つぐな)” の例文
それだけでも既にこのダムの建設に要した経費は、十分につぐなわれたといっていいかも知れない。ところが、更に驚くべきことがある。
アメリカの沙漠 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これを化して良田沃野となして、外に失いしところのものを内にありてつぐなわんとするのがそれがダルガスの夢であったのであります。
ぱう貿易外ぼうえきぐわい受取超過額うけとりてうくわがく毎年まいとしおく六七千萬圓まんゑんあるから大體だいたいおい昨年さくねん海外支拂勘定かいぐわいしはらひかんぢやう受取勘定うけとりかんぢやうつぐなることとなつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
平次の探索が身近く來て、不意にお桃の方へ外れると知るや、忠義な番頭の佐助は其處で首をくゝつて、罪のつぐなひをして了つたのです。
その消息の端に、「——あやまって、雨露次の妻へ、毒物を与えた。過失といえ、悔恨にたえぬ。何とか、罪のつぐないをしてやってほしい」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イエ何、御方様の御指図でござりましたので、……私はただ私の不調法をつぐないましょうばっかりに、一生懸命に致しましたことで。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
領主 ロミオはチッバルトを、チッバルトはマーキューシオーをころしたとすれば、マーキューシオーのつぐなふべきものれぢゃ?
家賃や間代を先取した家主が店子たなこに向って濡れた着物の損害をつぐなってやった話は聞いた事がない。大岡政談などにも無かったようである。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、その程度のつぐなひとして充分あの時追悼ついとうはしてやつた——彼はまた幾らか奉公人に酷な所もなかつたかと省みられるふしもないではない。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ここで神樣たちが相談をしてスサノヲの命に澤山の品物を出して罪をつぐなわしめ、またひげ手足てあしの爪とを切つて逐いはらいました。
神の愛は彼女のやうな愛をつぐなつて余りある程大きなものではない。兄弟よ、之がわしの若い時の話なのだ。忘れても女の顔は見ぬがいゝ。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
和煦わくの作用ではない粛殺しゅくさつの運行である。げんたる天命に制せられて、無条件に生をけたる罪業ざいごうつぐなわんがために働らくのである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隣国支那シナでいう聘金へいきんが、今までの養育費をつぐなう意味であるらしきに反して、此方こちらは是から入用なものを貰って行くかわりである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
じっと其の声に聞き入りながら、もう大分移った六日月の影を眼で追って、私は始めて今日一日の騒がしい行動のつぐないをなし得たと思った。
六日月 (新字新仮名) / 岩本素白(著)
士はあやまちなきを貴しとせず、過を改むるを貴しと為す。善く過を改むるはもとより貴しと為すも、善く過をつぐなうを尤も貴しと為す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
而して自らの受けたる害をつぐなふことを得るは、甚だ稀なる塲合なり。己れが受けたる害の為に、対手あひてに向つて之に相当なる害を与ふるにあり。
復讐・戦争・自殺 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
是故に己が價値ねうちによりていと重くいかなる天秤はかりをも引下ひきさぐる物にありては、他のつひえをもてつぐなふことをえざるなり 六一—六三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「いや、どうもこの頃は咽喉のどを痛めているもんですから——それより『城』の売行きはどうです? もう収支つぐなうくらいには行くでしょう。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
姫の咎は、姫があがなふ。此寺、此二上山の下に居て、身のつぐなひ、心の償ひしたと姫が得心するまでは、還るものとはおもやるな。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
僕もそんな不愉快なことほぜくり返す気イないねんよって、こいから後、本気で罪のつぐないする決心あるかないか、それ聞かしてくれたらええ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
父は始終、伯父が私たちに財産をのこして呉れることによつて失敗のつぐなひをしてくれるだらうといふ望を抱き通してゐました。
世の中に人間ほど貴い者はない、物はこれをつぐなうことが出来るが、いかにつまらぬ人間でも、一のスピリットは他の物を以て償うことは出来ぬ。
我が子の死 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
それは、自分の失策をつぐなうために、京子を愧死きしせしめることである。人間として、そんなことは死んでもいえなかった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だからそれをつぐなうために米友を片輪にしたら承知ができるだろう。しかし米友は跛足であってもう片輪になっている。
その眼付は慈悲を施して罪のつぐないをするようにと私に懇願したのでした。それで、助力と権力とを求めましたが無駄だったので苦しんでいるのです。
お身はまだはずかしいことを知っているし、その羞かしいもののつぐないを世の人におくる善良さを持って、それを挨拶あいさつとして殿中と別れようとしていられる
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
