太鼓判と来ては、どいつもこいつも、血眼ちまなこになってもうけよう、儲けようとするんだからな。儲けると今度はひし隠しにする。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一人の女の子をもうけた夫婦が、後にその子だけを家に残して、妻の国へ行ってしまったというような話が、久しい間宮古島では信じられていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
骨を折らないで手っとり早くれ手であわもうけがしたいというんです! みんな据えぜん目当ての生活をしたり、人のふんどしで相撲を取ったり
「先生、飴というものはなかなかもうかるものでげして、わずか五銭のもと手でその時三十銭から四十銭にはなりました」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
ある時はずるい作り方を覚えたり、うわべだけよく見せかけることなどをも考えました。もうけることに熱心になると、とかく正直な仕事を忘れます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
僕が帰ることになったとき、先に払った同人費をかえすからというとき、僕は心の中で、五円もうかった、と叫んだのです。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
並々の見世物でなくて、大人の二人にも、かなりのスリルを感じさせるのは、謂わば予期しなかったもうけものであった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「今夜のおかずは手紙じゃのう、ああもうけた、儲けた」と冗談をいう。重吉はなお笑いつづけ、左手を顔の前で振った。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
そのぜにを一手に引受ひきうけ海外の市場に輸出しおおいもうけんとして香港ホンコンに送りしに、陸揚りくあげの際にぜにみたる端船たんせん覆没ふくぼつしてかえって大にそんしたることあり。
そして、お君が賃仕事でもうける金をまきあげた。豹一が高等学校へはいるとき、安二郎はお君に五十円の金を渡した。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
ことに四、五日も続けて雨に降られた時には、一文のもうけもなくて、三度三度の食事はおろか一日一度の食をさえ取り得ないといった状態になった。
「だっておめえ、らねえもなァ仕方しかたがねえや。——いってえ、あのなまものが、どこでそんなにもうけやがったたんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
手前も存じてる通り、只今其の方が申した医者の娘、お秋のかたもうけられた菊さまという若様がある、其のかたを御家督に立てたいという慾心から
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
金をもうけることは己れのために儲けるのではない、神の正しい道によって、天地宇宙の正当なる法則にしたがって
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
その壺でもうけたある骨董屋こっとうやの事を考える。同様にまた彼らが一人の美女を見る場合にも、この女の容姿に盛られた生命の美しさは彼らには無関係である。
享楽人 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
伊作はある年の夏、橋のたもとに小さな居酒屋をこしらえましたが、村には一軒も酒屋がなかったので、この居酒屋が大層繁昌はんじょうしてだんだんもうかって行きました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
写真屋の資本のらない話、資本も労力も余り要らない割合には楽にもうけられる話、技術が極めて簡単だから女にでも、少し器用なら容易に覚えられる話
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
わたしはそれで、多くのせわしい大都市の商人が、そして反対側からはひともうけしようという田舎の商売人がこの町の界隈にはいりこんでくるのがわかる。