「いけませんよ、とど助さん。空ッ腹の鬱憤ばらしにあんな恐い声を出しちゃ、とても商売にはなりません、やめてもらいましょう」
顎十郎捕物帳:17 初春狸合戦 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「いえ、羅刹谷へは、しょせん手が出せませぬ。それに代るべつな女性を、小松谷から奪って、ご鬱憤に供えたいと存じますので」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あの雨の夜、左膳が片思いの相手をつれだして源十郎のこがれるお艶と、栄三郎を仲に醜い角突き合いを演じさせ、ひそかに鬱憤をはらそうとしたものの
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
プロレタリア作家には、広告を相手に鬱憤を洩らすよりも、もっと重大な仕事があるのではなかろうか。
文芸は進化するか、その他 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
それは一つは、彼女の身分が男の方とは違って、名門であり富有であったから、一種妙な、日頃の鬱憤をはらしたような、不思議な反感と侮蔑をもって、嘲弄的だった。
その顔の色で万策の尽きたことを知ったものか、伝六がそばから伝六なみの鬱憤を漏らしました。
右門捕物帖:02 生首の進物 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
小桜姫物語:03 小桜姫物語 (新字新仮名) / 浅野和三郎(著)
そこでこの土地にいる間は、近在近郷へ出かけて行って、鬱憤ばらしの乱暴をやったり今度のように他国へ走って、羽根をのして一月でも二月でも、遊びほうけて帰らなかったりするのさ。
兵士らは退屈でたまらないので、百姓らに向かってその鬱憤を晴らしていた。百姓らを無遠慮に嘲笑し、ひどくいじめつけ、その娘らにたいしては、征服地におけると同様の振舞いをしていた。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗 (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
小僧は鬱憤のあまり刀をもって寺の本尊なる木製の仏像を切ったところが、仏像の眼に涙が出たとの噂が広まって、そのため日々数千人の参詣者があって、寺は大繁昌であるとの記事があったが
イエス伝:マルコ伝による (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればこそ、寝入りながら、「つまらねえなあ」と嘆息したのも、この監視つきに対してのやる瀬なき鬱憤を漏らしたものと見れば、見られないこともないのです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仕方がないとは思ったけれども、多年の鬱憤と苦心とを、こんなに露骨に冷笑されてしまったのは初めてのことでありました。それだから、その心中は決して平らかではありません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「この男です。この男が足下のことをあまり讒言するので、つい口に乗ったわけで——。どうかこれをもって、鬱憤をなぐさめてくれ給え」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)