風采とりなり)” の例文
が、串戯じょうだんではありません、容色きりょう風采とりなりこの人に向って、つい(巡礼結構)といった下に、思わず胸のせまることがあったのです。——
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白足袋のつまはずれも、きりりと小股こまたの締った風采とりなり、このあたりにはついぞ見掛けぬ、路地に柳の緑を投げて、水を打ったる下町風。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十四日の月の有明に、片頬を見せた風采とりなりは、薄雲の下に朝顔のつぼみの解けた風情して、うしろ髪、打揺うちゆらぎ、一たび蚊帳を振返る。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母親はゝおやは五十ばかり、黒地くろぢのコートに目立めだたない襟卷えりまきして、質素じみ服姿みなりだけれど、ゆつたりとしてしか氣輕きがるさうな風采とりなり
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(ああ、そう。)と会心のえみもらして婦人おんな蘆毛あしげの方を見た、およそたまらなく可笑おかしいといったはしたない風采とりなりで。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
燈火ともしびに対して、瞳すずしゅう、鼻筋がすっと通り、口許くちもとしまった、せぎすな、眉のきりりとした風采とりなりに、しどけない態度なりも目に立たず、繕わぬのが美しい。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(あゝ、う、)と会心くわいしんゑみらして婦人をんな蘆毛あしげはうた、およたまらなく可笑をかしいといつたはしたない風采とりなりで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
といいかけてまず微笑ほほえみぬ。年紀とし三十みそじに近かるべし、色白くかおよき女の、目の働き活々いきいきして風采とりなりきゃんなるが、扱帯しごききりりともすそを深く、凜々りりしげなる扮装いでたちしつ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その人柄、風采とりなり、姉妹ともつかず、主従でもなし、親しい中の友達とも見えず、従姉妹いとこでもないらしい。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人柄ひとがら風采とりなり※妹きやうだいともつかず、主從しうじうでもなし、したしいなか友達ともだちともえず、從※妹いとこでもないらしい。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と立派に言い放ち、お柳はたちまふるいつくように、岸破がばと男の膝にほおをつけたが、消入きえいりそうな風采とりなり
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立派りつぱはなち、おりうたちまふるひつくやうに、岸破がばをとこひざほゝをつけたが、消入きえいりさうな風采とりなり
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小宮山は、亭主といい、女中の深切、お雪の風采とりなり、それやこれや胸一杯になりまして、思わずほろりと致しましたが、さりげのう、ただうなずいていたのでありました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みだれし風采とりなり恥かしや、早これまでと思うらん。落した手毬を、わらわの、拾って抱くのも顧みず、よろよろとたちかかった、蚊帳に姿を引寄せられ、つまのこぼれた立姿。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうをゆら/\と身動みうごきしたが、はしたなき風情ふぜいえず、ひとなさけ汲入くみいれた、やさしい風采とりなり
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
稲葉家のお孝は冷くなった、有合わせの猪口ちょこ呼吸いきつぎにぐい、と一口。……で、薄ら寒いか両袖を身震いして引合わせたが、肩が裂けるか、と振舞は激しく、風采とりなり華奢きゃしゃに見えた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人がその風采とりなり、その容色きりょうで、看護婦を率いたさまは、常に天使のごとく拝まれるのであったに、いかにやしけむ、近い頃、殊に今夜あたり、色艶すぐれず、円髷まるまげも重そうに首垂うなだれて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
微笑ほほえみながら、濃い茶に鶴の羽小紋の紋着もんつき二枚あわせ藍気鼠あいけねずみの半襟、白茶地しらちゃじ翁格子おきなごうしの博多の丸帯、古代模様空色縮緬ちりめん長襦袢ながじゅばん、慎ましやかに、酒井に引添ひっそうた風采とりなりは、左支さしつかえなくつむりが下るが
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やや乱れたか衣紋えもんを気にして、手でちょいちょいと掻合わせるのが、何やら薄寒うすらさむそうで風采とりなりも沈んだのに、唇が真黒まっくろだったは、杜若かきつばたく墨の、紫のしずくを含んだのであろう、えんなまめかしく
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一目見ても知れる、濃い紫の紋着もんつきで、白襟、長襦袢ながじゅばん。水の垂りそうな、しかしその貞淑を思わせる初々しい、高等な高島田に、鼈甲を端正きちんと堅く挿した風采とりなりは、桃の小道を駕籠かごりたい。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其處そこ病上やみあがりと風采とりなり中形ちうがた浴衣ゆかたきよらかな白地しろぢも、よる草葉くさばくもる……なよ/\とした博多はかた伊達卷だてまき姿すがたで、つひぞないことにはた。とき美人びじん雪洞ぼんぼりつてたのである。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれ高野山かうやさんせきくものだといつた、年配ねんぱい四十五六しじふごろく柔和にうわな、何等なんらえぬ、可懐なつかしい、おとなしやかな風采とりなりで、羅紗らしや角袖かくそで外套ぐわいたうて、しろのふらんねるの襟巻えりまきめ、土耳古形とるこがたばうかむ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれは高野山こうやさんせきを置くものだといった、年配四十五六、柔和にゅうわななんらのも見えぬ、なつかしい、おとなしやかな風采とりなりで、羅紗らしゃ角袖かくそで外套がいとうを着て、白のふらんねるの襟巻えりまきをしめ、土耳古形トルコがたぼうかぶ
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時に、見返つた美女たおやめ風采とりなりは、蓮葉はすはに見えてつ気高く
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)