開閉あけたて)” の例文
女中も物珍らしく遊びたいから、手廻しよく、留守は板戸の開閉あけたて一つで往来ゆききの出来る、家主の店へ頼んで、一足おくせにでも
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廊下の方から、部屋部屋から、二階からも階下したからも、足音、悲鳴、呶声、罵しり声、物を投げる音、襖障子を開閉あけたてする音が、凄まじく聞こえて来た。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
元来下宿屋に建てたうちだから、建前は粗末なもので、ややもすると障子が乾反ひぞって開閉あけたてに困難するような安普請やすぶしんではあったが、かたの如く床の間もあって
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
はじめての所爲せゐか、ふすま開閉あけたてたびかほこと/″\ちがつてゐて、子供こどもかず何人なんにんあるかわからないやうおもはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どうもこれだけは門の開閉あけたてをするのだから出て行かれては困るな、金だけをやっておいてもらおうか」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「誰が立番なんぞするもんですか、冗談じゃない。……それはね、あなた、玄関の扉を開閉あけたてするたびに、電気仕掛で妾の部屋のベルが鳴るようになっているんです」
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
四幕目は又前のヹルサイユ宮廷の劇場の楽屋で、右手に舞台をなかば据ゑ、開閉あけたてに今演じて居るモリエエルの作の「詐偽さぎ漢」の舞台の人物が見える仕掛に成つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
開ける故兩人は渡世とせいの事なれば那のやうに云ずとも宜さうなものと思ひながらも商賣柄しやうばいがらなれば御不肖ごふせうあれ以來御世話になるも御氣おきどくつきかぎ御借おかりおき家内かないの者に開閉あけたて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だからお前さんさえ開閉あけたてを厳重に仕ておくれならア安心だが、お前さんも知ってるだろう此里ここはコソコソ泥棒や屑屋くずやの悪いやつ漂行うろうろするから油断も間際すきもなりや仕ない。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
格子戸の開閉あけたて静かに娘の出て行った後で、媼さんは一膝進めて、「どうでございましょう?」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「木戸の蝶番てふつがひに油をして、開閉あけたてに音の出ないやうにした奴だ。——その油は、日本橋の通三丁目で賣つてゐる、伊達だて者の使ふ伽羅油きやらゆだ。八、此處に居る人間の頭を嗅いで見ろ」
客車の戸を開閉あけたてする音、プラットフォームの砂利じゃり踏みにじりて駅夫の「山科、山科」と叫び過ぐる声かなたに聞こゆるとともに、汽笛鳴りてこなたの列車はおもむろに動き初めぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
園部の家でなおときどき戸を開閉あけたてする音がするばかり、世間一体は非常に静かになった。静かというよりは空気が重く沈んで、すべての物を閉塞とざしてしまったように深更しんこうの感じが強い。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
家事一切は女中まかせに何一つ口を出さうとしなかつたが、唯一つの癖は戸の開閉あけたてがおそろしく口やかましい事で、どんな場合でも、これだけは厳重にしないと、直ぐ機嫌を悪くした。
廊下にもはめました。欄間らんまもそれにしました。一家の者が開閉あけたての重い不便さを訴へるので、父は仕方なしにそれを浜の道具蔵へしまはせてしまひました。けれど欄間だけは長く其儘そのまゝでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのまゝ座敷牢ざしきらうえん障子しやうじ開閉あけたてにも乳母うば見張みはりのはなれずしてや勘藏かんざう注意ちゆうい周到しうたうつばさあらばらぬこととりならぬ何方いづくぬけでんすきもなしあはれ刄物はものひとれたやところかはれどおなみちおくれはせじのむすめ目色めいろてとる運平うんぺい氣遣きづかはしさ錦野にしきのとの縁談えんだんいまいまはこびしなかこのことられなばみな畫餠ぐわべいなるべしつゝまるゝだけは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、さすが客商売の、透かさず機嫌を取って、ドア隣へ導くと、紳士の開閉あけたての乱暴さは、ドドンドシン、続けさまに扉が鳴った。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの時は実際弱りました。唐紙からかみ開閉あけたてが局部にこたえて、そのたんびにぴくんぴくんと身体からだ全体が寝床ねどこの上で飛び上ったくらいなんですから。しかし今度こんだは大丈夫です」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其方そちらで木戸を丈夫に造り、開閉あけたてを厳重にするという条件であったが、植木屋は其処そこらのやぶから青竹を切って来て、これに杉の葉など交ぜ加えて無細工ぶさいくの木戸を造くって了った。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ひくい天井に只一つ小さな硝子がらす窓があつて寝ながら手をのばせば開閉あけたてが出来る。昼はその窓から日光が直射し、雨の晩などはぐ顔の上へ音を立てて降りかゝる様で眠られないさうである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今日は客でもあったものと見え、時ならず倉の戸の開閉あけたてが強い。重い大戸のあけたては、冴えた夜空に鳴り響く。車井戸のくさりの音や物を投出す音が、ぐゎんぐゎんと空気に響くのである。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いや不束ふつゝかではございますが、こしらへましたもの、貴下あなたのおゆるしがありませんでも、開閉あけたて自由じいうでございます。」
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一幅ごとに残っている開閉あけたて手摺てずれあとと、引手ひきての取れた部分の白い型を、父は自分に指し示した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まアそれで勘弁しておくれよ。出入ではいりするものは重にあたしばかりだから私さえ開閉あけたてに気を
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かれが立てる処より間はるかに隔りたる建物の戸を開閉あけたてする音なるが、一種特別のひびきあれば、闇夜やみにも屠犬児は識別せるなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火鉢を持って出ると、そのあとからまた違った顔が見えた。始めてのせいか、襖の開閉あけたてのたびに出る顔がことごとく違っていて、子供の数が何人あるか分らないように思われた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新らし過ぎて開閉あけたての不自由な障子しょうじは、今でも眼の前にありありと浮べる事ができるが、朝から晩までに何遍となく読み返した大島将軍の詩は、読んでは忘れ、読んでは忘れして
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
叫ぶ声、廊下をとどろと走る音、ふすま開閉あけたて騒がしく、屋根を転覆かえした混雑に、あれはと驚く家令の前へ、腰元一人けつ、まろびつ、蒼くなりて走りで、いきせき奥を指さして
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)