人殺しの罪をつぐなうためか、それとも病苦に堪えないためか、それらを説明するような書置なども残してなかった。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、いずれにしても、専務が自分の食い込みを、無価値な担保を有価値に見せかけてつぐなっている以上、その欠損は早晩表面に現れるに違いなかった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
……私は貴女に思う存分に恨みを晴らして頂くよりほかに父の……父の罪のつぐな方法かたを知らないのですから……。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
した揚句あげく、自殺と出掛けても娑婆から借金取りが無線で押し寄せるなぞ、洒落しゃれにもならない。この世の悪事は、すべてみずからがつぐなわねばならなくなるわけだネ
十年後のラジオ界 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
政府もし国法の趣意を達すること能わずして人民に損亡を蒙らしむることあらば、そのたかの多少を論ぜずその事の新旧を問わず、必ずこれをつぐなわざるべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
……つぐないも捨てた。……僕は世捨人よすてびとだ。僕はたったひとりだ。僕は世間の者達からは気違いとして葬られた。都では、ただ一人の正しいものをこう呼んでいる。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
ふり立て如何に請人六右衞門此久八の盜賊たうぞくめが五十兩と言大金をおのれおごりに遣ひ捨て引負ひきおひなしたる上からはすぐに當人久八を引取ゆき五十兩の金子をつぐなひたる上本金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
聴かないもんだから、今じゃそのつぐないをしなけりゃならん。みんな身から出た錆だ。誰も怨むでないぞ。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それはある場合ばあひ、あるこゝろ状態じやうたいの時には、さういふことも考へないではなかつたけれど、離婚りこんをもつてそのくいつぐなふものだとはけつして思はなかつたらうと思ひます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
宝石商ほうせきしょうは、このそんをきっとつぐなうだけの宝石ほうせきをもう一きたくにへいってあつめてこなければならないと決心けっしんしました。かれあたまなかはそのことでいっぱいになりました。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『ほかにもわけはありましょうが、神様はわしをここに置いて、村の人達がひどくしたお前さん方に、出来るだけのつぐないをするようにとのお心だと思いますのじゃ。』
金でつぐなうにも償えぬ過失をした時の辛さったらなかった。私は時々、金の代りに体刑を課せられた。
雖然其苦痛をつぐなふだけの滿足もあツたのだから、何うにか此うにかおツこらへては經てゝ來た。滿足とはガラスをすかして見てゐた花を手に取ツて頬ずりしたことであツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
反対にまた、この苦悩のつぐなひとして払はれるには、安すぎるとの腹立しさもないでもない。いづれにしても、人間の精神が愚弄ぐろうされてゐるやうな憂欝が頭をもたげて来る。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
『やっぱりあいつがやったんだわい』と大屋さんはまたこのことを云いふらしたそうですが、その実お侍さんは、大事な刀を売りはらって、その金でつぐなったのだそうです。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間これから学生となるべき者たちは学校に自分たち自身を適応させつつあるといわれる。こういった手落ちのためにつぎつぎの世代がつぐないをしなければならないのだ。
「まァ放してみるがいい。もし鶉が死んでしまったら、その方に十分つぐないをしてとらせる。」
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
自分はそこに自分の過失をつぐない、生かし、いなむしろその過失によっていっそう完きものに近づく知恵を獲得することができたと思っている。この書はその過程の記録である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「今度は発憤したんだからつぐないをつける。早速だ。何か話し給え。読んだ本があるだろう」
田園情調あり (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いよいよ出立しゅったつの日妾に向かい、内地にては常に郷里のために目的をさまたげられ、万事に失敗して御身おんみにまで非常の心痛をかけたりしが、今回のこうによりて、いささかそをつぐない得べし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
海抜高一、六○○米、気温は最高二五度、最低六度のところで、玄武岩質の赤土地帯で、茶の生育には、気候条件の不利をつぐなつてあまりある由なのだと、富岡が説明してくれた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
しかしそのつぐないにともちゃんを得た以上、不平をいわないでくれ。な、そうしておまえは新たに戸部の弟として新生面を開いてくれ。俺たちはそれを待っているから。じゃさよなら。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あの十字架にかかったキリスト、一切の人々の罪をつぐなうために、すべての人々の救済すくいのために、十字架にかかったとすれば、そのキリストのこころこそ、まさしく菩薩のこころです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
不景気の折に一円三十銭で雇い入れたままであり、人間も多少は入れかわったが、最初は六人居ったが、収支がつぐなわず、現在では四人居るのだが、一人だけ上げるわけには行かないから
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)