隣家りんか)” の例文
くさかるかまをさへ買求かひもとむるほどなりければ、火のためまづしくなりしに家をやきたる隣家りんかむかひて一言いちごんうらみをいはず、まじはしたしむこと常にかはらざりけり。
これを機会しおに立去ろうとして、振返ると、荒物屋と葭簀よしず一枚、隣家りんかに合わせの郵便局で。其処そこ門口かどぐちから、すらりと出たのが例のその人。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たって行ったあとのうちをめてかぎを家主にわたしてくれることをたのまれた隣家りんかの人がそのときわたしに声をかけた。
隣家りんかの主人が来て、数日来猫が居なくなった、不思議に思うて居ると、今しがた桑畑の中から腐りかけた死骸を発見した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かげろうののぼる、かがやかしい田畑たはたや、若草わかくさぐむ往来おうらいや、隣家りんか垣根かきねももはなや、いろいろの景色けしきかんで、なつかしいおもにふけると
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
窓の先は隣家りんかのやねで町は少しも見えない。青く深く澄んだ空に星の光りがいかにも遠くはるけく見える。都会のどよみはただ一つの音にどやどやと鳴っている。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
所が私の居る山本の隣家りんか杉山松三郎すぎやままつさぶろう(杉山徳三郎とくさぶろうの実兄)と云う若い男があって、面白い人物。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたし給はれと申しければお專は傳吉の顏を熟々つく/″\ながさて御前樣は盜賊たうぞくに能々見込れ給ひしものと見えたり今朝程けさほどお前樣よりお頼みのよしにてお隣家りんかなる彌太八とか云る御人がくし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
六十一種といふ名香の中に、紅塵、富士煙ふじのけぶりなどは名からして煙つてゐる。一字の月、卓、花は何と近代の新感情を盛ることか。ことに隣家りんかにいたつては、秋深うして思ひ切なるものがある。
香ひの狩猟者 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
荻原は隣家りんかおきなに注意せられて万寿寺に往ってみると浴室の後ろに魂屋たまやがあって、かんの前に二階堂左衛門尉政宣の息女弥子吟松院冷月居尼ぎんしょういんれいげつきょにとし、そばに古き伽婢子とぎぼうこがあって浅茅あさぢと云う名を書き
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この大きな絨毯じゅうたんの上に、応接用の椅子いすテーブルがちょんぼり二所ふたところに並べてある。一方の卓と一方の卓とは、まるで隣家りんかの座敷ぐらい離れている。沼田さんは余をその一方に導いて席を与えられた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隣家りんかからの延燒えんしようふせぐに、雨戸あまどめることは幾分いくぶん效力こうりよくがある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「平常隣家りんか懇意こんいにいたしておるか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くさかるかまをさへ買求かひもとむるほどなりければ、火のためまづしくなりしに家をやきたる隣家りんかむかひて一言いちごんうらみをいはず、まじはしたしむこと常にかはらざりけり。
翌年の春、夫妻は二たび赤沢君あかざわくんを訪うた。白は喜のあまり浮かれて隣家りんかの鶏を追廻し、到頭一羽を絶息させ、しかして旧主人きゅうしゅじんにまた損害を払わせた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ちょうどそのとき、隣家りんか軒下のきしたでは、おとこかたからてんびんぼうろして、四十前後ぜんご女房にょうぼうよごれたちいさな石油せきゆれるブリキのかんをげててきました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
聞付隣家りんかの人々何事やらんと追々おひ/\駈着かけつけ此體を見て大いにおどろうれひに沈みしお菊を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
礼子れいこは外からみさまに母に泣きすがった。いっしょけんめいに泣きすがってはなれない。糟谷かすやにつきながら励声れいせいつませいした。隣家りんか夫婦ふうふんできてようやく座はおさまる。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
去年の暮にも、隣家りんかの少年が空気銃を求め得て高く捧げて歩行あるいた。隣家の少年では防ぎがたい。おつかいものは、ただ煎餅せんべいの袋だけれども、雀のために、うちの小母おばさんが折入おりいって頼んだ。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柿の赤き実隣家りんかのへだて飛び越えてころげ廻れり暴風雨あらし吹け吹け
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのくものは、たか木立こだちえだから、隣家りんかの二かいのひさしへかけているので、となり屋根やねがるか、それともとなりへいうえのぼらなければ、さおがとどかなかったのでした。
二百十日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さてある日用ありて二里ばかりの所へゆきたる留守るす隣家りんかの者あやまちて火をいだしたちまちのきにうつりければ、弥左ヱ門がつま二人ふたり小児こどもをつれて逃去にげさり、いのち一ツをたすかりたるのみ
とられ大酒に醉伏ゑひふし燒死やけじにたるに相違なき由にて其場は相濟あひすみたり是に依て村中評議ひやうぎの上にてお三ばゝの死骸しがいは近所の者共請取うけとり菩提寺ぼだいじへぞはうむりける隣家りんかのお清婆きよばゝと云は常々お三ばゝと懇意こんいなりければ横死わうし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夜目にして黒きはふかき藤浪のしだれたりけり隣家りんかなるらし
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さてある日用ありて二里ばかりの所へゆきたる留守るす隣家りんかの者あやまちて火をいだしたちまちのきにうつりければ、弥左ヱ門がつま二人ふたり小児こどもをつれて逃去にげさり、いのち一ツをたすかりたるのみ
隣家りんかは、薪炭商しんたんしょうであって、そこには、達吉たつきちより二つ三つ年上としうえ勇蔵ゆうぞうという少年しょうねんがありました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
春ふかむ隣家りんかのしろき花一樹ひとき透影すいかげゆゑにいよよおもほゆ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)